光ファイバー
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光ファイバー (ひかりファイバー : Optical fiber) は、離れた場所に光を伝える伝送路である。
光ファイバーを利用した設備・通信などについては、関連項目参照のこと。
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[編集] 構造
光ファイバーは、屈折率の異なるコアと呼ばれる芯とそれを覆うクラッドと呼ばれる鞘の二重構造になっている。クラッドよりもコアの屈折率を高くすることで、全反射によりコアに光を閉じ込めて伝搬させる構造になっている。コアは、使用する光に対して透過率が非常に高いガラスまたはプラスチックでできている。
また、光ファイバーの表面をシリコーン樹脂で被覆したものを「光ファイバー素線」、光ファイバー素線をナイロン繊維で被覆したものを「光ファイバー芯線」、光ファイバー芯線を高抗張力繊維と外皮で被覆したものを「光ファイバーコード」と呼ぶ。
また、複数の光ファイバー芯線に保護用のシースと呼ばれる被覆をしたものを光ケーブル・光ファイバーケーブルと呼ぶ。
[編集] マルチモード光ファイバー
マルチモード光ファイバー(Multi Mode Optical Fiber)は、光が多くのモード(経路)に分散して伝送されるものである。
シングルモード型と比較して以下の特性がある。
- コア径が太く曲げに強い。
- 光ファイバー同士の接続や光ファイバーと機器との接続が比較的容易である。
- 伝送損失等が大きく長距離伝送に向かない。
- 安価である。
[編集] グレーデッドインデックス型
グレーデッドインデックス(GI:Graded Index)型は、屈折率分布型とも呼ばれ、コアの屈折率が動経方向に対して二次関数的に連続変化するようなものである。
中心から離れるに従って屈折率を小さくしているため、光が徐々に屈折しコアに閉じ込められることになる。また、媒質中の光の速度は屈折率に反比例するため、光の速度は中心から離れるにつれて速くなる。これにより、斜めに進む光と直進する光が端から端まで到達する速度は同じになり、伝送波形が崩れにくい。ステップインデックス型に比べ製造が難しく高価になりがちであるが、高速伝送が可能である。
ガラス製の場合、クラッド外径が125μm、コア径が50μm,62.5μmの2種類があり、10Gbpsで500mの中距離距離高速伝送が可能である。
完全フッ素化ポリマーを使用したプラスチック製の場合、クラッド外径が500μm、コア径が120μmであり、10Gbpsで100mの伝送が可能である。
[編集] マルチステップインデックス型
マルチステップインデックス(MI:Multi step Index)型は、コアの屈折率が動経方向に対して段階的に変化するものである。SI型とGI型との中間的な性質を持つ。
[編集] ステップインデックス型
ステップインデックス(SI:Step Index)型は、コアとクラッドの界面のみで屈折率が不連続に変わるものである。
コアとクラッドの境界面で全反射するような角度で入射させ光を伝送する。しかし、斜めに入射した光が中央を真っ直ぐ進む光より長い距離を進み到達時間が長くなることになり、長距離伝送後に元の波形が崩れてしまうという欠点がある。グレーデッドインデックスに比べ製造が簡単で安価であるが、高速伝送・伝送距離などの特性はやや劣る。
プラスチック製の場合クラッド外径が1000~750μmコア径が980~500μm程度であり、LEDを光源とした400Mbpsで10m程度までの伝送が可能である。音声やビデオの短距離伝送に用いられている。
[編集] シングルモード光ファイバー
シングルモード光ファイバー(Single Mode Optical Fiber)は、光が単一のモードで伝送されるものである。遠距離通信用のガラス製光ファイバーは、この方式が一般的となっている。
ガラス製の場合、マルチモードファイバーと同じくクラッド外径は125μmであるが、コア径が9μm程度と細い。
マルチモード型と比較して以下の特性がある。
- 伝送損失等が小さく長距離伝送に適合する。
- コア径が細く曲げに弱い
- 高価である。
[編集] 汎用シングルモード型(SM)
1310nm帯に零分散波長があるもの。日本国内でNTTやKDDIをはじめとして、幹線に使用されているのが、このシングルモード型である。FTTHで各家庭に引き込まれている光ケーブルにもこのSM型が内蔵されている。
[編集] 分散シフトシングルモード型(DSF)
1310nm帯よりも伝送損失が低い1550nm帯を零分散波長とし、より長距離伝送を可能にしたもの。
[編集] 非零分散シフトシングルモード型(NZ-DSF)
零分散波長を1550nm帯から少しずらすことにより、非線形現象を抑制して波長分割多重(WDM)のときの伝送特性を良くしたもの。
[編集] プラスチック製光ファイバー
プラスチック製光ファイバー(Plastic Optical Fiber)は、 ガラス製の物に比べて以下の点が特徴である。
- 安価である。
- 比重が小さく軽量である。
- コア径が太く曲げに強い。
- 光ファイバー同士の接続や光ファイバーと機器との接続が比較的容易である。
- 伝送損失が大きくその他の特性も良くないため、長距離高速伝送に向かない。
そのため、近距離の伝送に用いられる。
[編集] 材料
クラッド材料には、低屈折率をもつフッ素系ポリマーが用いられる。
コア材料には、高屈折率、透明性、強度などが必要とされる。以下のものが良く用いられている。
[編集] 完全フッ素化ポリマー
完全フッ素化ポリマーは、C-H結合をC-F結合に完全に置換し振動吸収を長波長側へ変化させ、光学損失を軽減するために用いられる。GI型で用いられていて、光学特性の面から注目されている。
[編集] ポリメタクリル酸メチル系
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)系物質は、以下の特性からSI型で用いられている。
- 安価
- 機械的特性が良好
- 可視光の透過性が良好
- 原料からファイバ製品まで完全密閉で連続製造可能。
[編集] ポリカーボネート
ポリカーボネートは、PMMAに比べて耐熱性が高いため、自動車用などに用いられる。
[編集] ポリスチレン
ポリスチレンは、ベンゼン環を有するため可視領域での損失が大きい。
[編集] 含重水素化ポリマー
含重水素化ポリマーは、C-H結合をC-D結合に一部置換し振動吸収を長波長側へ変化させ、光学損失を軽減するために用いられる。強度特性の低下はないが、吸水による光学特性の劣化が大きくなる。
[編集] 製造法
- モノマー製造 :
- モノマー精製 : モノマーの純度を上げて特性の低下を防ぐ。
- 重合 : 一定の分子量になるように反応させる。
- 溶融紡糸 : 溶融した状態で、コアを内層・クラッドを外層とする糸にする。
- 被覆 : 表面に別の高分子を付着させ保護層とする。
[編集] ガラス製光ファイバー
ガラス製光ファイバー(Glass Optical Fiber)は、コア・クラッド共にシリカガラスが用いられる。光を閉じこめて伝搬させるにはコアとクラッドに屈折率差が必要なため、コアには屈折率を上げるためにGe(ゲルマニウム)やP(リン)、クラッドには屈折率を下げるためにB(ホウ素)やF(フッ素)などが添加される。プラスチック製光ファイバよりも伝送損失が小さいため、長距離伝送用の光ファイバーとしてよく用いられる。通信に用いる場合、伝送損失を下げる必要があるため、コア材料は最大の透明度が得られるように高純度のシリカガラスが使われている。特に含水量(OH基)は数ppmまでに低減させている。これにより、伝送損失は0.3dB/km以下に抑えられている。
プラスチック製光ファイバーに比べて以下の特徴がある。
- 伝送損失が小さく特性が良いので、長距離高速伝送に適合する。
- コア径が細く曲げに弱い。
- 光ファイバー同士や光ファイバーと機器との接続に、正確な軸あわせのできる特殊工具や機械的強度のある接続器具が必要である。
- 比重が大きく重い。
- 高価である。
[編集] 製造法
- 母材(プリフォーム)
- 気相軸付け法(Vapor phase Axial Deposition;VAD) :水素と酸素の混合気体の火炎中で、高純度のSiCl4や屈折率に変化を持たせるGeCl4などを燃焼させることにより、不純物の少ないガラスを精製し、種となる棒の上に積もらせ、棒を移動させることにより長くしていく方法である。内周部と外周部で添加物の種類や濃度を変えることによりGI型のコアの形成やコアとクラッドの同時形成ができる。大型の母材を精製する事ができるため、低コストで光ファイバ心線を製造することができる。
- MCVD法(Modified Chemical Vapor Deposition):天然水晶から精製された石英管を、外側から水素バーナーで加熱すると同時に内部にSiCl4やGeCl4などの気体を送り込んで堆積させる方法である。送り込む添加物の種類や濃度をコントロールすることが容易であるため、屈折率分布が複雑なファイバーや、特殊な元素をドープしたファイバーを比較的容易に製造することができる。このようにして内部に物質が積層された石英管をさらに加熱し、中心部をつぶして母材とする。
- 線引き
- 製造された母材を縦方向にして約2000℃にした電気炉にいれ、石英が溶けて自重で糸状に引き伸ばされて垂れてきたものを、保護樹脂で被覆して巻き取り、光ファイバー素線とする。