モルヒネ
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モルヒネ (morphine モルフィン、モヒともいう) はアヘンに含まれるアルカロイドで麻薬のひとつ。分子式 C17H19NO3。分子量285.4。モルヒネからは依存性のきわめて強い麻薬、塩酸ジアセチルモルヒネがつくられる。
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[編集] 概要
塩酸塩・硫酸塩は鎮痛・鎮静薬として種々の原因による疼痛(とうつう)の軽減に有効であるが、依存性が強い麻薬の一種でもあるため、各国で法律により使用が厳しく制限されている。
名前の由来は、ギリシア神話に登場する夢の神モルペウス (Morpheus)。夢のように痛みを取り除いてくれることから。
[編集] 医療への応用
医療においては、癌性疼痛をはじめとした強い疼痛を緩和する目的で使用される。モルヒネは身体的、精神的依存性を持つが、WHO方式がん疼痛治療法に従いモルヒネを使用した場合は、依存は起こらない。薬剤の剤形としては錠剤、散剤、液剤、坐剤、注射剤があり、それぞれ実情に応じて使用される。
軍事用途でも、戦闘による負傷による強い疼痛を軽減する目的で、主に注射剤の形で使用され続けている。資格を持った衛生兵だけが携帯でき、トリアージを行っている間に投与処置を行うこともある。
[編集] 副作用
モルヒネの副作用には依存、耐性のほか悪心嘔吐、便秘、眠気、呼吸抑制などがある。便秘はほぼ 100%、悪心嘔吐は 40%–50% の症例でみられる。眠気はモルヒネ使用開始から1週間の間にみられ、その後は自然に改善することがほとんどである。
[編集] 法的分類
- 日本において、モルヒネは「麻薬及び向精神薬取締法」において麻薬に指定されている。
- イギリスにおいて、モルヒネは「1971年薬物誤用法」 ( Misuse of Drugs Act 1971 ) の基でクラスA薬物として記載されている。
- アメリカ合衆国において、モルヒネは「規制物質法」の基でスケジュールII薬物として分類されている。
- オーストラリアにおいて、モルヒネは「医薬品法」 ( Therapeutic Goods Act 1989 ) の基でスケジュール8薬物として分類されている。
- 国際的には、モルヒネは国際法である「麻薬に関する単一条約」に基づく分類I ( Schedule I ) 薬物である。
[編集] 歴史
1804年、ドイツの薬剤師フレードリッヒ・ゼルチュルナー ( Friedrich Sertürner ) により、初めて分離される。モルペウスにちなみ、モルフィウム ( morphium ) と名づけた。しかし、1853年の皮下注射針の開発までは、モルヒネは普及しなかった。鎮痛の為に用いられ、また、アヘン・アルコール中毒の治療として用いられた。南北戦争ではモルヒネは広く使用され、軍人病(モルヒネ中毒)による40万人を超える被害者を生み出した。また普仏戦争において、同様のことが西欧で起こった。
1874年に、ヘロインはモルヒネを材料に生成された。ヘロインが使用され始めるまでは、モルヒネは一般的に最も誤用された麻薬性鎮静剤であった。