ベドラム
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ベドラム (Bedlam) はイギリスにある世界で最も古い精神病院の一つ。正式名称は王立ベスレム病院 (Bethlem Royal Hospital)。ベスレム病院 (Bethlem Hospital) 、ベツレヘム病院 (Bethlehem Hospital) などとも呼ばれる。現在はイングランドのケント州ベカナムに位置する。
もともとは1247年に Priory of St.Mary of Bethlehem という名前で、貧しい人のための修道院として建てられた。このときの敷地は、現在リヴァプール・ストリート駅の建つビショップスゲート。
ベドラムという呼び名はこのベツレヘム (Bethlehem) が短縮されたものである。
1330年には「病院」として言及され、1403年に最初の精神病者が数人収容されたと記録されている。
1547年にイギリス王ヘンリー8世によって、精神病者のための病院としてロンドン市に委譲された。
その後ベドラムは、収容者に対する残忍な虐待によって有名になる。
建物が老朽化したため、1675年にムーアフィールズに再建された。これ以降を「第二期ベスレム」と呼ぶことがある。
18世紀になるとベドラムは一人1ペニーの入場料を取って見物客を入れるようになり、ロンドン市民は精神病者の奇行を見るためにベドラムを訪れた。
まだ動物園がなかったこの時代に「人間園」としてのベドラムは市民の楽しみとなり、入場料が重要な収入源となっていたという。
1815年にサウスウォークに再移転し、1930年には現在の場所、ケント州ベカナムに移転した。サウスウォークの古い建物は1936年以降、帝国戦争博物館 (Imperial War Museum) になっている。
ベドラムは18世紀の画家ウィリアム・ホガースの A Rake's Progess (『放蕩者一代記』、1735年)にとりわけよく描かれている。
これは裕福な商人の息子トムが、その不道徳な生活の結果ベドラムの監房に送られてしまうというストーリーの8枚からなる絵画で、この時代の、狂気は道徳の低さの結果であるという見方を反映している。
この頃、カルヴィニズムの予定説に基づいて勤勉の精神が説かれたことから、精神病者や浮浪者などは勤労に従事しない「怠け者」と見なされ、道徳的に低い存在と考えられていた。そのため、福祉などが一般の勤勉な市民よりも後回しにされていた。
英語ではbedlamという単語は精神障害者の保護施設一般を指す言葉として長く使われ、後に「騒ぎ」や「混乱」を意味するようになった。