パニック障害
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
パニック障害(パニックしょうがい)は、強い不安感を主な症状とする精神疾患の一つ。パニックアタック(panic attack)、パニックディスオーダー(panic disorder)とも。従来、急性不安神経症と呼ばれていた慢性疾患で、panic disorder からPDと略記される場合もある。かつては全般性不安障害とともに不安神経症と呼ばれていたが、1992年に世界保健機関(WHO)の国際疾病分類によって独立した病名として登録された。
医療情報に関する注意:ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。 |
目次 |
[編集] 主な症状
定型的なパニック障害は、突然生じる「①パニック発作」ではじまる。 続いてその発作がまた来るのではないかとおそれる「②予期不安」とそれに伴う症状の慢性化が生じる。 さらに長期化するにつれて、症状が生じた時に逃れられない場面を回避して、生活範囲を限定する「③広場恐怖症」が生じてくる。 これらの定型的症状を以下に説明する。
- ①パニック発作
- パニック障害の患者は、青天の霹靂の如く突然に、動悸などの自律神経症状と強い不安感に襲われる。自律神経症状には、めまい、動悸、手足のしびれ、吐き気、息苦しさなどがある。不安感には、漠然とした不安と、死ぬのではないか、気が狂うのではないかなどの恐怖感がある。患者は、これらの症状に非常に困惑し、心臓疾患や精神病ではないかと考え、救急受診をすることも多い。しかし、これらの症状は、特別な処置がなくとも、多くは1時間以内に、長くとも数時間のうちに、回復する。これが、パニック発作である。
- ②予期不安
- 患者は、パニック発作に非常に強烈な恐怖を感じる。このため、不安の発作が発生した場面を非常に恐れ、またあの恐ろしい発作が起きるのではないかと、不安を募らせていく。これを予期不安という。そして、患者は、神経質となり、いつも身体の状態を観察するようになる。そして、持続的に自律神経症状が生じることとなり、パニック発作が繰り返し生じるようになっていく。
- ③広場恐怖
- 発作の反復とともに、患者は、発作が起きた場合にその場から逃れられないと思われる状況を回避するようになる。回避される状況としては、電車や飛行機、歯科、理・美容室、道路の渋滞など、一定時間特定の場所に拘束されてしまう環境や、ショッピングモールなど人込みの中などがある。さらに不安が強まると、患者は家にこもりがちになったり、一人で外出できなくなることもある。このような症状を広場恐怖(アゴラフォビア)という。広場恐怖の進展とともに、患者の生活の障害は強まり、社会的役割を果たせなくなっていく。そして、この社会的機能障害やそれに伴う周囲との葛藤が、患者のストレスとなり、症状の慢性化をさらに推進していくこととなる。
[編集] 診断
予期しないパニック発作が繰り返し発生し、それらに対する予期不安が1か月以上続く場合、パニック障害の可能性が疑われる。突然のパニック発作で始まり、予期不安を生じ、症状が持続するようになり、広場恐怖に進んでいくという経過の確認も、臨床診断においては、重要であるとされる。実際の臨床場面では、パニック障害は、広場恐怖を伴う慢性化したものと、広場恐怖を伴わない軽症例の2つに区分される。
診断基準としては、アメリカ精神医学会『DSM-IV 精神障害の診断と統計の手引き』が用いられることが多い。
なお、PTSD・うつ病・強迫性障害などの精神疾患の症状の一つとしてパニック発作を併発する場合があるが、この場合は、これらの病気の症状の一つとして扱われ、パニック障害とは診断されない。また身体疾患が原因になっている場合もパニック障害とは診断しない。
[編集] 疫学など
疫学的には、生涯有病率1.6-2.2%と言われる。 男女ともに起きる疾患だが、女性の罹患率が2倍程度といわれる。
その原因について従来は、心理的な葛藤が根本にあると思われてきた。しかし、近年認知行動療法の有効性が明確となり、心理的「原因」よりも、症状に対する患者の対処が症状進展のメカニズムとしては重視されるようになった。また薬物療法の有効性も確認されており、生物学的因子があるという意見も強くなっている。
パニック障害の重症度は様々であり、軽度の患者もいれば重度の患者もいる。重症例では、適切な治療を受けないまま経過すると、数年間にわたって外出できないなど、日常生活や社会生活に大きく支障をきたす場合もある。特にパニック障害という病名がまだ広まっていなかった時代に初発した患者の中には、広場恐怖の程度が重く、長期化する例を見ることが、比較的多い。
なお、パニック障害にうつ病が併発する場合が少なくはなく、日本では約3割、欧米では約5-6割といった統計も出されている。
[編集] 治療
治療的には、薬物療法と精神療法があり、様々な治療が有効性を認められている。
精神療法において、最も基礎的で重要なものが「疾患に対する医師の説明」「心理教育」である。パニック障害は、発作の不可解さと、発作に対する不安感によって悪化していく疾患であり、医師が明確に症状について説明し、心理教育を行うことがすべての治療の基礎となる。
精神療法の中で、有効性についての最もよく研究されているのが、認知行動療法である。認知行動療法では、「恐れている状況への暴露」「身体感覚についての解釈の再構築」「「呼吸法」などの訓練・練習が行われ、基本的には不安に振り回されず、不安から逃れず、不安に立ち向かう練習を行う。系統的な認知行動療法を行う施設は、我が国には多くはないが、臨床医は、認知行動療法的な患者指導を行っている場合が多い。
薬物療法では、発作の抑制を目的に抗うつ薬(SSRIや三環系抗うつ薬・スルピリド)が用いられ、不安感の軽減を目的にベンゾジアゼピン系抗不安薬が用いられる。これらの薬物には明確な有効性があり、特に適切な患者教育と指導と併用した場合の有効性は極めて高い。このうち最近は、新型抗うつ薬であるSSRIの有効性が語られることが多い。しかし、SSRIの代表とされるパロキセチン(パキシル)では、薬物を中止するときのめまいや不安感などの離脱症状が問題となり、症状が改善しても薬物をやめられなくなる場合があるとの指摘もあり、パニック障害に対する安全性・有用性に疑問も呈されている。一方、米国ではベンゾジアゼピン系の抗不安薬の依存性が問題とされることが多いが、我が国では、成人の定型的パニック障害では問題とならないのではないかという意見も多い。
[編集] 認知行動療法
- 暴露反応妨害法
- 不安が誘発される状況に想像的(in vitro)または体験的(in vivo)に身を置き、回避しないことで徐々に慣れる
- 呼吸法
- 過呼吸にならないようなリラクゼーショントレーニング
- 筋弛緩法
- 筋肉を緩めるリラクゼーショントレーニング
[編集] 注意すべき点
パニック障害は、パニック発作が1ヶ月以上続くこと、薬物、身体疾患によるものではないこと、他の精神疾患ではうまく説明が付かないことが診断の基準になっている。
「他の精神疾患ではうまく説明が付かない」という点は非常に曖昧であり、似たような症状を持つ精神疾患が複数存在するため、専門家でも何年も治療してからようやく診断を下すケースや、誤診してしまうケースも少なからずある。
逆に、心臓など身体に問題があるととらえてしまい、別の診療科を回ってしまうケースもある。どちらにしても、素人がこの病気を診断するのは危険である。
[編集] 類似した病気
[編集] 関連項目
[編集] 医療関連 |
[編集] 人物関連
|