ジョン・メイナード=スミス
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ジョン・メイナード=スミス (John Maynard Smith, 1920年1月6日 - 2004年4月19日) はイギリスの生物学者。数多くの分野に影響を与えたため、生物学に限らず様々な分野の学者から尊敬を受けている。英国王立協会会員。生物学の分野にゲーム理論などの数学的な理論を導入した先駆的存在で、進化生物学の第一人者であり「血縁淘汰」や「進化的に安定な戦略」 (ESS) などの概念・理論により、性、行動、老化などの進化生物学に大きな業績を残した。 彼の業績として重要点は多数あるが数学的分析のロジックとしてのゲーム理論において新しい均衡である「進化的に安定な戦略」 (ESS) を考案しESSを多様する進化ゲーム理論を立脚させたことを忘れてはならない。 ESSは経済学にいち早く導入され多くの経済現象に均衡解を与えるのに成功した、進化ゲームに恩恵を受けた経済学者にはノーベル賞候補と目される人間が多くいる。また進化ゲームの日本権威には経済学者の神取道宏があげられる。心理学においてはESSは学習理論に取り入れられ大きな革新をもたらした。その他にもESSはゲーム理論を用いる全ての分野に取り入れられている。彼の受賞暦を見れば彼の業績がどれほど重要であったか一見であろう、またヨーロッパ進化生物学会は彼の栄誉を讃え、ジョン・メイナード=スミス賞を1997年に設立した。経済学者のなかではノーベル経済学賞に長年ノミネートされていたと言われている。
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[編集] 生涯
イギリス、ロンドンで医師の子に生まれる。父の死後、母方の親族がいるエクスムーアへ移る。このときおばにもらった鳥の本で自然史に対する興味を持つ。パブリックスクールのイートン校では数学を学ぶが、科学は図書館での独学。そこでJ・B・S・ホールデンやチャールズ・ダーウィンの本を読み、進化に興味をもつ。1941年、ケンブリッジ大学工学部を卒業し航空機技師として6年間過ごす。この間に第二次世界大戦があるが、視力が弱いため兵役を免れる。
1951年に University College London の動物学部に入学し遺伝学の大家、J・B・S・ホールデンに生物学を学ぶ。1962年にブライトンのサセックス大学に移り、1965年からは学部長を務める。学部長になってからはもっぱら理論生物学的な研究を行う。1985年に引退し名誉教授となる。引退後も毎日のように大学に足を運び、研究について話し合っていたという。2004年4月19日、自宅で穏やかに亡くなった。肺ガンだった。享年84。
[編集] 受賞歴
コプリ・メダル、ダーウィンメダル、フリンクメダル、バルザン賞、リンナーンメダル、ASABメダル、クラフォード賞などを受賞。2001年には「進化的に安定な戦略の概念提唱による進化生物学への貢献」に対して京都賞(基礎科学部門)を受けている。
[編集] 主な論文
- Group selection and kin selection. Nature, 200, 1964
- Evolution in sexual and asexual populations. The American Naturalist, 102, 1968
- The logic of animal conflict. Nature, 246, 1973
- Parental investment: a prospective analysis. Animal Behaviour, 25, 1977
[編集] 著書
- 生物は体のかたちを自分で決める (2002年)
- 生命進化8つの謎 (2001年) 共著
- 進化する階層 - 生命の発生から言語の誕生まで (1997年) 共著
- 進化遺伝学 (1995年)
- 生物学のすすめ (1990年)
- 進化とゲ−ム理論 - 闘争の論理 (1985年)
- 数理生物学序説 (1970年)
[編集] ジョン・メイナード=スミス賞
この賞はヨーロッパ進化生物学会によって運営され、進化生物学で優れた業績をあげた若手研究者に隔年で送られる。
年 | 受賞者 | 受賞理由 |
---|---|---|
1997 | Marie-Charlotte Anstett | Facilitation and constraints in the evolution of mutualism |
1999 | Nicolas Galtier | Non stationary models of nucleotide substitution and the evolution of base composition |
2001 | Alexander Badyaev | Paradox of rapid evolution of sexual size dimorphism: the role of ontogeny and maternal effects |
2003 | Patricia Beldade | 表現型多様性の遺伝的バイアス: チョウの翅のパターンにおける進化と発生 |