ジョン・ヒックス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ジョン・リチャード・ヒックス(John Richard Hicks, 1904年4月8日 - 1989年5月20日)は、1972年にケネス・アローとともにアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞を受賞したイギリスの経済学者であり、20世紀における最も重要かつ影響力のある経済学者として高い評価を受けている。現在のミクロ経済学・マクロ経済学のほぼ全域にわたる創始者の1人である。
ヒックスは1904年にイングランドのウォリックシャー州レミントン・スパに生まれ、クリフトン・カレッジを経てオックスフォード大学のベイリオル・カレッジで学んだ。その後、ヒックスはロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの講師に就任した。また、この頃にシドニー・ウェッブの娘と結婚した。
ヒックスは1935年から1938年までケンブリッジ大学で過ごし、主に『価値と資本』の執筆に専念した。1938年から1946年まではマンチェスター大学の教授として教鞭を揮った。ヒックスは1946年にオックスフォード大学に戻り、1965年までナフィールド・カレッジの研究員として研究を行った。また1952年から1965年まではドルモンド政治経済学教授としても教鞭を揮った。1965年から1971年まではオール・ソウルズ・カレッジの研究員として活動した。
[編集] 業績
ヒックスは1939年に福祉比較に関するカルドア・ヒックス基準と呼ばれる「補償」に関する有名な指標を構築した。またヒックスはロンドン経済大学の教授であったロイ・アレンと共同研究を行ったほか、ミクロ経済学の限界生産力説を定式化し、労働供給曲線をめぐってモーリス・ドッブと論争を繰り広げた。
ヒックスの最も広く知られた業績は、ジョン・ケインズの『一般理論』を体系化したIS-LM理論であろう。これは、利子率の関数である投資 I と国民所得の関数である貯蓄 S の均衡によって描かれるIS曲線と、貨幣の需要量 L と貨幣の供給量 M の均衡によって描かれるLM曲線から、その交点として利子率と国民所得の値を導出できることを示した理論である(詳細はIS-LM分析を参照)。だが実際にはケインズは、投資は利子率だけの関数ではなく不確実性の中にある予想利潤率の関数であり、貨幣の供給量 M は外生的に与えられるだけはなく人々の債券の価格変動の予想によって変動するものであることから、予想による債券価格から利回りで示される利子率が決定されると考えていた。ヒックスは晩年、不確実性を重視するケインズの考えを誤解していたとしてIS-LM理論の誤りを認め、1985年頃にケンブリッジ大学でジョーン・ロビンソンがこのことを述べ、広く一般化した。しかしながら、難解な散文で書かれた『一般理論』の本質のほとんどを集計量から得られる2つの曲線により表現した彼のIS-LM理論が現代のマクロ経済学の基礎と分析方法を作り上げたことは紛れもない事実である。
ヒックスは1939年に発表した著書『価値と資本』("Value and Capital")の中で、無差別曲線の理論やこれを用いた効用最大化の理論、一般均衡の静学的安定性の条件、予想の弾力性概念による一般均衡理論の現代化と、補償変分、等価変分などの消費者余剰の概念の明確化による新厚生経済学を確立に尽力した。この本はポール・サムエルソンの『経済分析の基礎』("Foundations of Economic Analysis")(1947年)と並んで、この時代以降の序数的効用に基づくミクロ経済学の基礎と分析方法を確立した著書としてあまりにも有名である。
また1951年に発表した著書『景気循環論』("A Contribution to the Theory of the Trade Cycle")ではロイ・ハロッドの成長率理論の影響を受け、乗数理論と加速度原理を統合した景気循環論を定式化したが、その後ハロッドから強い批判を受けた。
ヒックスは50歳半ば頃から新古典派経済学に代表される自分の業績に対して次第に距離を置くようになり、1965年に発表した『資本と成長』("Capital and Growth")では新古典派成長理論とは異なるヒックス固有の成長均衡モデルを定式化し、さらに1973年に発表した『資本と時間』("Capital and Time")ではオーストリア学派の資本成長をより一般化して賃金率・利潤率・成長率の相互関係を説明する理論を定式化した。
ヒックスは「一般的経済均衡理論および厚生理論に対する先駆的貢献」が称えられ、1972年にケネス・アローとともにアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞を受賞した。
[編集] 外部リンク
- ノーベル財団の公式ホームページ(英語)
カテゴリ: 1904年生 | 1989年没 | イギリスの経済学者 | ノーベル経済学賞受賞者