ゲシュトップフト
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ゲシュトップフト(ドイツ語:gestopft)とは、ホルンの特殊奏法のひとつである。ゲシュトップト(ゲシュトップ)、ゲシュトップト奏法(ゲシュトップ奏法)、また英語式にストップ奏法などと呼ばれる場合もある。
ホルンは通常右手を朝顔(管の開口部)に挿入しているが、これを深く挿入すると半音から全音低いくぐもった音が得られる。しかしさらに深く挿入し開口部を塞ぐようにすると、最初の音よりも半音ほど高い金属的な音が出る。これがゲシュトップフトと呼ばれる音である。最初のくぐもった音は管端の閉鎖による開口端補正の増大によるものであるが、ゲシュトップフトは逆に手の挿入によって朝顔部が共鳴から切り捨てられるようにし、管をあたかもより短いものであるかのようにすることで高い音が出るのである。
一般的なF管ホルンなどでは半音ほど高い音が出るために、楽譜通りの音を出すためには、半音低い音を出す指使いをする必要がある。しかし、使用する管によっては半音に相当する管長の違いがゲシュトップフト奏法によって切り捨てられる管長に満たないことがある。このため、ゲシュトップフト奏法によって切り捨てられる管長に相当する専用の迂回管を備えている楽器がある。一般的なB♭シングルホルンやディスカントホルンなどが、音程調整用の専用の迂回管を備えている楽器の例である。
ゲシュトップフト奏法は、習得に一定の訓練を必要とし、また手の大きさが小さい場合など十分な効果が得ることが難しい場合もある。とくに、低音域でのゲシュトップフト奏法は、熟練した奏者にとっても比較的難しい奏法である。これらの困難を回避し、比較的容易に均一な音色を実現するために、専用の弱音器(ゲシュトップフト・ミュート)を用いる場合も多い。一般的なゲシュトップフト・ミュートは、伝統的なゲシュトップフト奏法と同じく音程の補正を必要とするが、通常の運指のままでもゲシュトップフト奏法の効果が得られるように工夫された製品も存在する。ゲシュトップフト・ミュートを用いる場合、手で行う場合とは効果に差が出る場合が多く、ミュートのメーカー間での音色差も存在するため、オーケストラなどで複数人で同時に使用する場合は、ミュートの使用の有無や、使用するミュートのメーカーをそろえておく事が望ましい。
ゲシュトップフト奏法を行う代わりに、通常の弱音器(ストレート・ミュート)を用いる場合もある。ただし、この場合得られる音色は、ゲシュトップフト奏法特有の金属的な響きとは異なるものであり、楽譜の意図を反映するという点からは好ましい方法とはいえない。
現代の楽譜では + を楽譜の上に付して表されることも多い。
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[編集] ゲシュトップフトの起源
もともとは、バルブ装置をもたないナチュラル・ホルンの演奏に際して、自然倍音列以外の音を演奏するための、ハンドホルンの技法であるハンドストッピングから受け継がれたものである。
ハンドホルンの技法は、18世紀中ごろにドレスデンのホルン奏者であったアントン・ヨーゼフ・ハンペルによって開発されたといわれている。ただし、トランペットなどのベルに手をあてがって音程を調整する手法そのものは、それ以前から知られていたものであり、ハンペルの貢献をどの程度評価するかは立場の分かれるところである。
ハンドホルンの技法が確立される以前のホルンは、ベルを上に向けて演奏するものであった。現代ホルン奏法のベルを後ろに向け手を添える構え方は、ハンドホルンの技法が確立することによって生み出されたものである。
ナチュラルホルンにおけるハンドストッピングの利用は、モーツァルトやベートーベンの楽曲の中に実例を見ることが出来る。この時代のホルンのパートは、主に高音を担当する1番奏者と低音を担当する2番奏者のペアで組まれるのが通例である。高音奏者はひたすら高音を演奏する事に勤めるのが常であったのに対して、低音奏者はハンドストップの手法を駆使して、ソロパートを受け持つ役割も持っていた。この時代、熟練した奏者は、演奏に際してハンドストッピングをの使用法を熟知しており、楽譜上にはとくにハンドストップを指示する記号などがかかれていたわけではない。自然倍音列によって演奏することが出来ない音は、当然ハンドストップによって演奏されていたのである。いわゆる古楽演奏で、この時代のホルンの含まれる編成の音楽を注意深く聴けば、ゲシュトップフトや開口部を半分塞いだ暗い音色の音が含まれる事に気付くであろう。
時代が下りバルブホルンが開発され、オーケストラ奏者に普及するにつれて、自然倍音で演奏できない音を演奏するための技法としてのハンドストッピングの手法は、時代遅れのものとなっていった。しかしながら、ベートーベンの第3交響曲のスケルツォなど、ゲシュトップフトの金属的で荒々しい音色を効果的に利用されていた事も事実で、このような用法は後の作曲家によっても受け継がれる事となる。ブラームスは自らがハンドホルンの奏者であった過去を持つことからハンドホルンの演奏法を熟知しており、バルブホルンが普及した時代にあっても、ナチュラルホルンの演奏技法を念頭において作曲を行った作曲家の一人である。彼はバルブホルンの演奏者に対し、ハンドストップの音色出させるために、楽譜にgestopftの指示を書いた。このような経緯をたどって、ゲシュトップフトの技法がオーケストラのホルン演奏の技法として確立された。
[編集] ゲシュトップフトの音高に関する混乱
バリー・タックウェル著『ホルンを語る』には、開口部を完全にふさいだときに音が上がるのか下がるのかという点で、演奏者・物理学者のあいだで混乱があると記されている。多くのホルン奏者は、経験的に、あるいは指導を受けてゲシュトップフトの(すなわち開口部を塞いだ状態の)音が、開放状態の音よりも高くなる事を知っている。一方、複数の音楽辞典にゲシュトップフトの説明として、「音色が暗くなると同時にピッチが半音下がる」(音楽の友社『新編 音楽中辞典』「ゲシュトップト」の項より)などと説明されている事もまた事実である。
[編集] ゲシュトップフト奏法の効果的な楽曲
- スペイン奇想曲第2楽章
[編集] 参考文献
- ウォルター・ピストン 戸田邦雄訳『管弦楽法』音楽之友社 1967年2月 ISBN 4-27610-690-7
- バリー・タックウェル『ホルンを語る』シンフォニア 2002年3月 ISBN 4-88395-173-1