クリスマス・キャロル
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クリスマス・キャロル (英語:Christmas carol) は、キリスト教文化圏において、クリスマス・イヴの夜に人々が歌う「キャロル(歌)」で、「クリスマス聖歌」ともいうような意味である。キリスト教の救世主キリストの誕生を祝い、誕生にまつわる様々な場面や逸話を歌詞にしたうたをいう。
代表的には、『聖しこの夜 (Holy Night) 』、『荒野の果てに』、『もろびとこぞりて』などがある。クリスマス・イブの夜、教会に集まった子供たちが、街の家々を訪ねて、クリスマス・キャロルをうたう慣習が、欧米にはあり、これを英語では「キャロリング (caroling) 」と言う。
- 別の項目を立てるべきであるが、英国の作家ディッケンズの短編に『クリスマス・キャロル』がある。本記事は、主として、ディケンズの作品について述べる。
目次 |
[編集] ディケンズの『クリスマス・キャロル』
『クリスマス・キャロル (英語:A Christmas Carol) 』は、英国の文豪チャールズ・ディケンズが、1843年12月17日に出版、発表した短編である。クリスマス・ストーリーのなかでは、もっとも有名なもので、またディッケンズはこの作品で多くの人の心をうち、自身を世界的にポピュラーな作家としたことでも記念碑的な短編である。
ディケンズは、この作品の成功にもよるが、この後、毎年、クリスマスの季節に、クリスマス・ストーリーを書き、発表するが、それらのなかでも、最初に書かれたこの作品が、もっとも著名である。他には、『炉辺の蟋蟀』などが知られる。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 物語の概要
作品の主人公は、エベネーザ・スクルージという初老の商人で、冷酷無慈悲、エゴイスト、守銭奴で、人間の心の暖かみとか愛情などとは、まったく無縁の日々を送っている人物である。ロンドンの下町近くに事務所を構え、薄給で書記のボブ・クラチットを雇用し、血も涙もない、強欲で、金儲け一筋の商売を続け、隣人からも、取引相手の商人たちからも蛇蝎のごとく嫌われている。
明日はクリスマスという夜、事務所を閉めたあと自宅に戻ったスクルージは、かつての共同経営者で、十年前に亡くなったマーレイ老人の亡霊の訪問を受ける。マーレイの亡霊は、金銭欲や物欲に取り付かれた人間がいかに悲惨な運命となるか、自分自身を例としてスクルージにさとし、スクルージが悲惨な結末を回避し、新しい人生へと生き方を変えるため、三人の精霊がこれから彼の前に出現すると伝える。
[編集] 三人の精霊
スクルージを訪ねる三人の精霊は、「過去のクリスマスの霊」、「現在のクリスマスの霊」、そして「未来のクリスマスの霊」である。
過去の精霊は、スクルージが忘れきっていた少年時代に彼を引き戻し、孤独のなかで、しかし夢を持っていた時代を目の当たりに見せる、また青年時代のスクルージの姿も見せ、金銭欲と物欲の塊となる以前のまだ素朴な心を持っていた、過去の姿を示す。やがてスクルージは、強欲のかたまりとなって行くが、現在のスクルージはこの過去のできごとの再現に耐えられなくなる。
過去の精霊を無理矢理抑えつけ消すや、スクルージは深い眠りに落ちる。ふと目覚めると、今度は、現在のクリスマスの精霊が出現する。現在の精霊は、スクルージをロンドンの様々な場所に導き、貧しいなか、しかし明るい家庭を築いて、ささやかな愛で結ばれたクラチットの家族の情景を示す。クラチットの末子ティムが、脚が悪く病がちで、長くは生きられないことを示す。
貧しさや無知が、人間を悲惨にさせ苦しめるのであり、暖かい心の交流や博愛が、人間をこのような貧困や社会的悲惨から救うのであるというディッケンズの考えが、ロンドンの下町の生き生きした描写と共に読者には伝わる。
現在の精霊と共に世界中を飛び回って見聞を広めたスクルージは、疲れ切って眠る。そして再度目覚めると、そこには真っ黒な布に身を包み、一本の手だけを前に差し出した、不気味な第三の精霊・未来のクリスマスの精霊がスクルージを待っている。
スクルージは、評判の非常に悪い男が死んだという話を聞くが、未来のクリスマスには自分の姿がない。評判の悪い男のシーツに包まれた無惨な死体や、その男の衣服まではぎとる日雇い女。また、盗品専門に買い取りを行う故物商の老人や、その家で、盗んできた品物を売りに老人と交渉する三人の男女の浅ましい様などを見る。金銭欲・物欲が、いかに人間を恐ろしい姿に変えるのか、スクルージは慄然とした思いになる。
また、クラチットの末子ティム少年が、両親の希望も空しく世を去ったことを知る。そして草むし荒れ果てた墓場で、見捨てられた墓石の表に記されていたみずからの名をスクルージは読む。
スクルージは激しい衝撃に襲われる。しかし、夜明けと共に、彼が経験した悪夢のような未来が、まだ変えることができる可能性があることを知る。スクルージは、人間愛の重要さに目覚め、人を愛し、人のために尽くすことの重要さを自覚する。
[編集] ディケンズの社会改革意識
この作品は、キリスト教的博愛と美徳を説く、ヴィクトリア朝イギリスの典型的な「道徳訓話」とも言える。しかし、それが退屈で、ある意味欺瞞を含む道徳譚に留まらず、国境や時代を越えて多くの人の心を魅了するのは、一つにディケンズの類い稀なストーリーテリングの才能と描写力によるが、他方で、ディケンズがその人生において、貧困の矛盾と悲惨をみずから深く経験し、これを社会改革思想の域まで高めていたからだとも言える。
ディケンズは、貧しいなかから身を起こし、作家として名をなした人物であった。彼の小説の筆は、とりわけ貧しい庶民の生活の情景を描写するとき、生き生きした生彩と躍動に満ち、人間愛と希望の理想を語った。彼は、自分自身を特権階層の高みに置き、上から見おろす形に道徳を説くのではなく、貧しい人々、抑圧された人々と同じ次元に立って、肉声で人間愛や理想を語ったのだと言える。キリスト教的な人間愛・博愛を通じての社会の改革というディケンズの思想が、作品において、具象化されていたのである。
[編集] 翻訳と代表的な映画
[編集] 翻訳
- 『クリスマス・キャロル』 :1984年 講談社青い鳥文庫 ISBN 4061471546
- 『クリスマス・キャロル』 :1989年 太平社 ISBN 4924330167
- 『クリスマス・キャロル』 :1950年 岩波少年文庫 ISBN 4001145510
- 『クリスマス・カロル』 :1952年 新潮文庫 ISBN 4-10-203008-5
[編集] 映画
- 『クリスマス・キャロル』 (A Christmas Carol)・1951年 アメリカ映画(白黒版):監督 Brian Desmond Hurst
- 『クリスマス・キャロル』 (Scrooge)・1970年 イギリス映画(ミュージカル):監督 Ronald Neame
- 『クリスマス・キャロル』 (A Christmas Carol)・1984年 アメリカ映画(20世紀フォックス):監督 Clive Donner
- 『クリスマス・キャロル』 (The Muppet Christmas Carol)・1992年 アメリカ映画(マペット版):監督 Brian Henson
- 『クリスマス・キャロル』 (A Christmas Carol)・1999年 アメリカ映画:監督 David Hugh Jones
[編集] 外部リンク
- A Christmas Carol 英原文(プロジェクト・グーテンベルク)
- A Christmas Carol 英原文(HTMLヴァージョン)
- A Christmas Carol 英原文(検索可能・HTMLヴァージョン)
- A Christmas Carol - In Prose - A Ghost Story of Christmas 英原本イラスト(グラスゴー大学・特別コレクション)
- 『クリスマス・カロル』森田 草平訳:新字新仮名(青空文庫)