カール・ツァイス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カール・ツァイス (Carl Zeiss) は、ドイツの光学機器の製造会社であり、1846年にイェーナ市で創業した。1889年以来「カール・ツァイス財団」の所有下にある。またカール・ツァイス社の創立者であるカール・フリードリヒ・ツァイス(Carl Friedrich Zeiss, 1816年9月11日-1888年12月3日)はドイツの機械技術者(いわゆるマイスター)である。
目次 |
[編集] 歴史
[編集] カール・ツァイス社の誕生~発展
1846年イエナに顕微鏡製造のための工房を開設し、顕微鏡など大学の研究室で使われる光学機器を製作し、高い評価を受けるようになった。イエナ大学の講師エルンスト・アッベと学術実験用の機器製作を通じて知り合い、アッベと共同で光学機器の性能向上の技術を開発した。1884年ころからは、オットー・ショットがガラス工学技術を提供することとなり、良質のガラスをレンズの材料とすることによって世界最高水準の光学機器会社としてさらに発展することとなった。
[編集] カール・ツァイス財団の誕生
カール・ツァイス財団 (Carl Zeiss Stiftung) は、カール・ツァイスの死後、1889年に近代光学理論の大家であり、ツァイスの協力者であったエルンスト・アッベによって設立された。アッベの理念は
- 資本家の搾取のない組織
- 技術開発によって不断に人類の福祉に貢献する
であった。このため、アッベは自らが所有する会社の株はもとより、カール・ツァイスの息子で共同経営者だったローデリヒ・ツァイスにも迫って株の譲渡を受け、すべての株を財団所有とした。これによってカール・ツァイス社にはひとりの株主もいなくなり、財団によって運営される希有の企業形態となったのである。
さらにアッベは定款によって財団傘下の企業の経営方針を「人類の福祉に貢献する」と規定し、それに沿った経営を行った。8時間労働制、時間外勤務手当、年次有給休暇、年金制度などを世界に先駆けて整備し、労働者の待遇改善に努めた。また、技術的に価値の高い新規の発明については特許を取ることを禁じ、進んで公開するものとした。ただし、この方針は他社に特許をとられてしまうために技術公開の目的が達成されず、やむを得ず特許を取得して公開する方針に切り替えられたという。他社が経営上の理由から二の足を踏む分野に対しても財団傘下の企業が積極的な技術開発を行い得たのは、財団の上記のような経営方針によるものである。高度な技術開発を行うために傘下の企業は技術的研鑽を積まざるを得ず、結果として世界最高水準の技術力を現在に至るまで持ち続けることができた。
ツァイス財団の「人類の福祉に貢献する」という社是は、ナチスが台頭してくると「マルクス主義的」と見なされ、経営に容喙される原因になったといわれている。
第二次世界大戦後のドイツ東西分割によって財団も分裂したが、ドイツ統合後にひとつに戻り、現在も傘下の企業ともども健在である。財団傘下の企業としてはカール・ツァイス社やツァイス・イコン社(Zeiss-Ikon)、ショット・グラス社 (Schott Glas)などを代表として数多い。
[編集] 東西分断の悲劇
20世紀初頭から第二次世界大戦までの期間、カール・ツァイス社は世界の最先端を走る光学機器会社として君臨した。しかし、第二次世界大戦におけるドイツ敗戦の影響は、カール・ツァイスにおいても多大な影響を及ぼした。
第二次世界大戦の敗戦直後、ドイツの東西分断により、ドイツ東部にあったイェーナはソ連占領統治下に置かれる。しかしアメリカ軍はカール・ツァイスの光学技術をソ連にそのまま渡すことを阻止するため、ソ連軍に先んじてイェーナに入り、技術者の多くを半ば強制的にオーバーコッヘンに移動させ、ツァイス・オプトン社として光学機器の生産を引き継いだ。一方ソ連軍はイェーナの工場群を接収、残った技術者もソ連に送った。これによってカール・ツァイスは東西に分裂した。東側はイェーナに半官半民の「人民公社カール・ツァイス・イェーナ」を設立、このイエナのカール・ツァイス社は東ドイツの誇る光学機器メーカーとして存続した。その後どちらがツァイスの名やコンタックス等商標の権利を持つか裁判で長年にわたって争うこととなる。
ちなみに、フットボールチームのカール・ツァイス・イエナは1903年に創設された。東ドイツ(DDR)時代には国を代表する強豪チームであった。
[編集] 東西統一~その後
1989~1990年に渡って行われたドイツ東西統一(ユニフィケーション)により、東西に分かれていたカール・ツァイスも統合の道を歩むことになる。しかし、イェーナにあったツァイスは経営に行き詰まっており、実質的にオーバーコッヘンのツァイスが吸収する形となった。現在もカール・ツァイス本社はオーバーコッヘンに置かれている。
[編集] 財団傘下の企業
- カール・ツァイス社 - 天体望遠鏡や顕微鏡、眼鏡などを製造。
- ツァイス・イコン社(Zeiss-Ikon) - ドイツの主要なカメラメーカーの大同団結的合併により誕生。ContaxⅠ~コンタレックスまでを開発製造したが現在はカメラ製造事業からは撤退している。
- ショット・グラス社 (Schott Glas) - 光学ガラス、医療・理化学用ガラス、その他特殊ガラス材料、およびそれらを用いた製品の開発、製造、販売。
など他にも多数。
[編集] 文献
- アーミン・ヘルマン(著)、中野不二男(訳)、『ツァイス 激動の100年』、新潮社、1995年、ISBN 4-10-531401-7
- 佐貫亦男(著)、『ドイツカメラのスタイリング』、グリーンアロー出版社、1996年、ISBN 4-7663-3189-3
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
カテゴリ: ドイツの企業 | カメラメーカー・ブランド | 企業関連のスタブ