エゴグラム
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エゴグラム (Egogram) は、精神科医ジョン・M・デュセイが開発した性格分析法である。アメリカの精神科医エリック・バーンが1950年代に開発した交流分析から発展させたものであり、弟子のジョン・M・デュセイが交流分析を基礎理論とし、他の心理療法、理論を組み込み1960年代に完成した。医療機関においても精神疾患の患者を分析するための方法の一つとして用いられている。
日本では一人でチェックすることが出来るように心理検査方式が広く流布されている。50個の質問からエゴグラムを作成する。
また更に簡略化した形式として三段階評価の3*3*3*3*3=243パターンの診断結果を便宜的に用いる方式もある。
エゴグラムは、その内容が一般人にも分かりやすいこと、ブームなどによって、女性を中心に広まることとなったが、しばしば企業の採用試験などにおいても見受けられるように、被験者の人格を分析する場合における有効な一つの指標と思われている。
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[編集] 診断方法
[編集] 本来の診断方法
対象との会話から五つのパーソナリティを直感で判定していく。カップルセラピーやグループセラピーで用いることも出来る。自己申告で作成したエゴグラムと照合することも有効である。デュセイはその人の第一印象から得られるエゴグラムは、ほぼ必ず正しい結果になると述べている(エゴグラムが適用できない症状でさえ「謎めいた」第一印象を感じるので、これも正しい結果であるといえる。)。
[編集] TEGⅡ 東大式エゴグラム
一般的に利用されている物は、 「TEGⅡ 東大式エゴグラム」金子書房 がある。
科学的な分析(共分散構造分析・信頼性分析など)を行っている 心理テストの信頼性、妥当性に関して考慮がなされている。
ただ、妥当性に関して、一部に疑問の声も上がっており、 現在も様々なアプローチにて、今でも妥当性について研究が行われている。
※因子分析を行っているというが、公開されていない。
[編集] 診断方法
診断方法は50個からの質問をはい/いいえ/どちらでもないで答えていく。50~の質問はそれぞれ10個ずつCP,NP,A,FC,ACに対応しており、得点化されエゴグラムが出来上がる。各要素の意味を理解して無くても、エゴグラムが作成出来るという利点がある。
[編集] 心理検査としての診断方法
心理検査としては、信頼性と妥当性、標準化が重要。以上の検証が行われる必要がある。
[編集] 243パターン
50の質問の得点をabcの三段階に評価する。得点が0-33% にある場合にはc、得点が34-66%にある場合にはb、得点が67-100%にある場合にはaとし、CP,NP,A,FC,ACの順に並べる。例えば、cbabcとなったりする。
※ただし、古典的なエゴグラムモデルであり、標準化における統計的累計では、このパターンはありえない。
[編集] エゴグラムの作成
エゴグラムの要素は、CP(Critical Parent/批判)・NP(Nurturing Parent/養育)・A(Adult/理性)・FC(Free Child/自由)・AC(Adapted Child/従順)の5種がある。これらの精神エネルギーの多寡を別々に診断していき、5つの要素をグラフ化したもので判定する。
[編集] CP
自分や他人にルールを守らせるという働きをする。慣習やルールを守らなければ、交差点で信号無視して交通事故に遭うなどが起こり、自己の生存も危うくなる。よって生活していくには欠かせない要素であるが、CPが高すぎると他人を必要以上に攻撃するようになる。中庸なCPを持つことがもっともよいとされる。
- いい面 - 理想・良心・正義感・責任感・権威・道徳的など
- 悪い面 - 非難・叱責・強制・権力・干渉・排他的・攻撃的など
- この部分が強いと良く出る言葉や態度
- 「馬鹿」「ダメだなぁ」「当然じゃないか」「~すべきだ」他人を見下す・断定的
- この部分が不足したとき
- 無責任になる・ルーズになる・人の言葉に左右される・ノーと言えなくなる・批判力がなくなる
[編集] NP
デュセイによれば、母親が授乳しているときがもっともNPが高まる瞬間であると述べている。家族のために料理を作る、子育てをする、小動物を飼う、家庭菜園を培うなど文字通り養育する心を指す。NPは中庸以上で高ければ高い方がよいとされる。例外として芸術などで特殊な才能を発揮している人のNPを無理に改善しようとすると、持っている才能に瑕疵をつける可能性が指摘される。
- いい面 - 思いやり・慰め・共感・同情・保護・寛容・許しなど
- 悪い面 - 過保護・甘やかし・沈黙・おせっかいなど
- この部分が強いと良く出る言葉や態度
- 「よかったわね」「よくできたわ」「まかせてね」「かわいそうに」世話をやきたがる・安心感を与える・優しく柔らかい態度
- この部分が不足したとき
- 冷淡になる・おおむね拒絶的・他人のことはどうでもよいという態度・他人を野心の犠牲にしやすい
[編集] A
科学的態度そのものである。事実とデータに基づき行動し、正確に物事を著述する能力を指す。心のありようとはまた別もので、デュセイもこのAのありようが人生の悩みの種になることはないとしている。しかし、他人に利用されるだけの人生を送らないようにするためには、必要な要素でもある。Aは中庸以上を理想とする。
- いい面 - 知性・理性・現実志向・冷静・感情抑制など
- 悪い面 - 自己中心性・科学万能主義・物質万能主義・自然無視・人間のコンピュータ化など
- この部分が強いと良く出てくる言葉や態度
- 「なぜ?」「比較検討すると」「私の意見では」「具体的にいうと」理詰めでくる・計算高い・言質を逃がさない
- この部分が不足したとき
- 現実にうとい・ずさん・間抜け・状況判断が狂いやすい
[編集] FC
一般的に言って、ストレス解消をするためのコントロールセンターである。喜怒哀楽やセックスを司り、創造性や想像力の源となる。FCが低ければストレスを溜め込むタイプになってしまう。FCは中庸以上で高ければ高い方がよいとされる。デュセイは注意点として厳格な上司の前でFCを開放することは避けたほうが無難だとしている(当たり前だ!)。
- いい面 - 天真らんまん・自然随順・自由な感情表現・直感力・創造力など
- 悪い面 - 衝動的・わがまま・傍若無人・無責任・調子にのるなど
- この部分が強いと良く出る言葉や態度
- 「ヤッター」「わぁスゴイ」「エーッ本当」はしゃぐことが多い・無邪気・まわりの迷惑を考えない
- この部分が不足したとき
- 無気力・シラケ人間・能面人間・ネクラ・セックス下手・人生を楽しめない
[編集] AC
他人の言うことをよく聞く態度を示す。ACが低ければいわゆる頑固者になる。高いACはしばしば学校で良い成績を残す。これは今の学校制度が頭の良さではなく、努力の量を計るようになっているからである。しかし親にとっての都合の良い子ども、学校にとっての都合の良い生徒は、しばしば教祖にとっての都合の良い信者、犯罪者にとっての都合の良い被害者を生む。中庸なACを持つことがもっともよいとされる。
- いい面 - がまん・妥協・感情抑制・慎重・他人の期待に添う努力・いい子など
- 悪い面 - 主体性の欠如・消極的・自己束縛・敵意温存・依存的など
- この部分が強いと良く出る言葉や態度
- 「どうせ私なんか」「よくわかりません」「外の人はどうですか」「そういたします」常にオドオドしている・人にさからえない・旗色を鮮明にしない
- この部分が不足したとき
- 反抗的になる・独善的になる・頑迷になる・あまのじゃくになりやすい
[編集] 複合型
複数の要素が同時に高い場合である。無数に考えられるが、以下に代表的な事例を示す。
- 導師タイプ(NP,A) - 悩んでいる人を助けたいという衝動を持つ(高いNP)。そしてその助言は的確である(高いA)。優秀な心理カウンセラーになれる。
- 愛情タイプ(NP,FC) - 温かみのある態度(高いNP)と性的快楽の追求(高いFC)は、円満な夫婦生活において欠かせない要素である。
- 学者タイプ(A,FC) - 冷静で論理的な思考能力(高いA)と創造性・直観力(高いFC)の組み合わせは、旺盛な知的好奇心となって発露する。
また、価値基準を内包しないので右翼政治家と左翼政治家のように、一見正反対に見える2人の結果が同じエゴグラムに行き着くことがある。そのような事例は実際にもいくつか見られる。(詳しくは右翼・左翼が本来持つ共通性を参照)
[編集] エゴグラムの活用
[編集] 最初に何を考えるべきか
まずその人が人生に対して満足しているか、幸福であるかである。もし満足しているなら、どんなエゴグラムが出来上がろうとも特に何も処方する必要はない。見落としがちだが、もっとも重要な論点である。
[編集] どんな自分になりたいか
その人が悩んでいる場合には、まずはその人自身がどういう新しい自分になりたいかを問いかけなければならない。これも見落としがちだが、非常に重要な論点である。お仕着せの無難なエゴグラムは全人類にとっての幸福とは限らない。
[編集] どうしたらいいか分からない
しかしながら被験者からこのお決まりの台詞が出た場合には、「健全な」エゴグラムになるように進めてみる。次の二つのパターンがある。
- ベル型 - Aがもっとも高く、NP,FCがそれに続き、CP,ACがもっとも低い。低いといっても全般的なエネルギーの高さは全て平均以上の状態である。
- 平坦型 - 全ての要素が同じくらい高い状態である。
[編集] 恋愛と結婚
どんなパートナーを選べばいいかの「ありがちな」パターンを以下に示す。
- 高いNPと高いFCをお互いに持つ。
- 高めのAはエゴグラムを改善するための一助になるが、必要条件でも十分条件でもない。
- 高いCPと高いACは、不要どころか悩みの種になる場合が多い。
注意する点は、エゴグラムは改善出来るということである。目の前にいる今の恋人が理想のエゴグラムで無かったとしても、二人の力で改善していけばよいのである。
[編集] 診断の問題点
自己申告した場合や心理テスト方式を用いた場合に、その人の客観的な回答ではなく、その人の理想・願望が入り混じることがある。デュセイはこの場合には、CPとAC、NPとFCをそれぞれひっくり返して鏡像を作ってみる(擬陽性のエゴグラム)ことや、エゴグラムの高得点部分と低得点部分をひっくり返して検討してみること(サイコグラム)を勧めている。
また、全てのエゴグラムが平坦になるパターンの人については、このエゴグラムではほとんど何の意味を読み取れない。但し、デュセイは平坦なエゴグラムを「もっとも健全なエゴグラム」の一つに挙げており、そうなった場合は特に悩む必要は無いと思われる。
[編集] 243パターンの簡便法を用いた場合の問題点
インターネットなどではabcの三段階評価を用いた方式が広く採用されているが、これは閾値にある人にとっては問題が発生することがある。
例:20点満点で14,13,13,14,13の人は、明らかに平坦型である。しかしabbabと診断されてしまう。また、次にテストを受けたときには13,14,13,13,14に微妙な誤差が出るとする。この場合はbabbaに変化するように見えてしまう。もちろんこの場合は、このどちらとも違う。あくまで平坦型なのでaaaaaあるいはbbbbbの項目を見るべきである。
[編集] 外部リンク
・・・無料で出来る統計的に分析(因子分析 信頼性分析)を行った心理テスト。全国2000人以上を対象。 エゴグラム診断は数多く出回っているが、統計を公開しているものは数少ない。
・・・古典的なエゴグラム。ただし、信頼性、妥当性に疑問がある。結果は、占い的要素が高い。 エゴグラムの普及に貢献した意味では、評価は高い。