銀河鉄道の夜
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
文学 |
ポータル |
各国の文学 記事総覧 |
出版社・文芸雑誌 文学賞 |
作家 |
詩人・小説家 その他作家 |
『銀河鉄道の夜』(ぎんがてつどうのよる)は、宮沢賢治の童話作品。
これまで数度にわたり、映画化やアニメーション化、演劇化されている。
目次 |
[編集] 解説
1924年ごろから執筆が開始され、1933年の賢治の死の直前まで推敲がくりかえされた。『銀河鉄道の夜』は、4回にわたる改稿が認められており、3回目までの稿と現存最終稿の話の展開には、重大な差異がある。しかし、これは『校本宮澤賢治全集』(筑摩書房、1973-1977)の編纂作業の途上で明らかにされたもので、それ以前の刊本では、この数次の改稿をまとめる編集がなされている事は注意を要する。また、決定稿と言えるものが無く、いずれの稿においても原稿が数枚紛失している為、次に紹介する内容は必ずしも確定的なものではない。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] あらすじ(最終稿)
一、午後の授業 疲れていたジョバンニは、天の川が本当は何なのか先生に質問されたが答えることができない。次に指されたカムパネルラも、ジョバンニのことを思いわざと答えない。
二、活版所 ジョバンニは冷たい大人たちの中で活字拾いをする。仕事を終え、パンと角砂糖を買って家へ急ぐ。
三、家 病気の母と、漁に出たきり帰ってこない父のことやカムパネルラのことなどを話す。
四、ケンタウル祭の夜 母の牛乳を取りに牛乳屋に行くが、出てきた老婆は要領を得ず牛乳をもらえない。いじめっ子のザネリたちに悪口を言われ、一人町外れの丘へ向かう。
五、天気輪の柱 天気輪の柱の丘でジョバンニは一人寂しく孤独を噛み締め、親友カムパネルラのことを思う。
六、銀河ステーション 突然、耳に「銀河ステーション」というアナウンスが響き、目の前が強い光に包まれ、気がつくとカムパネルラと銀河鉄道に乗っている。
七、北十字とプリオシン海岸 白鳥停車場の20分停車の間にプリオシン海岸へ行き、化石の発掘現場を見る。
八、鳥を捕る人 気のいい鳥捕りが乗車してくる。彼は、鳥を捕まえて売る商売をしている。ジョバンニとカムパネルラは鳥捕りに雁を分けてもらい食べるが、お菓子としか思えない。突然鳥捕りが車内から消え、川原でさぎを捕り、また車内に戻ってくる。
九、ジョバンニの切符 車掌が来る。ジョバンニの切符は、ほかの乗客のものとは違っていた。気がつくと鳥捕りの姿は消え、鷲の停車場の手前で青年と姉弟が現れる。彼らは、乗っていた船が氷山に衝突して沈み、気がつくとここへ来ていたのだという。 やがて、サウザンクロス(南十字)で、乗客達は降りてゆき、列車内はジョバンニとカムパネルラの二人だけとなる。二人はどこまでも一緒に行くことを誓うが、カムパネルラがいつの間にかいなくなってしまう。一人丘の上で目覚め、町へ向かったジョバンニは、カムパネルラが川に落ちたザネリを救おうと川に入って行方不明になっていることを知る。
[編集] 登場人物
- ジョバンニ
- 主人公の男子学生。年齢不詳。家庭は貧しく、病気の母が寝込んでいるので、早朝には新聞配達、学校が終わってからは活版所でアルバイトをしている。ジョバンニには姉がいて、料理を作ったりするようだが年齢などは不詳。ジョバンニの父は長らく家に帰ってきていないようだ。父の職業は漁師のようだが、らっこ密猟により投獄されているとの噂がたっており、近所の子供たちはそのことをでジョバンニをいじめており、ジョバンニにはカムパネルラのほかに友達がいない。
- カムパネルラ
- ジョバンニと同じ学校の男子学生。年齢不詳。ジョバンニの親友で、父もジョバンニの父と小さい頃から親友である。そのため、ジョバンニには悪口は言わない。ジョバンニとともに銀河鉄道に乗り込み、ずっと一緒だと誓う。しかし、その後カムパネルラは突然ジョバンニの前から姿を消す。なお、出版物によっては「ラムプシェード」という表記があることを典拠として、「カンパネルラ」という表記に修正される場合がある。
- ザネリ
- ジョバンニと同じ学校の生徒。ジョバンニの父がらっこ密猟により投獄されているという噂を流している張本人で、ジョバンニに対して悪口をよく言う。瓜流しの際に河に落ち、カムパネルラに助けられるが……
- ブルカニロ博士
- 初稿〜第3稿において、結末などに登場する「セロのような優しい声をした」大人。ジョバンニを銀河鉄道の「実験」へと誘った人物。
[編集] 映画化作品
[編集] 劇場用アニメ映画
- 銀河鉄道の夜(1985年制作)
独特の淡く美しい色彩、幻想的であり儚い世界観は、評価が高い。そして、主要登場人物を人間ではなく擬人化した猫として描いた奇抜な設定が目を引く。これはますむらひろしが(アニメ版のもとになった)漫画化に際して施した脚色で、賢治の実弟である宮沢清六は、当初これに反発した(『校本宮澤賢治全集』の編集者である天沢退二郎らの説得により了承。最終的に作品の仕上がりを評価した)。研究者の間でも最後まで「猫」への変更を了としない向きもあった。この経緯はますむらの著書『イーハトーブ乱入記』(ちくま新書)に詳しい。
また、この映画を観て「原作でも登場キャラは猫なのだろう」と勘違いする人が、少なからず存在する。小谷野敦(比較文学者)も、この様な影響を及ぼした事は好ましくないとして批判している。
なお、本作にはタイタニック号の沈没をモチーフとしたエピソードが登場するが、この映画の音楽を担当した細野晴臣の祖父(細野正文)が実際のタイタニック号に乗船していたことが公開当時奇縁として紹介された。
[編集] 劇場用実写映画
- 銀河鉄道の夜 ~I carry a ticket of eternity~(2006年制作)
- 監督:秋原正俊
- 脚本:落合雪恵
- 音楽:梅津和時
- 出演:谷村美月、市川男寅、松田洋治、源崎知枝、小橋めぐみ、斎藤洋介、勝野洋 ほか
- 映画「銀河鉄道の夜 ~I carry a ticket of eternity~」公式サイト
[編集] 舞台化作品
[編集] ミュージカル
「本作品は多くのミュージカルが制作されてきたが、どれも納得できない」と台本の市川氏は語る。その反省を踏まえて「原作に忠実に、余計なことを語らない。」をモットーに「今までの脚本家人生で最高の作品のひとつに仕上がった。」とのこと。賢治の求め続けた「本当の幸い」を観る者に共に考えさせる作品となっている。 演出、音楽、美術なども豪華なスタッフを集め、特に幻想的な銀河の舞台背景や、得意の民舞を生かしたケンタウルス祭のシーンなどは圧巻である。
[編集] 演劇
- イーハトーボの音楽劇「銀河鉄道の夜」(主催・こどもの城)
- 公演時期:
- 初演 1995年8月3日-7日(全9ステージ)
- 再演 1996年11月23日-30日(全11ステージ)
- 公演会場:青山劇場
- 脚本:能祖将夫
- 演出:白井晃
- 音楽監督:中西俊博
- 舞台美術:小竹信節
- 作詞:さねよしいさ子、宮沢賢治、能祖将夫
- 作曲:中西俊博、さねよしいさ子、宮沢賢治
- 振付:川原あけ美
- 出演:伊崎充則、石村美果(現・石村実伽)、清水明彦、さねよしいさ子、赤星昇一郎、岡本麻弥、富浜薫、深貝大輔 、陰山泰 ほか
- 光速銀河鉄道の夜(賢治島探検記内)
演劇集団キャラメルボックスの成井豊が宮沢賢治作品を数作品を組み合わせて上演したものの一編。銀河鉄道の夜のエピソードを簡潔に展開、ラストには広く知られている最終稿と言われているエピソードだけではなく、初稿から第3稿に入っているブルカニロ博士の台詞も使用している。
- 想稿 銀河鉄道の夜
[編集] 関連事項
- 国立天文台水沢観測所(銀河鉄道の夜の構想を育んだ場所と考えられる)
以下の多くは、この作品を作品展開や命名の由来にしている。
- 銀河鉄道999(松本零士)
- のび太と銀河超特急(藤子・F・不二雄)
- 釜石線(銀河ドリームライン釜石線、旧岩手軽便鉄道線)
- IGRいわて銀河鉄道
- 銀河鉄道の夜 (歌曲)(GOING STEADY,銀杏BOYZ)
- 夜会VOL.13「24時着 0時発」(中島みゆき)
[編集] 参考文献
- 入沢康夫、天澤退二郎『討議「銀河鉄道の夜」とは何か』青土社、1977。
- 土屋隆『「銀河鉄道の夜」比較』青空文庫、2005。