迷信
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迷信(めいしん)とは、広く流布されているが科学的な根拠の全くない知識のこと。もしくは、それらを誤信することである。特に、社会に悪影響を及ぼすようなものを指し、多くは超自然現象的な内容を含む。「噂をされるとクシャミが出る」程度の俗信は、迷信とまでは分類しないのが一般的である。血液型による性格分類などは、「全体的に見れば一致する傾向がある」との意見もあるとはいえ、面接において血液型を見るだけで志望者を落としてしまうなど、差別につながったり科学的事実であると誤認されたりするという影響があり、血液型を盲信してしまうことには大いに問題がある。
迷信を研究対象とする学問は民俗学だが、現代の民俗学者たちは「迷信」という用語をあまり使わない。なぜなら上記のように、「迷信」という語の定義が現代社会の科学知識に基づいた善悪的視点による分類だからであり、迷信を民間知識の一環として伝承している社会や集団を分析するに際しては、このような否定的分類が意味を成さないからである。
古来、人間のあいだで科学的思考が確立していなかった頃から様々な迷信が存在し、その一部は現在にも受け継がれているが、現代にもなお新たな迷信は誕生しており、現代のものは科学的に根拠のある知識を装っているもの(そのようなものを疑似科学という)が多いため、現代における科学信仰との相乗効果によって影響の程度はより大きい。
また、望ましからぬ行為を抑制するために用いられている可能性のある迷信も存在する。たとえば「夜に爪を切ると親の死に目に会えない(夜に爪を切ると「夜爪(世詰め)」といって早死にする)」「夜口笛を吹くと蛇が出る」などは、夜の静まりかえった時間に、他人の爪を切る音や口笛を聞くことに不快感を覚えることがある。そこで中止してもらいたいために「うるさいから」「いまその音(口笛)を聞きたくない」というと、相手に逆に不快感を負わせたり、また相手に開き直られたときにそれ以上抗弁する強い理由も存在しないこともあり、このような迷信は一種の抑制効果や人間関係の潤滑化を狙ったもの、とも推察される(機能主義)。口笛については日本以外にも類例があることから、もともと宗教的な意味合いを持っていた可能性も高い。
また、子供を指導するのに、正当な理由や科学的根拠で説得しても理解しない、あるいは納得しないため、迷信を話して諭すケースもある。例えば「靴下を履いて寝ると親の死に目に会えない」という迷信は、本来は手足は子供の体温調節に重要な役割をしているため、寝るときは極寒でない限りはずすことが望ましいのであるが、ちょっと寒いぐらいで子供がはずしたがらなかったりする時、そういう迷信を話して子供を諭すのである。また、このような迷信は、過保護な保護者(このケースの場合、ちょっと寒いだけで子供に靴下を履かせて寝させようとする親など)に対しても有効である可能性もある。
ジンクスと呼ばれる因縁話も迷信に近いものであるが、単なる俗信や経験則もこれに含まれる。英語圏でのジンクス(jinx)という言葉は、悪運や不運、またはそれらに見舞われた状態など、縁起の悪い事柄を限定して指す。
一部の民間信仰は世間の都合によって「迷信」とされる事がある。例えば、「山の神を怒らせてしまう」という理由で日本のトンネル工事は女人禁制であったが、「女性差別だ」という不満が発生した為、2005年にトンネル工事の女人禁制は「迷信」のレッテルが貼られ、規制の見直しが検討された。
[編集] 迷信の例
- 夜に口笛を吹くと、蛇(または妖怪、お化け)が出る(かつて日本で人身売買が行われていた時代、摘発されないために多くが人目のつかない夜に売買取引を行っていた。その際、売人を呼ぶ合図が口笛だったため、「蛇(妖怪、お化け)が出るから吹かないように」という子供への警告が形を変え、現代まで残っている一例)
- 金髪の人は馬鹿(欧米人の迷信。アメリカン・ジョークでは「金髪女性は馬鹿(というより天然ボケ)」だという暗黙の了解があり、「ブロンド・ジョーク」というジャンルがある。この迷信を基にしたのが映画『キューティ・ブロンド』シリーズである)
- 風邪は人にうつすと治る
- しゃっくりが100回出ると死ぬ
- ワカメやコンブを食べると、頭髪が増える
- 夜に爪を切ると親の死に目に会えない(夜に爪を切ると「夜爪(世詰め)」といって早死にする)
- 霊柩車を目撃したら親指(或いは他の指)を隠さないと親族が亡くなる
- 靴下を履いて寝ると親の死に目に会えない
- 丙午の年に生まれた女性は、鬼となって家族(親・夫・子供)を苦しめる(実際に丙午の年は出生数が極端に減少していたが、近年は少子化の影響で他の年と比べてもあまり変わらない)