合金
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合金(ごうきん、Alloy)とは、金属元素に、1種類以上の金属元素または非金属元素を意識的に添加することによって構成される物質のうち、金属的性質を持つものの総称である。【通常使用する金属はわずかな不純物を含む。しかし、意識的に添加しない不純物についてを合金元素としては考えない。】合金製造の目的は、単純な金属では引き出しえなかった性質を具現することにある。特に鉄合金はその多彩な種類で他合金を圧倒し、鋼(はがね)とも呼ばれる。
例えば、黄銅は銅(金属元素)と亜鉛(金属元素)の合金で、鋼は鉄を主体とした合金という意味がある。しかし鋼の場合、過剰あるいは僅少な炭素添加のものは歴史的に鋳鉄、純鉄と呼ばれる。鋼の原義は0.6mass%を中心にその前後の炭素量のものを鋼(刃金)と呼び、金属組織的にはマルテンサイト構造と呼ばれるものであったが、ステンレス鋼(「こう」と呼ぶ。単純に「鋼」であれば「はがね」と呼び、「~鋼」となっている場合「~こう」と呼ぶ。)が開発されるにあたり、炭素を必須とした合金以外でも鋼と呼ばれるようになった。しかしこれは鉄を主体とした合金であることには変わりなく、鉄含有量が50%以下になると、鉄が含有されているものでも鋼ではなく合金と呼ばれる。このように歴史的紆余曲折があり鋼の定義は難しいものになっている。
金属の固溶体や、金属間化合物なども合金の範疇に含まれる。主要成分元素の数が2つなら2元合金、3つなら3元合金、4つなら4元合金・・・と呼ぶ。主体となる金属によって、合金鋼、銅合金、ニッケル合金・・・と呼ぶ。合金の作製方法には、単純に数種類の金属を溶かして混ぜ合わせる鋳造法や、近年開発されたボールミル装置を使用したメカニカルアロイングなどがある。合金の生成判断ができやすいようにと、さまざまな合金の状態図が作成されている。特に、鋼に関するFe-C系状態図は有名である。
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[編集] 合金化の目的と概要
[編集] 機械的強度の改善(析出硬化・他)
一般に純金属は弾性限界(永久変形が生じる応力)が小さい。というのは通常の金属結晶は不完全な部分(転位)を含んでおり、転位の移動による変形が小さな応力でおこりやすいためである。合金化によって、結晶を構成する金属元素と大きさの違う金属元素に置換させたり、結晶のなかに小さな元素を侵入させたりして、結晶のひずみを作ることによって、転位の移動をしにくくして機械的強度(硬さ、引張り強度)を向上させることができる。ジュラルミン・鋼などの合金がその例である。鋼などの機械的強度の改善の主流は、マルテンサイトという特殊な組織変化を熱処理により起こし最大5倍以上強化するが、これも合金化で達成される好例である。鋼は幅広い産業に大量に用いられる用途なので合金化による強度改善の効果の総量は計り知れないものがあり、熱処理前は比較的加工がし易いことも産業界へ多大な寄与をする。熱処理により鋼より強度増幅効果をもつ固体を人類は未だ知らない。
[編集] 耐食性の向上
金属元素のなかには、Crのように、その酸化物が、皮膜(不動態)を作り内部までの酸化の進行を防ぐ性質をもつものがあり、それらの金属の添加により耐食性のある合金とすることが行われる。ステンレスが例である。
[編集] 融点の低下
共晶をつくる合金(例えばSn-Pbなど)では、それぞれの単独の金属の融点に比べて合金の融点を下げることができるため、より低融点の金属を得ることができる。それぞれ単独の金属では融点に達しない温度であっても、合金になった状態での融点よりは高い温度で二種類の金属を接しておくと、接している部分から合金となって融けてゆく現象が起こる。たとえば、低融点の金属を加熱して液体とし、そこに高融点の金属を投入することで融かし込んで合金を作ることができる。
[編集] 関連項目
[編集] 合金の種類(合金名索引)
名称 | 分類 | 成分 | 用途 |
鋼(はがね) ・高張力鋼(ハイテン) ・高速度鋼 (ハイス) ・刃物鋼 |
鉄合金 | Fe-C | 構造材、刃具他 |
クルップ鋼 | 合金鋼 | ニッケルクロム鋼に 浸炭処理 |
装甲 |
ステンレス鋼 | 鉄合金 | Fe-Ni-Cr | 構造材、容器、配管 |
マルエージング鋼 | 鉄合金 | Fe-18~30Ni(Co,Mo) | 航空宇宙用構造材、ゴルフクラブヘッド素材 |
インバー | 鉄合金 | Fe-36Ni | 時計部品、実験装置 |
コバール | 鉄合金 | Fe-29Ni-17Co | 低膨張率合金 |
センダスト | 鉄合金 | Fe-9.5Si-5.5Al | 高透磁率合金、磁気ヘッド |
パーメンデュール | 鉄合金 | Fe-Co | 高透磁率合金 |
ケイ素鋼 | 鉄合金 | Fe-Si | 高透磁率合金 |
KS鋼 | 鉄合金 | Fe-Co-W-Cr | 磁石材料 |
スピーゲルアイゼン | 鉄合金 | Fe-15Mn | 脱酸剤・脱硫剤 |
黄銅(真鍮:しんちゅう) | 銅合金 | 60Cu-40Zn他 | バルブ、軸受 |
丹銅 | 銅合金 | Cu-5~20Zn | 建材、装身具 |
トムバック | 銅合金 | Cu-15Zn | 貨幣、装身具 |
洋白(洋銀) | 銅合金 | Cu-27Zn-18Ni | 食器・バネ・金管楽器 |
青銅 | 銅合金 | Cu-Sn | 軸受 |
白銅(キュプロニッケル) | 銅合金 | Cu-Ni | 貨幣 |
赤銅 | 銅合金 | Cu-Au | 工芸用材料 |
コンスタンタン | 銅合金 | 55Cu-45Ni | ひずみゲージ、熱電対 |
ノルディック・ゴールド | 銅合金 | 89Cu-5Al-5Zn-1Sn | 貨幣 |
クニフェ | 銅合金 | 60Cu-20Ni-20Fe | 電球内のリード線 |
ジュラルミン | アルミ合金 | Al-Cu | 構造材 |
シルミン | アルミ合金 | Al-Si共晶 | 鋳造材料(AC-3) |
インコネル | ニッケル合金 | 72Ni-15Cr-Fe他 | 耐熱合金 |
ハステロイ | ニッケル合金 | 50Ni-Mo-Cr-Fe | 耐熱・耐食 |
モネル | ニッケル合金 | 63Ni-28~34Cu | 耐熱・耐食 |
ニクロム | ニッケル合金 | 80Ni-20Cr他 | 電熱合金 |
パーマロイ | ニッケル合金 | Ni-Fe | 磁気ヘッドなど |
マグネシウム合金 | その他 | Mg-Al他 | 筐体 |
ステライト(タロナイト) | その他 | Co-30Cr-10W他 | 刃具・表面処理材料 |
フェロマンガン | その他 | Mn-Fe | 脱酸剤・脱硫剤 |
はんだ | その他 | Pb-Sn他 | 接合(低融点合金) |
活字合金 | その他 | Pb-Sn-Sb | 印刷用活字 |
ウッドメタル | その他 | 50Bi-27Pb-13Sn-10Cd | 低融点合金(融点約70℃) |
ガリンスタン | その他 | 68.5Ga-21.5In-10Sn | 低融点合金(融点約-19℃) |
ピューター | その他 | Sn-Sb | 工芸用鋳物材料 |
バビットメタル | その他 | Sn-Cu他 | 軸受合金 |
超硬合金 | その他 | WC/Co | 切削刃具他 |
ウィディア | その他 | WC/Co | 超硬合金のクルップ社の商標 |
ホワイトゴールド | その他 | Au-Ni-Pd | 装飾品、貨幣 |
スターリングシルバー | その他 | Ag-Cu | 食器、装飾品、貨幣 |
ミッシュメタル | その他 | Ce-La他 | 発火石 |
アマルガム | その他 | Hg-Au他 | めっき |