華岡青洲
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華岡 青洲(はなおか せいしゅう、宝暦10年10月23日(1760年11月30日) - 天保6年10月2日(1835年11月21日))は江戸時代の外科医。世界で初めて乳癌の麻酔手術を行い、実際の事例として行われた世界最古の麻酔手術である(中国・三国時代の医師『華陀』やインカ帝国で麻酔手術を行ったと云う記録があるが、実例として証明されている麻酔手術は華岡青洲の物が最古)。
1760年(宝暦10年)に紀伊国(後の和歌山県那賀郡那賀町平山、現在の紀の川市平山)に生まれる。1782年より京都で3年間の医学(古来の医術とオランダ式医術)を学び、1785年帰郷して父・華岡直道の後を継いで開業。
手術での患者の苦しみを和らげ、人の命を救いたいと考え麻酔薬の開発を始める。研究を重ねた結果、曼陀羅華(まんだらげ)の花(チョウセンアサガオ)、草鳥頭(そううず・・・トリカブト)を主成分とした6種類の薬草に麻酔効果があることを発見。動物実験を重ねて、麻酔薬の完成までこぎつけたが、人体実験を目前にして行き詰まる。
実母・於継と妻の加恵が実験台になることを申し出て、数回にわたる人体実験の末、加恵の失明という犠牲の上に、全身麻酔薬「通仙散」を完成。文化元年(1804年)10月13日、60歳の女性に対し通仙散による全身麻酔下で乳癌摘出手術に成功。これは、1846年にアメリカでジエチルエーテルによる麻酔よりも40年ほど前のことであった。
その後、華岡青洲の名は全国に知れ渡り、患者や入門を希望する者が彼のもとに殺到した。また、青洲は、門下生の育成にも力を注ぎ、医塾「春林軒(しゅんりんけん)」を設けた。
また、青洲はオランダ式の縫合術、アルコールによる消毒などを行い、腫瘍摘出術などさまざまな手術法を考案した。
目次 |
[編集] 通仙散の配合
通仙散の配合は門外不出とされていたが、弟子の記録によると、曼陀羅華八分、草烏頭二分、白芷(びゃくし・・・"し"は草冠に止)二分、当帰二分、川芎(せんきゅう・・・”きゅう”は草冠に弓)二分であった。これらを細かく砕き、煎じて滓を除いたものを暖かいうちに飲むと、2~4時間で効果が現れた。しかし、やや毒性は高かったらしく、扱いは難しかったという。
[編集] 小説「華岡青洲の妻」
和歌山県出身の小説家である有吉佐和子によって、小説『華岡青洲の妻』が1966年に新潮社から出版されベストセラーとなる。この小説により医学関係者の中で知られるだけであった華岡青洲の名前が一般に認知される事となる。小説では華岡青洲の功績を、実母と妻との「嫁姑対立」と云う現代にも通じる問題に絡めながら、実母や姉・妻の献身的な協力無くしては成されなかった物として描かれている。
[編集] 映画化
1967年、大映によって制作された。監督は増村保造、脚本は新藤兼人。昭和42年度芸術祭参加作品。
嫁姑の葛藤を描きながら、江戸時代の「男女共同参画社会」を考えさせてくれる名作である。そのような視点からも重要な作品であるにも関わらず、日本のフェミニストには華岡青洲が男尊女卑の存在として毛嫌いされる事情もあり(おそらく妻が実験台になった点からであると思われる)、正当な評価は得られていない。
- <主なキャスト>
[編集] テレビドラマ化
放送年 | 華岡青洲役 | 妻・加恵役 | 母・於継役 | 放送局 | 回 | |
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1960年(昭和35年) | フランキー堺 | 津島恵子 | 夏川静枝 | - | シリーズ | 題:『雑草の歌~麻酔~前後編』 |
1967年(昭和42年) | 岡田英次 | 南田洋子 | 水谷八重子 | NETテレビ系 | シリーズ | ポーラ名作劇場 |
1973年(昭和48年) | 浜畑賢吉 | 新橋耐子 | 月丘夢路 | TBS系 | シリーズ | |
1980年(昭和55年) | 江守徹 | 竹下景子 | 新珠三千代 | 日本テレビ系 | 単発 | 木曜ゴールデンドラマ |
1989年(平成元年) | 竹脇無我 | 十朱幸代 | 淡島千景 | フジテレビ系 | 単発 | |
1992年(平成4年) | 三浦友和 | 小泉今日子 | 森光子 | フジテレビ系 | 単発 | 金曜ドラマシアター |
2005年(平成17年) | 谷原章介 | 和久井映見 | 田中好子 | NHK総合 | シリーズ全6回 | 金曜時代劇 |
[編集] 舞台化
発表年 | 華岡青洲役 | 妻・加恵役 | 母・於継役 | 公演 |
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1967年(昭和42年) | 田村高廣 | 司葉子 | 山田五十鈴 | 東宝 |
1970年(昭和45年) | 北村和夫 | 小川真由美 | 杉村春子 | 文学座 |
1971年(昭和46年) | 北村和夫 | 小川真由美 | 杉村春子 | 文学座 |
1972年(昭和47年) | 北村和夫 | 渡辺美佐子 新橋耐子 |
杉村春子 | 文学座 |
1973年(昭和48年) | 中村勘三郎 | 水谷八重子 | 杉村春子 | 文学座 |
1975年(昭和50年) | 中村富十郎 | 大塚道子 | 杉村春子 | 文学座 |
1980年(昭和55年) | 高橋悦史 | 池内淳子 | 杉村春子 | 文学座 |
1981年(昭和56年) | 高橋悦史 | 太地喜和子 | 杉村春子 | 文学座 |
1984年(昭和59年) | 中村吉右衛門 | 水谷良重 | 杉村春子 | 文学座 |
1987年(昭和62年) | 北村和夫 高橋悦史 |
太地喜和子 新橋耐子 |
杉村春子 | 文学座 |
1990年(平成2年) | 市川團十郎 | 杉村春子 | 松竹 | |
1990年(平成2年) | 萬屋錦之介 | |||
1991年(平成3年) | 平幹二朗 | 十朱幸代 | 山田五十鈴 | |
1992年(平成4年) | 田村高廣 | 水谷良重 | 山田五十鈴 | |
1996年(平成8年) | 江守徹 | 平淑恵 | 杉村春子 | 文学座 |
1996年(平成8年) | 坂東八十助 | 古手川祐子 | 山田五十鈴 | 宝塚劇場 |
1997年(平成9年) | 市川團十郎 | 池内淳子 | 藤間紫 | |
1997年(平成9年) | 津嘉山正種 | 八千草薫 | 淡島千景 | |
1998年(平成10年) | 外山誠治 | 渡辺多美子 | 吉野由樹子 | 紀伊国屋サザンシアター |
1998年(平成10年) | 中村橋之助 | 水谷八重子 | 淡島千景 | 大阪松竹座 |
2001年(平成13年) | 外山誠二 | 渡辺多美子 | 吉野佳子 | 地方巡回 |
2002年(平成14年) | 高嶋政宏 | 富田靖子 | 八千草薫 | |
2004年(平成16年) | 勝野洋 | 波乃久里子 | 池内淳子 | |
2007年(平成19年) | 勝野洋 | 波乃久里子 | 池内淳子 |