男おいどん
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『男おいどん』 (おとこおいどん)は、4畳半の下宿である「下宿館」における主人公、大山昇太(おおやま のぼった)をはじめとする若者たちの青春群像を描いた松本零士の漫画作品である。
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[編集] 概要
老朽下宿で四畳半の部屋を借りて極貧生活を送る大山昇太を主人公とし、彼を取り巻く人々の生活を描いている。彼の部屋の押し入れにはパンツ(サルマタ)が山積みとなっており、碌に洗濯もしないため、雨が降ればサルマタケと称する茸が生える程の状況で、あまりの貧困ゆえに、サルマタケも食用にされる。
世界各国で出版されている同作者の主力となっているSF作品とは異なり、日本の集合住宅である4畳半部屋の住人を扱った『大四畳半シリーズ』の1作品である。この作品は、日本国内の松本零士ファンを中心として根強い人気があり、作品に描かれている人々の情や主人公の意気込みについては、実に味わいが深いといわれる。
また、この作品は、作者である松本零士本人の回想録であるとみなされる場合も多く、作者の人間観を強く現わしている作品と考えられることもある。作者自身も同作品のキャラクターには事のほか思い入れが強いらしく、よく似た・もしくはほぼ同一キャラクターが他作品にもしばしば登場しており、その貧しいながらも誠実で、大抵は空腹ながらもエネルギッシュな、しばしばボロゆえの乱暴さとバイタリティーが各々の作品に独特の雰囲気を与えている。
[編集] あらすじ
時は1970年代、場所は日本の東京・練馬。「無芸大食人畜無害」を信条とし、貧しくも概ね正直に浪人生活を送り続けるチビでガニマタ・ド近眼・ブ男・サルマタ怪人とまでに呼ばれる大山昇太の周囲には、何故か様々な女性があらわれては通り過ぎてゆく。
[編集] 主な登場人物
- 大山昇太(おおやま のぼった)
- 自分についておいどんという一人称をつかう主人公。下宿館の2階の西向き4畳半の部屋に住む。はっきりとした年齢は分からないが、物語中では、16歳くらいから徐々に22歳くらいまで進行していると考えられる。故郷は九州。中学校を卒業した後に東京に移り、アルバイトをしながら高等学校の定時制の課程の夜間部(夜間高等学校)に通っていたが、勤務先の工場をクビになった際、中途退学してしまう。それでもめげずに学校に戻ろうとしているが、状況は日々の生活を送ることで精一杯のようだ。ストーリーの最後にほぼ必ず「トリよ、おいどんは負けんのど!」と言う。それにたいしてトリさんは「なーにか」と返事をする。トリにしか心情を吐露することが出来ないおいどんの孤独感を強調しストーリーを閉める。
- 下宿館には風呂があるが殆ど入浴せぬゆえか、自身がインキンであるために白癬菌感染症(→水虫)の治療薬に詳しく、自他共に認めるインキンのオーソリティであるが、それが生活の足しになった事は無い。夏場は蒸れてインキンが悪化するため、下宿内ではランニングシャツとサルマタだけでうろつく事があり、新しく入った若い女性下宿人には些か不評だが、暫らく住んでいる女性下宿人にはほとんど気にされていない(むしろ同情される)という「人畜無害」ぶりである。
- 下宿館のバーサン
- 下宿館の所有者であり、管理人でもある。箒や包丁を振り回したりと、かなりパワフルな老婆であるが、人情家でもある。死別した夫がいる(風邪をこじらせたらしい)。大山昇太の家賃の支払いは滞っているようであるが、追い出そうとはしないで、逆に空腹や風邪で倒れた大山に玉子酒や食べ物を与えたりもしている。
- 人の頭程の凄まじい大きさのステーキを焼いたこともある。
- 紅楽園のオヤジ
- 妻と中華料理店「紅楽園」を経営している。こどもはいない様子。ちなみに大山昇太の好物は、この店のメニューにもあるラーメンライスである。人情に篤く、しばしば大山昇太にはアルバイトを提供したりもするが、ツケだけは受け付けないようだ。ただし感動したり同情した場合には、オゴリと称してラーメンにライスや卵を付けるなどしている。同店の経営状況は「繁盛せず、しかして潰れもせず」だが、近所の労働者(ブルーカラー)層にも人気があるようだ。
- トリさん
- 大山昇太の部屋にいる鳥。下宿館の住人だった浅野さんから譲り受けた。海外の船乗りから譲り受けたらしくよくしゃべるが、かなりがらが悪い奇声を発する。松本零士の漫画によく出てくる特徴的な姿をした鳥である。よく、おいどんが「食うど」と脅すが、食べるとしたらとてもまずそうな鳥である。サルマタケとインキンの薬が大好物と云う悪食で、しばしば大山昇太と食べ物の奪い合いをしている。この他にも大山昇太はしばしば「非常食」と称して野良猫を飼うなどしていたが、交通事故で死なせるなどしており、作品を通して飼われ続けたのはこのトリさんだけである。
- 下宿館の住人たち
- 数々の大学生や大学受験浪人生の女性・男性が入れ替わりで住んでいく。中には世相を反映してか、親の脛を齧る経済的に潤っている浪人生までいる。このほかにも博徒(ヤーさん)や無業者等といった生活に困窮している人たちもいるが、いつの間にか引っ越したりしていて、同下宿では大家のバーサンを除けば大山昇太が一番の古株のようだ。