特別支援教育
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特別支援教育(とくべつしえんきょういく)は、日本の障害児教育の新しい呼称。2001年の春から文部科学省は、旧来の特殊教育という言い方に代わって、この呼称を使用している。文部科学省では、英語表記はspecial support educationという表現を充てている。2006年3月、学校教育法施行規則の一部改正(同4月施行)に続き、2006年6月、「学校教育法の一部改訂に関する法案」が国会を通過し、2007年4月より、盲学校、聾学校、養護学校は、すべて障害の種類を越えて、特別支援学校という呼称に統一され、例えば、視覚障害者を主として教育する特別支援学校というようになり、同時に地域の小・中学校等の支援もすることとなった。また、教員免許の制度もこれに合わせて変更されることになった。従来の障害児の種類分けに加えて、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、高機能自閉症などの子どもたちにも、地域や学校で総合的で全体的な配慮と支援をしていくことになった。
単に障害児をどう教えるか、どう学ばせるかではなく、障害をひとつの個性としてもった子、つまり「支援を必要としている子」(children with special needs)が、どう年齢とともに成長、発達していくか、そのすべてにわたり、本人の主体性を尊重しつつ、できる援助のかたちとは何か考えていこうとする取り組みである。「障害児」から「支援を必要としている子」へという言い方は、文部科学省の「特別支援教育について」という資料の中に出てくる表現である。また、このために、福祉や医療等と協力をして「個別の教育支援計画」を策定することも考えられている。
ただ、学校教育法でいう従来の障害児の定義は、まだ狭いもので、言語障害児や情緒障害児はもとより、LD、ADHDの子供たちは含まれていない。そういう子供たちから、不登校、不適応、健康障害児まで含めて、発達の援助を考えていく。発達支援には、学習の他にも運動発達支援、余暇支援、進学・就職支援なども含めて考えられる。
なお、アメリカなどの諸外国では、発達支援教育の対象はハンディキャップのある児童に限らず、能力が著しく高い児童(ギフテッド・英才児)も対象となっている場合がある。
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[編集] 特殊学級から特別支援教室へ
2005年12月にまとめられた「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」の答申では、これまでの特殊学級にかわって、特別支援教室という新しい制度が始まる予定であった(外部リンク参照)。そのために、従来の障害児教育を支えてきた学校教育法75条に規定された障害児学級(法制上は「特殊学級」)が無くなり特別支援教室となるとされている。しかし、これまで積み重ねてこられた、知的障害学級、情緒障害児学級、難聴学級、弱視学級、病虚弱学級、肢体不自由学級など専門性を持ってきた学級がどうなるのかは明らかにされていなかった。しかし2006年6月に成立した「学校教育法等の一部を改正する法律案」では特殊学級を特別支援学級に変更するものとされている。
特別支援教室では、これまで通常学級に在籍していて、対象とされなかったLD、ADHD、高機能自閉症(アスペルガー症候群)、軽度発達障害といわれる子どもたちが対象に含まれ、特別な支援を受けることが予定されている。そのためにこれまで存在していた上記の学校教育法75条の学級も廃止されることが予定されており、その対象となっていた子どもたちも特別支援教室での取り出し指導の対象となる。
学級として存在していた障害児学級が無くなることは実質的には人員削減となり、その上に新たにLD等の子どもたちへの支援が可能なのか論議の的になっている。文部科学省はLD、ADHD等の子どもの通常学級での存在が全児童生徒の6.3%と指摘しており、500人規模の学校で30人は存在することになり、現在の障害児学級生徒を合わせて特別支援教育の対象とするとしている。
障害児学級を廃止して実質的な人員の削減の上に予定される新たな取り組みに対してその実施の困難が実際にこれらの子どもたちと関わっている人々から危ぶまれている。文部科学省はこれらの課題に対して明確な方針を示してはいず、上記の新たな対象に対する教育の必要性を強調するばかりである。「地方の実情に合わせて」などという発言から、これらの問題を地方の判断に任せてしまうのではないかとの見方も強い。実質的な制度的保障をともなわないこの政策に対する不安が現場や各地方で渦巻いている。
また、今までの盲・聾・養護学校には、地域のセンター的な機能を人員の配置に言及せずにもとめている。すなわち盲・ろう・知的養護・病弱養護・肢体不自由養護などの学校種別を廃止し、それらを全て「特別支援学校」とすることが予定されているのである。こうした政策を先導する形で、一部の地方では校内指導にあたる教員を大幅に削減し、外部の相談にあたる教員に配置転換した結果、本当に特別な支援が必要な重度の障害がある児童生徒たちへの教育的な取り組みが危うくなっているケースも見られはじめている。このように、人的資源を大量に必要とする障害児教育の宿命から目を逸らし、制度の手直しによってあたかもバラ色の教育が実現するかのように語られている「特別支援教育」の理想とは相容れない現実が存在する。
[編集] 盲・聾・養護学校から特別支援学校へ
2007年4月より盲・聾・養護学校は、特別支援学校へ一本化される。これは障害の種類によらず、一人一人の特別な教育的ニーズに応えていくことも背景にあるが、今後も盲部門、聾部門、肢体不自由部門など、学校ごとに主として教育を行う障害種が決められる方向である。
中央教育審議会の「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」の中間まとめは2004年8月に出され、2005年12月8日に答申された。賛成反対を問わず教育関係者に注目された。それを受けて国会に提出された「学校教育法等の一部を改正する法律案」が2006年6月15日に可決・成立し、6月21日に公布された。これにより2007年4月から正式に実施されることとなった。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 特別支援教育について文部科学省
- 自立をめざして!
- 資料 特別支援教育をめぐって 子どもの発達支援とSTを考える会
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