水素自動車
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水素自動車(すいそじどうしゃ)とは、水素をエネルギーとする自動車のことである。
既存のガソリンエンジンを改良して直接燃焼を行うものと、燃料電池により発電するものに大別することができるが、後者は燃料電池自動車として別な枠で扱うことが一般的である。
地球温暖化問題から、脱化石燃料が求められている現在、有力な技術として脚光を浴びている。
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[編集] 開発史
日本国内では1970年代から武蔵工業大学の古濱庄一の下で市販のレシプロエンジンの改造で研究が始められた。 1990年代からマツダとBMWが既存のエンジンを改良する形で開発を進めている。
[編集] マツダ
- 2003年 東京モーターショーにおいて、マツダは、ロータリーエンジンであるRX-8を改良したモデルを出品した。水素のみによる走行距離は約50km。
- 2004年11月 試験車両がナンバーを取得。公道上での試験走行が可能となった。燃料は、水素ガスとガソリンの2種類が使用可能となっている。両燃料を合わせて約630キロまで走行可能距離を伸ばしている。
[編集] BMW
- BMWは7シリーズをベースとして、水素とガソリンの双方を燃料に使用できるV12気筒レシプロエンジンを搭載した750hLを開発した。燃料として液体水素を使用したときの走行距離は約350kmである。
[編集] 課題
開発に当たっての問題点は、水素分子が極小のため、エンジンブロックなどを構成する金属中に拡散・浸透し、脆くしてしまう現象(水素脆化)に関すること、燃料である水素の車両への搭載方法などである。
また、水素レシプロエンジンでは、水素の燃焼速度が高いために吸気-圧縮過程で混合気が高温のプラグや排気バルブに接触した際に爆発が起こりやすく、ノッキングやバックファイヤなどが起こりやすい。このため、水素混合率を極めて薄くする必要があり、ガソリンをつかった場合と比較すると、出力は50%程度に留まる。
更に、水素=空気混合気を燃焼させた場合、二酸化炭素や硫黄酸化物は生成されないが、高温燃焼過程に酸素と窒素が共存する結果、窒素酸化物が生成されるという本質的な問題がある。
[編集] 水素ロータリーエンジン
マツダでは、ロータリーエンジンを使うことで、水素レシプロエンジンの問題を回避した。ロータリーエンジンでは、水素混合ガスが直接点火プラグに接する事は、点火直前までは起きない。構造上、水素の混合比率を高めやすい。さらに水素を直噴することで、ガソリンエンジンの出力比90%程度にまで高めることに成功した。
ロータリーエンジンは高い圧縮比をとり難いという弱点があるが、水素直接燃焼エンジンはノッキングを起こし易いために、圧縮比を高くすることが困難であるという問題がある。そのためにロータリーエンジンと水素直接燃焼とで弱点が相殺されるために、水素直接燃焼内燃機関として水素ロータリーエンジンは成功した一例と言える。
[編集] 安全性
水素の取り扱いに関しては、ヒンデンブルク号爆発事故に代表されるように危険というイメージがあるが、ガスタンクに亀裂が入った瞬間、水素の特性である気体中最軽量という事で急速に大気中に放出・拡散されることから、ガソリンの危険性と大差が無いのではないかという説もある。しかしながら、水素は燃焼時に炎がほとんど見えず、爆発濃度域が非常に広いという問題があるために、発火後の消火は容易でないことが予想される。
[編集] 水素燃料タンク
燃料タンクについては、気体水素の密度が低く、高密度貯蔵が困難であることから、従来のガスタンク内圧(15 MPa 程度)を大きく超える高圧タンクが開発されている。現在は炭素繊維複合材にアルミ合金ライニング(内張り)を施した 35 MPa 級高圧タンクが各所で開発され、燃料電池自動車で実用試験に供されている。DOE(アメリカ・エネルギー省) の試算によると、ガソリン車と同程度の走行距離を得るためには70 MPa 級の高圧タンクが必要とされており、各研究開発機関がこの要求値を満たすタンクの開発をすすめている。
これらのタンクはいずれも極めて高圧の水素をガソリン程度の安全性を維持して貯蔵する必要があるため、安全性保証のために、水素充填時のタンクをライフルで撃つガンファイアテストなどをクリアする強度を持たなければならない。
このような貯蔵密度の問題を回避するために、BMWとGM、そしてGM傘下のオペルは液体水素タンクを開発し、実用評価を行っている。液体水素は極低温であるために、断熱対策が万全でないと貯蔵されている水素が気化する(ボイルオフ)。BMWは、貯蔵開始後からボイルオフが始まるまでの時間を3週間程度まで延ばすことに成功しているが、事故などでタンクが破損した場合の危険性は決して低くはないと思われる。
水素吸蔵合金の性能が向上すれば、低圧で比較的穏和な水素供給が可能なタンクが開発されると考えられているが、現状では、吸蔵放出温度、吸蔵放出速度、吸蔵放出時の反応熱のやりとり、合金質量などの点において未だ未解決の問題が多い。
[編集] 将来性
各国、各社のメーカーが、燃料電池自動車の開発にしのぎを削っている現在、水素自動車は影の存在となりがちであるが、 普及に当たって支障となる水素の取り扱いに関する問題点は、燃料電池自動車と共有するものであることから、燃料電池車と歩調を合わせて開発、普及が進展してゆくものと考えられる。
効率等は、燃料電池自動車と比較して劣るが、既存のエンジン技術を応用できるメリットがあること、エンジンを使って加速するという、モーターでは得られない内燃機関独特の五感を刺激する走行感は、燃料電池自動車とは違うマーケットを形成できるものと言われている。もっとも五感といっても視覚・味覚は関係なく、水素を燃焼させて排出されるのは水であるため、嗅覚を刺激することもない。
これらの点に加え、レアメタルを使用する燃料電池を搭載しなければならない燃料電池自動車に対し、水素自動車は従来のエンジンを改良するだけでよいため、圧倒的に安価に仕上がる、という利点もある。そのため、上記にある、マツダが開発した水素とガソリンのハイブリッド自動車(RX-8 ハイドロジェンRE)の価格は、従来車よりも100万円程度高いもので済むと予想されている。