ロータリーエンジン
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ロータリーエンジン(英語ではWankel engine)は、ロータリーピストンエンジンともいい、回転するピストンを用いたオットーサイクルエンジン(4サイクルガソリンエンジン)である。ドイツの技術者フェリクス・ヴァンケルが発明した。英語でrotary engineというときは、航空機用エンジンのものを指すことが多い。ピストンの動きは特殊ではあるが、熱機関としての動作は通常のピストンエンジン(レシプロエンジン)と同等である。
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[編集] 形状、動作
そのシリンダ側面は2ノードのエピトロコイド曲線(現在はペリトロコイド曲線)というまゆ型である。ピストン相当のものはローターと呼ばれ、シリンダに内接する3葉の内包絡線という三角おむすび型(ルーローの三角形)をしている。ローターは芯のずれた軸(エキセントリックシャフト)に取り付けられ自由に回転するようになっている。その回転を制御するため軸の回りで固定された(回らない)歯車の回りをローターの内歯がかみ合うようになっている。出力は偏芯した軸がクランクとして動作することで取り出される。ローターの1回転で4サイクルの工程が3組進行し、軸は3回転する。
なお中のローターは、その形状からおにぎりと呼ばれる時もある。
[編集] 構造上の利点と欠点
極めてシンプルな構造のため、理論上は各部分の抵抗が少なく済み、レシプロエンジンに比べると以下のような特徴がある。
- 同出力のレシプロエンジンと比較すると、軽量かつコンパクト
- 同排気量のレシプロエンジンと比較すると、ハイパワー
- 低振動、低騒音
- 排気ガスの成分として、窒素酸化物(NOx)が少なく、未燃焼燃料の炭化水素(HC)が多い
- アンチノック性能が高く、低オクタン燃料に強い
特に3はピストン運動を回転運動に変換するのではなく、もともとが回転運動である本エンジンの構造に由来するものであり、当初は性能でもレシプロエンジンを大きく引き離して未来のエンジンと持て囃された。 更に、排気ガス規制導入当初は、窒素酸化物を減らすための手段が見付かっていなかった為、マツダ以外の自動車メーカーも、いっせいにロータリーエンジンの実用化にむけて研究を行ったが、やがて、窒素酸化物の低減に有効な三元触媒が開発されて、この優位性は、消えてしまった。
ところが、このエンジンの開発期における最大の問題点でありかつ解決されたかにみえた部分が後に重要視されるのである。
- バルブ制御で、吸排気を行うレシプロエンジンに比べ、吸排気を、ローターによるポート開閉と負圧に頼ったロータリーエンジンは吸排気効率におとり、結果として燃費低下、低速トルク不足をおこす。
- ローターとハウジングによって形成される燃焼室は、いびつな形で、燃焼効率面で不利。
上記の理由が災いし、燃費効率の面で不利である。低速域でのトルク不足をターボチャージャーで補う事も行われたが、出力向上はともかく、実用燃費は更に悪化した。
また燃費以外に、耐久性・メンテナンス等の面でもレシプロエンジンに比べて不利である。
- レシプロエンジンと異なり、オイルパンとローターが分離しているため、アペックスシールとハウジングの潤滑の為にエンジンオイルを、ハウジング内へ注入している。その為、エンジンオイルは、一定の割合で確実に減っていく。
- レシプロエンジンの寿命は、オイル管理などの日常のメンテナンスさえしっかりすればほとんどが15万km以上耐えられるのに対し、ロータリーエンジンの場合は、オイル管理に対する許容性が低く、マーケットでの平均寿命はレシプロエンジンに劣る。
ロータリーエンジンは構造が簡単であるがゆえに改良すべき部分が少なく、長期間の信頼性・耐久性においても、枯れた技術であるレシプロエンジンに及ばなかった。(なお、ロータリーエンジンは、構造がシンプルであり、十分な知識、部品およびツールさえあれば、エンジンの分解・組み立ては、個人レベルでも可能である。)
オイルショックによる石油価格高騰の影響で、NSUと提携した各社はロータリーエンジンの将来性を見限って開発から撤退、NSUを合併したフォルクスワーゲンもロータリーエンジン車生産を中止した。マツダは唯一市場に踏み止まったものの、同社でも現在では一部のスポーツカー専用のエンジンとなっている(燃費などの経済性よりも、走行性能を重視したスポーツカーが多い)。マツダの最新作、RX-8のロータリエンジンでは、排気ポートを、ペリフェラルポートから、サイドポートに変更して、従来からの燃費悪化要因のひとつであった、排気と吸気のオーバーラップをなくして、燃費向上をはかっている。しかしながら、レシプロエンジン側でも、燃費は向上しているので、依然として、燃費は、ロータリエンジンの最大の弱点であることは、変わっていない。
1990年代以降には水素ロータリーエンジンがマツダによって研究開発されている。水素燃料は、再生可能エネルギーの一種であり、また燃料電池用の燃料としてのインフラ整備が課題にあがっている。その水素燃料を容易に転用できる内燃機関のひとつとして、ロータリーエンジンは有望である。これは吸気室と燃焼室が分離しているため吸入工程で異常着火(バックファイア)が発生しないという構造上の特徴があるためで、現時点では燃料電池車などと比べてはるかに現実的な解法であるといえる。水素は燃焼速度が速く燃焼室形状が問題になりにくいという相性の良さも有る。また、水素以外でもガス燃料であればロータリーエンジンの方が有利であるとされる。
[編集] 自動車用
自動車用としてはNSUバンケルタイプが唯一実用化されている。 その後NSUに続いて東洋工業(現・マツダ)が量産化に成功し、コスモスポーツに搭載した。他にもシトロエンなどが生産モデルに搭載しているが、1970年代以降も量産を続けたのはマツダのみである。
日産自動車も1970年代前半に開発途中であったが、東京モーターショーにロータリーエンジンを搭載したサニーを参考出品し、2代目シルビアはロータリーエンジンを搭載する事を前提に市販間近といわれていた。しかし、1973年に起きた第一次オイルショックに見舞われ、省エネルギー志向の社会情勢には燃費性能が良くないロータリーエンジンは相応しくないとの理由で、結局は市販には至らなかった。
トヨタでは、純粋な技術研究としてロータリーエンジンを研究してはいるが、市販の計画は全く無い。
ダイムラー・ベンツ(現 ダイムラー・クライスラー)も1960年代からロータリーエンジンの研究を開始、ミッドシップに4ローターロータリーエンジンを搭載したC111をジュネーブ・モーターショーで発表したが耐久性の面で問題が生じ、ついに市販されることはなかった。
シボレーも1973年にミッドシップに2ローター/4ローターを搭載するコルベットを発表したが、オイルショック直後だったため、市販されることはなかった。
日本における自動車税課税時の排気量区分は「単室容積×ローター数×1.5」として換算される。カーレースにおいては、レースの種類によって排気量の換算方法が異なる(F1などのように、使用を認められない場合もある)。
[編集] マツダ
マツダがフォードの傘下に入り、2002年に当時唯一のロータリーエンジン搭載市販車RX-7の排出ガス規制不適合により生産停止が決定され、これでロータリーエンジンの歴史が途切れてしまうという懸念が愛好家や関係者に広がったが、マツダはロータリー搭載車の製作存続をフォードに強く主張し、それが認められRX-8を発表した。
ロータリーエンジン搭載のスポーツカーは一部の人々には、根強い支持があり、年に一度LA郊外のMazda R&Dで開催されるセブンスストックと呼ばれるロータリカーユーザーのイベントには、全米から、数千人規模のユーザーが集まる。
[編集] チェーンソー用
チェーンソー用としては、ヤンマーが1970年代に開発した経緯がある。
当時の林業労働者に、チェーンソーによる振動により極度の血行不良が発生するなどの労働災害が頻発したため、振動の少ないチェーンソー用のエンジンの開発が急務とされていた。行き着いた先がロータリーエンジンである。
開発は進み搭載するメドは立ったが、持ち運びが不便なほど大型であったこと、トルクが薄かったことから次第に敬遠され、普及するに至らなかった。
[編集] オートバイ用
- 1975年 ヤマハ発動機がヤンマーと共同開発によるロータリーエンジン搭載のRZ201を試作するも量産に至らず。
- 1975年-76年 スズキが単独でハウジングのメッキ技術を含む開発を行い、ロータリーエンジン搭載のRE-5を販売(輸出専用車)。オイルショックと重なり、少数の生産のみにとどまった。(約6000台の生産 米国からのバックオーダーは20000台、型式はRE5Mが初期型で最終型はRE5A。M型はジウジアーロのデザインで有名。汎用小型エンジンも試作を終了していた。新型のRE5も計画試作が始まっていた。)
- イギリスのノートンは1970年からロータリーエンジンの開発に乗り出し、クラシック、コマンダー、F1などロータリーエンジン搭載のオートバイを市販していた。
[編集] 航空機用
Alexander Schleicherは自力発行可能な動力格納式モーターグライダーに、2サイクルエンジンではなくロータリーエンジンを搭載している。これはノートンによってオートバイ用に開発されたロータリーエンジンを発展させたものである。
[編集] 模型飛行機用
ヘリコプターをはじめとした模型飛行機用の超小型ロータリーエンジンが市販されている。
[編集] コジェネレーションシステム用
分散型の熱電供給システムであるコジェネレーションシステムの動力源として、コンパクトで低振動という特徴からロータリーエンジンが注目されている。
2002年に広島ガス、2003年に中国電力がマツダの自動車用ロータリーエンジンを組み込んだシステムを試作、LPGガスを燃料として実証試験を行っている。
[編集] ロータリーエンジン搭載車
このクルマは、セミオートマチック・トランスミッション、インボード・ディスクブレーキなど先進的な技術を搭載したFF4ドアセダンである。モダンなスタイルと先進的な安全思想・ボディ構造など評価が高かったが、開発途上のロータリーエンジンが”仇”となってしまった悲運のクルマである。