権利の所在が不明な著作物
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権利の所在が不明な著作物(けんりのしょざいがふめいなちょさくぶつ、Orphaned Works)は、著作者の死亡または法人・任意団体の解散から相当年数を経過しパブリックドメインに帰属しているかどうか、或いは著作権の保護期間内であるが遺族ないし権利譲渡を受けた団体の所在が不明な著作物のことである。
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[編集] 権利の所在が不明な著作物の種類
大別して以下の3通りに分けられる。
- 著作者の死後、まだ保護期間の満了を迎えておらず遺族または権利の譲渡を受けた個人・団体の所在が不明な場合。
- 著作者が変名(ペンネームなど)で、本名がわからず没年はおろか生死すらも不明である場合。
- 法人・任意団体の倒産や解散により権利が第三者に譲渡されているが、その譲渡先が不明である場合。
当然ながら、保護期間が立法により人為的に延長された場合は権利の所在が不明な著作物は増加することになる。また、権利の所在は判明しているが「採算が合わない」などの理由で公開されずに死蔵されている著作物も増加することになるため、そうした状態に置かれている著作物も権利の所在が不明な著作物と併せて近年、問題視する動きが強まっている。
[編集] 主なケース
- 国立国会図書館では、明治期に刊行された蔵書をインターネット上で公開している「近代デジタルライブラリー」に収録予定の書籍について「著作者情報公開調査」を毎年、実施している。2003年度は5万名以上について情報を募集し、権利継承者の連絡先判明は60件・没年判明は532件(内480名が没後50年を経過)と言う結果であった。翌2004年度は約1500名について情報を募集し、権利継承者の連絡先判明は5件・没年判明は3件(いずれも没後50年を経過)と言う結果であった。
- 2003年12月より東京都写真美術館で開催されたコンピュータゲームの展示会「レベルX」では、ファミリーコンピュータ対応の全ソフトの映像を上映することが企画されたが、倒産や会社名変更・他社への事業譲渡などにより権利の所在が不明なタイトルが全1219タイトル(ノンライセンスのタイトルは除く)中156タイトルに及んだ。その為、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)が情報提供を呼びかけたところ105タイトルは権利の所在が判明したが、51タイトルについては所在が判明せず公開が見送られた。
[編集] 裁定制度
著作権法では、権利の所在が不明な著作物の利用に際しては文化庁長官の裁定を仰ぎ、補償金を国庫に供託することで利用が可能となる(第67条)。
但し、裁定は新聞・雑誌・インターネット上(著作権情報センターのサイト)で情報の募集を掲載するなど、権利の所在を探す為に「相当の努力」を行ったにも関わらず、その所在が掴めなかったと言う場合でなければ受けられない。
裁定を求める場合は、文化庁に所定の書類を提出したうえで長官が使用の可否を判断するが、許可された際に支払う補償金の額は文化審議会著作権分科会により決定される。
日本以外ではイギリスやカナダ、韓国においても裁定制度が存在するが、制度の根拠が途上国を対象とする特例を定めたベルヌ条約附属書第4条の強制許諾手続であるため、G8加盟の先進国である日本やイギリス、カナダにおける裁定制度は条約違反であると主張する学説も有る(なお、後述する米国の「孤立作品に関する調査」を受けて2006年5月に下院へ提出された法案は、日本などと同様の制度導入を目指すものである)。
また、裁定制度が存在するからと言って孤立作品の問題が発生しない訳ではないことは2006年9月25日の大英図書館による声明でも指摘されている通りである。裁定制度は権利保有者に無断で著作物を使用させることを公権力が承認するのと同義であり、申請者から見れば本来はパブリックドメインになっている可能性があり金銭負担を必要としないはずの著作物の使用に補償金を負担させられると言う側面が有るため、制度の存在が直ちに孤立作品問題の根本的な解決策となるものではない。
[編集] 欧米での議論
アメリカ合衆国では、1989年のベルヌ条約加盟までは議会図書館著作権局に対して登録申請を行わなければ著作権が発生しなかった(現在でも、訴訟提起に際しては著作権局への登録が必要である)が、著作権局に登録された著作物でも著作者の没年や権利継承者に関して最新のデータが反映されている訳ではなく、権利の所在が不明な著作物は大量に存在する。特に、1998年の著作権延長法(CTEA)成立はその傾向を一層顕著にし、ミッキーマウスに代表される現在も商業的価値を有する2%弱の著作物を「延命」する一方で長い年月により商業的価値の失われた98%の著作物を埋没させるものだと言う批判がローレンス・レッシグらにより為されている。これを受けて、著作権局では2004年より「孤立作品(Orphan Works)に関する調査」を実施し、2006年2月に報告書を公表した。
この報告書では、以下のように孤立作品の問題を早急に議論し、解決すべきであると指摘している。
- 孤立作品の増加は、我々の目の前に存在する差し迫った問題である。
- 著作物の孤立作品化により有益な利用が出来なかった事例は、枚挙に暇が無い。
- 現行の著作権法には、孤立作品の利用を促すための手段が用意されていない。
- 以上の理由により、孤立作品問題の解決は我々にとっては喫緊の課題である。
また、ECでもEU域内で発生している同様の問題について調査を進めている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 著作権者不明等の場合の裁定制度(文化庁)
- 著作権者を探しています(著作権情報センター)
- 著作者情報公開調査(国立国会図書館)
- Report on Orphan Works(米国議会図書館著作権局)
- Online consultation - Questions(欧州委員会)
- orphanworks.org
- Save Orphan Works(CTEA違憲訴訟の原告であるエリック・エルドレッドのサイト)
- ACCS、不明ファミコンソフトの著作者捜しにおける経過を報告(ITmedia)