東京物語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『東京物語』(とうきょうものがたり)は、小津安二郎監督、笠智衆主演の1953年制作の日本映画である。独立した子供達の元を訪れる年老いた夫婦と、それを余り快く思わない子供達を通して、家族の絆、夫婦と子供、老いと死、人間の一生、それらをシビアに描いた究極のホームドラマである。上映時間は135分。白黒作品。1953年11月3日に公開される。映画史に輝く金字塔である。
小津映画の集大成ともいえる作品で、本作を小津の最高傑作と位置付ける意見も非常に多く、国際的にも非常に有名な日本映画である。「日本映画の最高傑作」とも評される。各国で選定される世界歴代映画ベストテンでも歴代ベスト10に入る名作である。核家族化と高齢化社会の問題を先取りしていた作品とも言えるが、アメリカ映画「明日は来らず」の影響を受けていることを脚本家の野田高梧は認めている。
戦前は映画で軍人の妻を演ずる事が多かった原節子が、戦争で夫を亡くした未亡人を演じている。笠智衆、東山千栄子、杉村春子などが、名演を見せている。
目次 |
[編集] 登場人物
- 平山 周吉(ひらやま しゅうきち) - 尾道市在住の72歳の老人。温和な性格で、子供達から邪険にされても立腹しない。画面に写る笠は老けて見えるが実は撮影時は48歳である。
- 平山 紀子(- のりこ) - 周吉の次男の修二の妻。会社員。夫は第二次大戦に出兵し戦死した。以降は独身を通している。
- 平山 とみ - 周吉の妻。夫、次女「京子」と同居。
- 平山 幸一(- こういち) - 周吉の長男。内科医。東京で内科医院を経営する。
- 金子 志げ(かねこ しげ) - 周吉の長女。美容師。東京で美容院を経営する。
- 平山 京子(- きょうこ) - 周吉の次女。尾道市の小学校の教諭。両親と同居している。
[編集] 物語
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
1953年の夏、尾道に暮らす周吉とその妻のとみが東京に旅行に出掛ける。東京に暮らす子供達の家を久方振りに訪ねるのだ。しかし長男の幸一も長女の志げも毎日仕事が忙しくて両親をかまってやれない。寂しい思いをする二人を慰めてくれたのが戦死した次男の妻の紀子だった。紀子はわざわざ仕事を休んで二人を東京名所の観光に連れて行く。
両親の世話に困った幸一と志げは二人を熱海の旅館に宿泊させる。しかし、その旅館は安価な若者向きの旅館で二人は騒々しさになかなか眠れない。翌日熱海から帰って来た二人に対し志げはいい顔をしない。居辛くなった二人は志げの家を後にする。周吉は在京の旧友と久方振りに再会し酒を酌み交わす。とみは紀子の家に泊まる。ここでとみは死んだ夫を忘れて再婚するように紀子に強く勧めるのだった。
二人は子供達からは余り暖かく接して貰えなかったが、それでも満足した表情を見せて尾道へ帰った。ところが両親が帰郷して数日もしない内に、とみが危篤状態であるとの電報が子供達の元に届いた。子供達が尾道の実家に到着した翌日の未明にとみは死去した。幸一と志げは悲しみつつも、さばさばした乾いた表情を見せる。
とみの葬儀が終わった後、志げは京子にとみの形見の品を寄越すよう催促する。そして志げは、とみよりも周吉が先に死ぬのが望ましかったと主張する。幸一もそれに同調する。紀子以外の子供達は葬儀が終わると即座に帰って行った。京子は兄や姉に対し怒りを禁じえなかった。
紀子が東京に帰る前に周吉は上京した際の紀子の優しさに感謝を表す。そして紀子に再婚を勧める。ここで紀子は初めて自分の苦悩を吐露する。独身を通す自分の将来の不安が拭えないことを打ち明けた。涙を流す孤独な紀子に周吉は妻の形見の時計を与えた。愛する者を失った喪失感を共鳴できる存在は紀子以外に居なかった。
[編集] 演出
ローアングルを多用しカメラを固定して人物を撮る「小津調」と形容される独自の演出技法で家族を丁寧に描いている。家族という共同体が幻想でしかない悲し過ぎる現実を、独特の落ち着いた雰囲気で綴る。
特に浴衣姿の老夫婦が熱海の海岸の防波堤に腰掛けている場面、母の遺体を子供たちが囲んでいる未明の場面、妻を失った周吉と紀子が朝明けの空を眺める場面、そして終局の周吉と紀子のカメラ目線の対話は白眉である。小津の全業績に於いても、映画史に於いても重要な名場面である。
[編集] 出演者
- 笠智衆(平山周吉)
- 原節子(平山紀子)
- 東山千栄子(平山とみ)
- 山村聰(平山幸一)
- 杉村春子(金子志げ)
- 香川京子(平山京子)
- 三宅邦子(幸一の妻の文子)
- 中村伸郎(志げの夫)
- 大坂志郎(周吉の三男の平山敬三)
- 十朱久雄(服部)
- 長岡輝子(服部の妻)
- 東野英治郎(沼田三平)
[編集] スタッフ
- 監督: 小津安二郎
- 脚本: 小津安二郎、野田高梧
- 撮影: 厚田雄春
- 音楽: 斎藤高順
- 編集: 浜村義康
- 制作: 松竹
[編集] オマージュ
- 「東京画」(1985年)ヴィム・ヴェンダース
- 「珈琲時光」(2003年)侯孝賢
[編集] リメイク
2002年に、「FNS27時間テレビみんなのうた~あの素晴らしい日本をもう一度~」の中でスペシャルドラマとしてリメイクされた。出演は、宇津井健、八千草薫、松たか子ら。
[編集] その他
- 本作品は、ニューヨーク近代美術館に収蔵されている。
- 本作品のマスター・ネガは紛失しており、現行の版もデュープ・ネガから複製したもので、この時代の作品の画質としてはあまり良くないのが現状である。
[編集] 外部リンク
カテゴリ: 日本の映画作品 | 1953年の映画 | フジテレビのテレビドラマ | 2002年のテレビドラマ | 尾道市 | 小津安二郎の監督映画