念仏の鉄
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念仏の鉄(ねんぶつ の てつ)は時代劇・必殺シリーズに登場する、山崎努演じる架空の人物である。小説などの原作を持たない、テレビ番組オリジナルのキャラクターである。
[編集] キャラクター
もとは僧侶であったが、檀家の人妻と肉体関係を持ったために、女犯の罪に問われて佐渡島に流される。この時、同心見習いとして佐渡金山に勤めていた中村主水、琉球王国の独立運動に参加して鉄と同様に島送りとなっていた棺桶の錠と知り合った。また、怪我人の絶えない金山での過酷な囚人生活から、我流で骨接ぎの技術を会得する。
島流しから放免された後は、江戸の観音長屋にて接骨医を営みながら、酒と女に明け暮れるその日暮らしの生活を送っていた。そんなある日、同じく佐渡から放免され観音長屋に居を構えていた錠の持ち込んだある事件をきっかけに、錠、江戸町奉行所で同心をしていた主水、暗黒街の大物・天神の小六らと共に、金を貰って悪を闇に葬る殺し屋『仕置人』となる(第2作『必殺仕置人』)。
「念仏」の異名は、元僧侶であったことからつけられたものと思われる。殺し技は「骨外し」。骨接ぎで得た人体骨格の知識を元に、相手の骨を指先で破壊し、死に至らしめる。半身不随にすることや声を出せなくすることも可能であり、相手を殺さず生き地獄を味わわせることもあった。
仕置人の存在が奉行所に発覚した後は江戸を去り行方をくらませていたが、数年後再び江戸に舞い戻り、鋳掛屋の巳代松(中村嘉葎雄)、絵草子屋の正八、スリのおてい(中尾ミエ)とともに、元締・虎の主催する仕置人組織「寅の会」の一員の仕置人となった。そして寅の会で主水の仕置の依頼が取り上げられたことをきっかけに主水と再会し、再び主水と組んで裏稼業を行うこととなる(第10作『新・必殺仕置人』)。
それからしばらく寅の会で仕置人を続けていたが、辰蔵(佐藤慶)の寅の会乗っ取りに反抗し、辰蔵一派に捕まって右腕を黒焦げにされてしまう。その後自らの手で辰蔵を仕置するも、自身も腹部に致命傷を受ける。そのまま重態の体を押して女郎屋に赴き、女郎と床入りしたところでその生涯を閉じた。
[編集] 解説
初登場は『必殺仕置人』。必殺シリーズ第1作『必殺仕掛人』の主人公・藤枝梅安をモチーフに作られたキャラである。坊主頭の医師で、家族を持たず気ままな独り暮らしを送っているという設定から、梅安の「二匹目の泥鰌」を狙っていたことが窺える。しかし、自己中心的な快楽主義者という梅安にはなかった怪人的な一面を持ち合わせており、誰にはばかることなく享楽的な人生を謳歌するその姿は、世のサラリーマンの一種の理想像として、男性ファンから高い人気を得た。そのファンの声援を背景に、『新・必殺仕置人』でシリーズに復帰(旧作の仕置人が再登板するのはシリーズ初であった)。新仕置人最終回で命を落としたが、その後も復活を望む声が多かった。
1982年、『必殺仕事人III』に先立って放映されたTVスペシャル『仕事人大集合』の企画段階では、鉄を復活させゲスト出演させるという案が持ち上がっていた。が、山崎努が出演に消極的だったため交渉は失敗し、かわりに棺桶の錠と知らぬ顔の半兵衛(緒形拳)が再登場することになった。現在でも、このことを惜しむファンは少なくない。
「鉄の爪(アイアンクロー)」のニックネームで大活躍したプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックがモデルという説があるが、真相は定かではない。