太陽帆
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
太陽帆(たいようほ)はソーラー帆、ソーラーセイルとも呼ばれ、薄膜鏡を巨大な帆として、太陽などの恒星から発せられる光やイオンなどを反射することで宇宙船の推力に変える器具のこと。現在は基礎研究の段階であるが実現すれば推進のためのブースターや燃料を持つ必要がなくなり、惑星間などの超長距離の移動を可能にする宇宙船が可能となる。また、SFでは出発地から照射された強力なレーザーを帆に当てて推進力とする宇宙船も登場する(レーザー推進を参照)。
目次 |
[編集] 起想
最初のアイデアは、17世紀にドイツの天文学者のヨハネス・ケプラーにより、もたらされたともいわれている。1873年にジェームズ・クラーク・マックスウェルが光が鏡に当たり反射すると鏡に圧力が加わることを発見し、実現性がでてきた。これを惑星間移動の宇宙船の推力に使用するというアイデアは、1919年に発表されたロシアの科学者のフリードリッヒ・ツァインダーらにより、1924年により具体的な太陽帆の理論が発表された。
イギリスの物理学者ジョン・D・バナールは、1929年に発表した著作『宇宙・肉体・悪魔』において、太陽光の光圧を帆で受けて宇宙へと旅立つ宇宙帆船を構想している。
[編集] 原理
光の粒子(光子)が太陽帆を形成する薄膜に当たり反射すると、薄膜には光の入射方向と逆向きの力が発生する。この力は、セイルの面積と光圧力に比例する。光圧力は光源からの距離の二乗に反比例する値となる。地球での太陽からの光圧力は、約4.57 × 10-6N/m2である。
船舶で使用される帆とは異なり、流体力学的に発する揚力は発生しないため、帆に発する力は帆に反射する光の圧力のみとなる。また、光源から離れると帆に受ける力が大幅に減少する。
[編集] 実用化研究の現状
実際に宇宙船の推力源として太陽帆を利用するためには、極めて軽量かつ極めて広い面積を保持できる薄膜鏡が必要であり、長らくは夢物語に過ぎなかった。初期にはアルミニウムの薄膜などが太陽帆の素材として候補になっていたが、あまりにも強度が不足しており、特に巨大な帆を宇宙空間で広げる際に帆を壊さずに広げる技術の開発が難しかった。しかし近年になって炭素繊維など素材の研究開発が進み、太陽帆に使用可能な薄膜の生成に実現性が帯びてきた。
太陽帆の研究は、アメリカ航空宇宙局 (NASA) を始めとして、世界各国で行われている。アメリカ惑星協会は2001年と2005年に太陽帆式宇宙船「コスモス1」の試作機を打ち上げたが、いずれも打ち上げ用ロケットのトラブルで衛星軌道に乗れず失敗した。三度目の打ち上げは2007年に予定されている。
日本では、宇宙航空研究開発機構 (JAXA)の宇宙科学研究本部により研究が行われている。2004年8月には太陽帆実現を目的とした、直径10m、厚さ7.5μmのポリイミドフィルム製の大型薄膜の宇宙空間での展開実験に成功している。
[編集] フィクションに登場する太陽帆
[編集] SF小説
- アーサー・C・クラーク『太陽からの風』The Wind from the Sun - 太陽帆
- コードウェイナー・スミス『星の海に魂の帆をかけた少女』The Lady Who Sailed The Soul - 太陽帆の宇宙船の航海が描かれている。
- 堀晃『太陽風交点』 - 太陽帆を自ら作り出す結晶生命が登場。
- 吉岡平『ハウザーモンキー』(アンソロジー『宇宙(そら)への帰還』収録) - 太陽帆船同士の砲撃戦を、ナポレオン時代の海戦になぞらえて描いている。
[編集] 映画
- トロン(Trom 1982年)
- スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃 - ドゥークー伯爵の乗るSunsailor'と呼ばれる宇宙船が登場。
- スタートレック:ディープ・スペース・ナイン - 古代ベイジョー人が用いたと云われる太陽帆船をシスコ親子が復元するエピソードがある。
[編集] 漫画・アニメ
帆船型宇宙船が登場する作品はかなりあるが、実際に推進力として太陽帆を用いているものはごく少数。
- トレジャープラネット - ディズニー映画。『宝島』の宇宙版。
- 機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZER - 劇中に登場する深宇宙探査用のモビルスーツ、スターゲイザーが推進力として使用していた。