動産
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動産(どうさん)とは不動産に対する概念で、不動産以外の有体物のことを言う。英語での訳語は複数あり、単にpersonal estateまたはpersonal propertyと言うこともあるが、コモン・ローの法体系における動産はmovable propertyまたはmovablesといい、大陸法系の文脈ではchattelを用いる。
日本の民法においては、有体物(民法85条)のうち、不動産(土地・建物)以外の物と定義されている(民法86条2項)。 なお、有体物(ゆうたいぶつ)とは、空間の一部を占める形ある物(ただし生きている人間は除く)のことを言う。
[編集] 具体例等
パソコンやテレビ、自動車、船舶などが不動産でない有体物であり、動産に該当する。ただし後述するように、登録制度のある自動車・船舶は不動産に準じた取扱いがなされることがある。また、立木は、立木法上不動産であるとして扱われる。
ガスは有体物であり不動産ではないのは明らかなので動産であることに争いはないと思われるが、電気、熱、光などは、動産と言えるか否かは争いがある。 生きている人間はそもそも有体物ではないため動産ではないが、ペットなどの動物は民法上動産として扱われる。 また、無記名債権(権利者を特定せずに証券の所持人を権利者とする債権のことで、鉄道の切符やコンサートのチケットがその例)は動産ではないが、動産とみなされる(民法83条3項)。これは、無記名債権を動産として扱ったほうが流通のために便利であるからである(もし無記名債権を債権として扱えば、これを譲渡するために債権譲渡の手続を踏まなければならなくなり、面倒である)。
他方、特許権や著作権といった権利そのものは無体物(無体財産権、知的財産権)であるから、不動産でも動産でもない(ただし、ある特許権に基づいて作られた物などは有体物である)。個人情報は、人格権の対象であっても財産権そのものではない。
[編集] 不動産との違い
不動産と動産を峻別する議論の実益は、物に対する公示方法、処分方法の差に現れる。
所有権などの物権は原則として意思表示のみによって設定・移転することができる(民法176条)。しかし不動産の場合、それに対する物権の設定や移転を当事者以外の第三者に対しても主張するためには登記をしなければならない(登記が対抗要件となっている)。不動産が誰のどのような権利の対象になっているかを登記によって公示することで取引の安全を図っているのである(例えば、土地に抵当権がついているかどうかは登記によって公示されているので、その土地を買う際に登記さえ見ていれば後に紛争となるリスクを回避できる)。
動産に対する所有権などの物権の設定・移転も意思表示のみによって行うことができるが、通常、不動産のような登記制度はない(物理的に、あらゆる動産の取引状況を登記によって管理することは不可能だからである)。そのかわり、動産の場合には引渡し(占有)が登記に代わる対抗要件とされている。つまり、その動産の占有を取得すれば、その動産の所有者であると主張することができるとしたのである。しかし占有改定が認められているため、実際にある動産を占有している人がその動産の所有者とは限らない。よって引渡では登記制度ほど明確に権利関係を公示できるわけではない。そこで、相手方の占有を信頼して取引した者を保護するために、動産の占有には公信力が与えられている。つまり、相手がある動産を適法に所持していると思い、かつそう思ったことについて不注意がなければ、たとえ泥棒から動産を購入した場合でも有効に所有権を取得できるという即時取得(民法192条)が認められている。
ただし自動車や船舶のように不動産の登記に類似した登録方法があり、実際に登録が行われている場合には、不動産と類似の取扱いを受ける。このため、即時取得は認められないと解するのが判例および通説の見解である。