副将軍
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副将軍(ふくしょうぐん)は、日本においては大将軍或いは将軍の次席に位する武官の職である。律令制では大将軍、将軍、副将軍という序列が規定されたが、実際には大将軍に対しても将軍を中抜きして副将軍がつけられた。
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[編集] 律令制下の副将軍
日本の律令制では、軍防令24条に副将軍の規定がある。それによれば、将帥が出征するとき兵一万人以上なら将軍一人、副将軍二人を置く。また、三軍ごとに大将軍一人を置く。しかし実際の任命はこの規定通りではなく、任命された副将軍は一人から数人の幅があった。また、大将軍の下に将軍がつけられることはなく、直接に副将軍がつけられた。
例としては、延暦3年(784年)2月に大伴弟麻呂が征東副将軍に任ぜられている。この時の人事は、征東軍の総司令官たる将軍人事よりも前に行われており、副将軍人事の翌年に大伴家持が持節征東将軍に任ぜられ、蝦夷討伐の軍を発している。
さらに延暦13年(794年)1月1日、朝廷が奥羽の蝦夷を征伐するために派遣した征夷大将軍・大伴弟麻呂の副官として坂上田村麻呂を征夷副将軍に任じたのが有名である。さらに、副将軍の下位には権副将軍も置かれた。当初は蝦夷征伐のために任ぜられた職のひとつであったが、蝦夷征伐が一応の区切りを見せて、征夷大将軍の任免及び派遣がなされなくなったのに伴い、副将軍が任ぜられることはしばし途絶えた。
その後、弘仁2年(811年)、文屋綿麻呂が征夷将軍に任ぜられると、大伴宿祢今人・佐伯宿禰耳麻呂・坂上大宿禰鷹養の3名が副将軍を拝命している。弘仁6年(815年)にはさらに征東副将軍陸奥介に小野氷見が任ぜられており、度々奥羽の蝦夷征伐の人事がなされている。
その後、平安時代中期に入ると、東国で平将門が、西国で藤原純友が朝廷に謀叛した承平天慶の乱が起きると、天慶3年(940年)2月8日に清和源氏の祖となる経基王が征夷副将軍に任ぜられたとする記録がある。その後、副将軍の地位は置かれることは、しばらく途絶えた。
やがて、源頼朝が征夷大将軍となり鎌倉幕府を開き、武家政権が成立するようになった後も、副将軍を任ずる人事はほとんどなされることはなく、鎌倉時代には一度の例も副将軍が任ぜられることはなかった。
[編集] 室町幕府における副将軍
室町時代においても副将軍は常設の職としては置かれることはなかったが、室町時代初期に建武5年(1338年)、足利尊氏の弟 足利直義が征夷副将軍に任ぜられている。その後、足利義教の治世においては、将軍の座をうかがった鎌倉公方・足利持氏の討伐に功績があった足利将軍家の有力一門・今川範政が副将軍に任ぜられたとする記録が残されている。
また、室町幕府の治世下において副将軍の職が登場するのは、永禄11年(1568年)7月、室町幕府15代将軍・足利義昭が自らの将軍職就任に功のあった織田信長に対して副将軍か管領職への就任を要請したという記録が残されている。しかし、信長には室町幕府の権威下に入るつもりはなく、これを辞退したとされる。
やがて、室町幕府を再建し将軍としての実権を確立せんとする足利義昭と、自ら天下布武を掲げ新たな秩序を築かんとする織田信長との間に対立関係が生まれ、義昭による本願寺はじめ近江の浅井氏、越前の朝倉氏、甲斐の武田氏・越後の上杉氏・中国の毛利氏らによる信長包囲網が形成されると、義昭は信長の同盟者である徳川家康を取り込むために副将軍への就任を要請したとされるが、義昭方につくつもりのない家康によりこれを黙殺されている。
やがて、浅井朝倉攻めや本願寺との合戦により、包囲網を切り崩した信長により、足利義昭が京都を追放され、備後国の鞆にて毛利氏の庇護に入ると、義昭は毛利輝元を副将軍に任じ、鞆において幕府の再建を目指した。しかし、その後、信長が明智光秀の謀叛に倒れるものの、天下は豊臣秀吉の手にうつり、頼みの毛利氏も豊臣氏の五大老に入ることで、副将軍職は消滅したといってよい。
[編集] 江戸時代における副将軍
豊臣秀吉の死後、関ヶ原の戦いに勝利した徳川家康が征夷大将軍に任ぜられ、江戸幕府が開かれたが、江戸時代において副将軍が任ぜられることは一度もなかった。しかし、徳川御三家の重鎮である水戸藩主は天下の副将軍或いは水戸の副将軍と称されることが多い。これは、水戸藩主の地位が他の大名のように参勤交代する代わりに、常に江戸に留まる定府が義務付けられていたこと、将軍の補佐役としての色彩が強かったことなどから、そのように呼ばれるようになったとされる。正式な呼称ではなく事実、水戸藩主はそうした色彩の強い立場ではあったため江戸幕府も半ば黙認したという。こうした説は俗説の域を出ないが、江戸時代当時の水戸藩の藩士はこれを強く信じていたという。水戸徳川家は同じ御三家である尾張徳川家や紀州徳川家のように、将軍家断絶の際の嗣子を輩出することは許されなかったが、その代わり将軍の補佐役として重きをなしたことなどから、そうした自負があったものと思われる。
いずれにせよ、水戸徳川家の出身である一橋徳川家当主・徳川慶喜が征夷大将軍となり、大政の奉還がなされたことで、江戸幕府、武家政権そのものが終焉を迎え近代に突入したことで、副将軍の職及び呼称は完全に消滅したといってよい。
[編集] 現代における「副将軍」
俗説とはいえ、江戸時代の御三家のひとつ水戸徳川家の当主が天下の副将軍などと称されたことで、徳川光圀の諸国漫遊の旅を描いたフィクションドラマ「水戸黄門」では徳川光圀を天下の副将軍として描かれており、時代劇の人気シリーズとして国民の人気を得ている。
こうしたことも、徳川光圀=天下の副将軍であるという認識が定着する要因ともなっており、時として正式に副将軍に任ぜられた、或いは江戸幕府の公式な役職として副将軍が設置されていたという誤解を受けやすい。 とはいえ、水戸藩の旧領地であった水戸市をはじめとする、茨城県内各市町村においては、徳川光圀に因み、副将軍と称する地酒や産物を販売し、水戸の副将軍という呼称は、ひとつのブランドとして定着しているといってよい。