信用金庫
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信用金庫(しんようきんこ、Shinkin Bank)とは、日本において預金の受け入れ、資金の移動や貸し出し(融資、ローン)、手形の発行などを行う金融機関の一つである。信用金庫法によって設立された法人で、信金(しんきん)と略称される。
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[編集] 概要
信用金庫は、1951年に制定された信用金庫法にもとづいた、協同組織による地域金融機関であり、中小零細企業ならびに庶民のための専門金融機関。大企業や営業地域外の企業・個人には融資ができないという制限があるが、これは「地域で集めた資金を地域の中小企業と庶民に還元することにより、地域社会の発展に寄与する」という信用金庫の目的のためである。
なお、世界的に見ても、協同組織による地域金融機関は、英国の「クレジット・ユニオン」「ビルディング・ソサエティー」、ドイツの「クレジットゲノッセンシャフト」、米国の「クレジット・ユニオン」「ミューチャル・スリフ」などが有名であり、いずれも中小企業や庶民の生活に密着した経営を展開し、各国の金融の分野で大きな役割を果たし、着実に発展を続けている。近年のグローバリゼーションを背景とした株主資本主義の流れの中で、大資本による乗っ取りが不可能であるため安定的な経営ができるという協同組織金融機関の優位性や相互扶助によるコミュニティーの復権という社会的な役割に対して再評価が行われている。
[編集] 沿革
明治維新以降、日本は、資本主義による急速な産業化を進めたが、こうした中で、株式組織の銀行は、地方で集めた資金を、都市部の大企業や土地投機に集中的に運用したため、地域の中小零細企業や庶民は、自分達の預けた資金を利用できず、地域社会は疲弊衰退し、貧富の差が拡大し、社会の混乱が生じた。明治政府は、こうした資本主義の弊害を是正するためには、資本の原理による株式会社の銀行ではなく、ドイツの信用組合を見習って、営業地域や融資対象を限定し、一人一票の民主的な運営原理による協同組織の金融機関を創設することこそ、中産階級の育成と庶民の生活安定のために必要であると考え、内務大臣の品川弥二郎や平田東助が中心となって、1900年に産業組合法を制定した。
これにもとづき、ドイツの法律家シュルツェ・デーリチュの考案した信用組合を手本に、全国各地の地主や有力者が中心となって信用組合を設立したのが信用金庫の前身である。これと同時期に南ドイツの行政家ライファイゼンの考案したライファイゼン式信用組合が日本でも設立され、これが農協の前身である。両者は、同じ産業組合の理念を共有する仲間であり協力関係にあった。当時の産業組合の歌には「深山(みやま)の奥の杣人(そまびと)も、磯に釣りするあまの子も、聞くや時代の暁の鐘、共存同栄と響くなり、時の潮は荒ぶ(すさぶ)とも、誓いはかたき相互扶助、愛の鎖に世を巻きて、やがて築かん理想郷」とあり、関係者は、社会運動として情熱を持って取り組んでいたことが伺える。新渡戸稲造や宮沢賢治など、当時一流の知識人が、この産業組合運動に尽力したことは広く知られている。
協同組合運動は、19世紀に英国の実業家であるロバート・オーウェンが、働く者の生活安定を考えて、工場内に購買部などを設けた「理想工場」を英国ニューラナークに設立したことにさかのぼる。その思想を受け継ぎ、マンチェスター郊外のロッジデールにおいて、生活用品を高く買わされていた労働者達が、資金を集めて、商品を安く購買できる自分達の企業を作ったのが「ロッジデール公正先駆者組合」であり、これが世界で最初の協同組合である。株式会社と異なり、出資額にかかわらず、一人一票の平等の権利を有するという民主的な運営を行うなど、資本主義の弊害を是正するための協同組合原則、いわゆる「ロッジデール原則」を確立し、これが現在の協同組合の原理となっている。また同時期に働く者の相互扶助のために英国各地に設立された「フレンドリー・ソサエティー(友愛組合)」もこうした協同組合のルーツであると言われる。
これらは、英国の産業革命において、労働者が資本家に搾取され、資本家と労働者の貧富の差が拡大したこと、労働条件が悪化したことなど、資本主義経済の矛盾を是正するために生まれたものであり、事業分野としては、購買、販売、信用事業を行った。これが、現在の生活協同組合や農業協同組合、信用金庫などに機能分化していった。このように信用金庫は、生活協同組合、農業協同組合とも発祥を同じくする社会運動だったのである。ちなみに、エンゲルスは「空想から科学へ」の中で空想的社会主義者としてオーウェンをとりあげ、批判しながらも高く評価しており、理想社会である共産主義社会において生産手段が社会化されるというエンゲルスのアイデアも実は協同組合運動から借りたものである。
一方、日本においても、幕末の社会運動家である二宮尊徳が、勤倹貯蓄と相互扶助を目的とした報徳思想(報徳社運動)を起こし、これを全国に広めたが、これが、日本における信用金庫などの協同組合運動の思想的なルーツの1つであるといわれる。「自助論」の著者イギリスのサミュエル・スマイルズ、アメリカ建国の父ベンジャミン・フランクリンの思想に勝るとも劣らない、世界に誇るべき、優れた思想・運動として、いわば日本で独自に発達した協同組織運動として、明治の産業組合運動に大きな影響を与えていると言われている。日本最古の信用金庫「掛川信用金庫」は二宮尊徳の弟子である岡田良一郎によって設立された。
終戦後、GHQの占領政策により、地方分権が進められ、信用組合は都道府県への届出だけで簡単に設立できることとなったが、これにより、従来の信用組合とは経営理念が異なり、経営者の兼業禁止規定もなく、経営内容も異なる信用組合が新たに林立し、それらと同一視されることを懸念した従来の信用組合は、それらと一線を画すため、1951年(昭和26年)に、議員立法により、新たに大蔵省直轄の協同組織金融機関制度である「信用金庫」を創設し、一斉に転換した。当時、無尽会社が相互銀行、信託会社が信託銀行と、大半が「銀行」に名称変更したのに対し、当時の信用組合の関係者は「儲け主義の銀行に成り下がりたくない」という強いプライドから「信用銀行」という案を拒否し、そこで当時の舟山正吉銀行局長から、政府機関だけしか使っていなかった金庫という名称を許され「信用金庫」という名称となった。
[編集] 信用金庫の性質
[編集] 預金と決済
預金業務は信用金庫法で認められており、決済機能については、小切手法により銀行と同視されている。したがって、預金業務や決済業務では銀行と同等の業務内容といえる。
全国の信用金庫で、ATMの手数料を無料化する「しんきんATMゼロネットサービス」を実施している。(詳細については当該項目を参照のこと)
[編集] 会員と出資
株式会社形態をとる銀行との大きな相違点としては、信用金庫が協同組織という非営利組織形態の一種をとっていることがある。
銀行における自己資本つまり株式に相当するものは、信用金庫の場合、会員(個人または法人)の出資金である。営業区域内に居住地や勤務地のある個人、もしくは事業所のある法人などが、信用金庫に対して出資金を払込むことで、それに応じて出資証券が交付される。この点で、会員となるには、地域的な制限がある。
信用金庫の出資証券は、(信金中央金庫の優先出資証券を除いて)市場に公開されていないため、時価で売買することはできない。その代わり、信用金庫の承認を得て譲渡するか、法定脱退、自由脱退という手続きが定められている。これら脱退の場合、出資に対応する持分が信用金庫から払戻される。経営状態が悪化して減資などの措置がとられていない限り、出資額相当が払戻される。
また、出資証券をもつ会員(出資者)に対しては、出資口数に応じて配当が支払われる。
八王子信金も、優先出資を発行した。上場はされていないが、譲渡は自由である。
グローバリゼーションによる規制緩和、資本自由化の中で、株主の利益拡大を目的とした米国流の株主資本主義が進んでいるが、それだけに、資本の原理に左右されず、地元の会員が所有しているため、地元に安定した資金を提供できる協同組織金融機関本来の役割発揮が期待されている。
[編集] 出資証券の性質
経営状態が良好な信用金庫の出資証券は、出資金に対して年数%程度の配当が毎年支払われているために、個人投資家の間では隠れた人気をもつ金融商品となっている。
ただし、多くの銀行の株式が上場しているのと違って、出資証券は市場で売買することができないために、流動性はきわめて低い。高い配当利回りには、こうした流動性の低さに対するプレミアム(流動性プレミアム)が上乗せされて要求されているからだとも解釈できる。また、突然の経営悪化に対して、即座に売却できる機会がないことも重要な注意点である。
そもそも、銀行より制限の厳しい営業形態にもかかわらず、銀行よりも高い配当利回りが維持できるのは、出資証券が時価で取引されないため、企業成長による資本価値の上昇を反映できない、という制度上の問題がある。たとえば、利益成長を遂げた銀行の場合、株価が上がることによって、配当利回りも適正な水準まで低下する。しかし、信用金庫では、出資証券の価額が将来にわたって一定であるために、配当利回りを計算する際の分母は固定されており、利益と配当の成長に伴い配当利回りが時系列的に向上していく性質をもっている。
また、協同組織形態を確保するために、出資者には地域的・量的な制限がかけられている。そこで、潤沢な運用資金をもつ生命保険や銀行、投資信託などの機関投資家が自由に投資対象とできないことも、配当利回りを高止まりさせているもう一つの要因といえる。
[編集] 融資
また協同組織形態をとるために、融資先にも制限がある。具体的には、信用金庫の所在する地域の会員中小企業(従業員数300人以下、あるいは資本金9億円以下)が対象となる。ここで、融資を受けるためには会員(出資者)になることが必要とされている。(このような制限があるために、企業が大きく成長した場合には、信用金庫からの融資を受けられなくなってしまうことが起きる。このような企業は俗に「卒業生」と呼ばれる。)
[編集] その他
金融業務以外の信用金庫固有の業務として、スポーツ振興くじ(サッカーくじ、toto)の当せん金の支払いを一部の店舗で行っている。
銀行や信用組合との相違などの詳細は、外部リンク「社団法人全国信用金庫協会」サイトを参照。
統一メインキャラクターは男の子の「しんちゃん」。なお一部の信金では独自にキャラクターを設定している。
統一キャッチフレーズは「Face to Face」(1994年~)
統一イメージキャラクターは2006年より原田夏希が務める。
[編集] 他の金融機関との連携
[編集] セブン銀行との提携
2003年7月7日よりセブン銀行(当時、アイワイバンク銀行)とコンビニATMによる預け入れ・引き出し提携を開始している。ただし、利用できるのは一部の信用金庫に限られている(主にセブン-イレブンが展開されている地域の各信金が提携しているが、未展開地域などに対しては参加している信金は少ない)。開始当初は平日日中と土曜日中では無料で利用できたが、諸事情により2005年4月1日からは各信金の利用可能時間内の入出金については一律の手数料105円がかかる(片乗り入れのため、セブン銀行のキャッシュカードで信用金庫のATMを利用することができない)。
[編集] 新銀行東京との提携
民間金融機関としてははじめて、2006年1月23日より新銀行東京とのATM相互出金提携を始めた。ただし、NTTデータ統合スイッチングサービスに接続している信用金庫のみの対応となる(それでも、7~8割は対応している)。