二酸化マンガン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
二酸化マンガン(にさんかマンガン、MnO2)は、最も一般的なマンガンの酸化物である。酸化剤や乾電池、無機触媒として利用されている。
[編集] 歴史
1774年にマンガンが元素として発見されるはるか昔から、二酸化マンガンは鉱物として利用されてきた。古代ローマの博物誌家である大プリニウス (Gaius Plinius Secundus) の『博物誌』には、ガラスを無色透明にするために黒色の粉末を用いるとの記述がある。この黒色の粉末とは軟マンガン鉱 (pyrolusite) であり、不純物を 10% から 20% 含むほかは二酸化マンガンそのものである。二酸化マンガンを用いて、ガラス中にある2価の鉄イオンの緑色を消していたことになる。現代でも同じ用途に二酸化マンガンを用いている。
二酸化マンガンは、塩素の発見にも役立った。1774年、スウェーデンの化学者シェーレが濃塩酸中に二酸化マンガンを加えると、塩素が発生することを見出した。
[編集] 用途
強い酸化剤であり、触媒としても用いられている。最もなじみ深い用途はマンガン電池であるとされる。
1868年フランスのジョルジュ・ルクランシェ (Georges Leclanch) は、二酸化マンガンを用いたルクランシェ電池を発明した。ルクランシェ電池に先立つ最初の電池は、ボルタ電池である。しかし、ボルタ電池では放電が進むにつれ、プラス極上に水素ガスが付着し、水素イオンが電子を受け取れなくなる結果、電流が流れなくなってしまうという欠点があった。これを分極現象と呼ぶ。ルクランシェ電池では二酸化マンガンを加えることで、酸化作用を起こし、プラス極で発生する水素を水に酸化している。
現代のマンガン電池も、基本構造はルクランシェ電池と同じである。ルクランシェ電池は電解質に液体の塩化アンモニウム水溶液を使っており、取り回しに難点があった。マンガン乾電池では、電解質をペースト状にすることで、「乾」電池とすることができた。水素の発生を抑えるために、やはり二酸化マンガンを用いている。二酸化マンガンが電池全体に占める重量は約 40% に上る。
二酸化マンガンは無機触媒でもある。中等教育過程の理科実験でしばしば行われる、過酸化水素水から酸素を発生させる実験で用いられる。
塩素酸カリウムに二酸化マンガンを加えて、酸素を発生させる場合も無機触媒として働いている。
酸化作用、無機触媒以外の性質を生かした用途としては、樹脂に添加する黒色顔料、陶磁器の釉薬などがある。
2002年の国内生産量は約4万6000トン、輸入量は約2,300トン、輸出量は約2万4000トンである(生産量、輸出入量は化学工業日報社発行の「14504の化学商品」による)。
[編集] 化学的性質
二酸化マンガンの分子量は86.94。黒もしくは茶色の粉末状で、結晶構造は正方晶系。針状結晶か無定形の粉末の形状を取る。常温では固体。535度で熱分解する。水には不溶性である。CAS登録番号は1313-13-9である。