ヴァイオリン協奏曲 (チャイコフスキー)
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チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品35は、1878年に作曲されたヴァイオリンと管弦楽のための協奏曲。ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスのいわゆる3大ヴァイオリン協奏曲に本作を加えて4大ヴァイオリン協奏曲と称されることもある名曲であるが、ベートーヴェンやブラームスと同様にチャイコフスキーも本作1作しかヴァイオリン協奏曲を作曲しておらず、そのいずれもがニ長調で書かれていることはよく知られている。チャイコフスキーのヴァイオリン独奏を伴う管弦楽作品としては他に『憂鬱なセレナード』変ロ短調 作品26が挙げられる。
目次 |
[編集] 作曲の経緯
1877年、メック夫人から毎年年金を贈られることになったチャイコフスキーは、ジュネーヴ湖畔クラレンスに療養に出かけ、イタリアへも足を伸ばしたりしている。この時期に交響曲第4番や歌劇『エフゲニー・オネーギン』を完成させるなど、旺盛な創作意欲を示している。翌1878年4月にはヴァイオリニストで友人のコテックが訪ねてきて一緒に滞在している。本作はこの間の1ヶ月ほどの間に集中的に書き上げられた。
[編集] 初演
チャイコフスキーは完成した楽譜を早速メック夫人に送ったが、夫人から賞賛の声を聞くことはできなかった。次いで彼は楽譜を、当時ロシアで最も偉大なヴァイオリニストとされていたペテルブルク音楽院教授レオポルド・アウアーに送ったが、アウアーは楽譜を読むと演奏不可能として初演を拒絶した。
結局、初演はライプツィヒ音楽学校の教授であったロシア人ヴァイオリニスト、アドルフ・ブロズキーの独奏、ハンス・リヒターの指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、1881年12月4日に行われた。しかし、指揮者も楽団員も作品を好まず全くの無理解のうちに演奏を行ったため、その演奏はひどい有様であったという。このため聴衆も批評家もこの作品をひどく批判した。しかし、ブロズキーは酷評にひるむことなく、様々な機会にこの作品を採り上げ、しだいにこの作品の真価が理解されるようになった。初演を拒絶したアウアーも後にはこの作品を演奏するようになり、弟子のエフレム・ジンバリスト、ヤッシャ・ハイフェッツ、ミッシャ・エルマンなどにこの作品を教え、彼らが名演奏を繰り広げることで、4大ヴァイオリン協奏曲と呼ばれるまでに評価が高まったのである。
この作品は、いち早くその真価を認め、初演を行い、世界中で演奏を行うことによりその普及に尽力した恩人アドルフ・ブロズキーに献呈された。
なお、古くからアウアーが大幅にカットを施した版による演奏が一般的だったが、近年のチャイコフスキー国際コンクールではこの曲を演奏する場合にノーカットを定めている。また、その他でも近年は、ロシアのヴァイオリニストを中心にノーカットで演奏を行うケースが増えている。庄司紗矢香も2006年にカット無しの完全版をCDリリースした。
[編集] 楽器編成
独奏ヴァイオリン、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット、ホルン4、トランペット2、ティンパニ、弦楽五部
[編集] 作品の内容
- 第1楽章 アレグロ・モデラート − モデラート・アッサイ ニ長調
- ソナタ形式。オーケストラの第1ヴァイオリンが奏でる導入主題の弱奏で始まる序奏部アレグロ・モデラートでは、第1主題の断片が扱われる。やがて独奏ヴァイオリンがカデンツァ風に入り、主部のモデラート・アッサイとなる。悠々とした第1主題は独奏ヴァイオリンによって提示される。この主題を確保しつつクライマックスを迎えた後静かになり、抒情的な第2主題がやはり独奏ヴァイオリンにより提示される。提示部は終始独奏ヴァイオリンの主導で進む。展開部はオーケストラの最強奏による第1主題で始まる。途中から独奏ヴァイオリンが加わりさらに華やかに展開が進み、カデンツァとなる。再現部はオーケストラと独奏ヴァイオリンが第1主題を静かに奏で、徐々に音楽を広げて行き、型通りに第2主題を再現する。ここから終結に向け音楽が力と速度を増してゆく中、独奏ヴァイオリンは華やかな技巧で演奏を続け、最後は激しいリズムで楽章を閉じる。
- 第2楽章 カンツォネッタ アンダンテ ト短調
- 複合三部形式。管楽器だけによる序奏に続いて独奏ヴァイオリンが愁いに満ちた美しい第1主題を演奏する。第2主題は第1主題に比べるとやや動きのある主題で、やはり独奏ヴァイオリン主体で演奏される。第1主題が回帰してこれを奏でた後独奏ヴァイオリンは沈黙し、オーケストラが切れ目なく第3楽章へと進む。
- 第3楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェシモ ニ長調
- ロンドソナタ形式。第1主題を予告するようなリズムの序奏の後、独奏ヴァイオリンが第1主題を演奏する。この主題はロシアの民族舞曲トレパークに基づくもので、激しいリズムが特徴である。やや速度を落とし、少し引きずる感じの第2主題となるがすぐに元の快活さを取り戻す。だが、この後さらにテンポを落とし、ゆるやかな音楽となる。やがて独奏ヴァイオリンが第1主題の断片を演奏し始めると徐々に最初のリズムと快活さを取り戻し、第1主題、第2主題が戻ってくる、最後は第1主題による華やかで熱狂的なフィナーレとなり、全曲を閉じる。