ミサイル防衛
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ミサイル防衛(MD:Missile DefenseまたはBMD:Ballistic Missile Defense)とは主に弾道ミサイルからある特定の区域を防衛することである。
ミサイル防衛は時代と共にその名称が変遷してきた。2001年5月にブッシュ政権は戦域ミサイル防衛 (TMD:Theater Missile Defense)と国家ミサイル防衛 (NMD:National Missile Defense)を統合した多層的なミサイル防衛構想を打ち出した。 2006年現在、日本では次世代型の「スタンダードミサイル SM-3」をアメリカと共同開発中であり、ミサイル防衛対応型イージス艦を2007年には横須賀と新潟に配備する予定である。また、「パトリオットミサイル PAC-3」の実戦配備も行われる。 また、在日米海軍は横須賀港にアーレイバーク級ミサイル駆逐艦フィッツジェラルド、カーティス・ウィルバー、ジョン・S・マッケーン、ステザム、ラッセン、マスティンを弾道ミサイル監視艦として、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦シャイローが弾道ミサイル迎撃艦として配備されている。空軍は常駐ではないが沖縄の嘉手納基地へRC-135やWC-135などを展開させ弾道ミサイル実験の光学/電子情報収集や大気中に浮遊する放射性物質の観測・収集し北朝鮮に対し日米共同でミサイル防衛体制を敷いている。
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[編集] 歴史
[編集] ミサイル防衛の始まり
核ミサイルが登場した当初から、これを爆発前に打ち落とす技術の開発は始まっていた。 1960年代には米ソの双方でABM(Anti-Ballistic Missile)と呼ばれる弾道弾迎撃ミサイルが開発されている。当時は精密誘導技術がまだ未熟だったため、迎撃ミサイルにも核弾頭を搭載し、核爆発の広範な破壊力によって命中率を補う方式であった。これにより、相互確証破壊の崩壊を懸念してABMの配備を制限する弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)が米ソ間で結ばれた。しかし、核ミサイルを迎撃するのに核ミサイルを使用したのでは放射性降下物などの被害が避けられないこと、核爆発に伴う大規模な電磁的障害のせいで敵国の第二次攻撃に対抗できないことなどから、このような核弾頭を搭載するタイプの迎撃ミサイル開発は次第に廃れていく。
[編集] SDIからGPALSへ
1980年代に入ってから、アメリカ大統領ロナルド・レーガンは、戦略防衛構想(SDI, Strategic Defense Initiative /エス・ディー・アイ)構想を発表した。人工衛星に搭載したレーザー兵器や迎撃ミサイルによって、飛来するミサイルを破壊するというものであった。開発には巨額の予算が投じられたが、実現には至らなかった。なお、この計画は、当時の技術力ではあまりにも非現実的であったため、スターウォーズ計画とも言われている。SDI構想については、現実味の薄い計画に無駄に大金を投じたという批判がある一方で、ソ連に対抗策を強要してその崩壊を早めさせたという意見もある。
冷戦の終結後、ソ連の脅威に代わって戦域弾道ミサイルの拡散が大きな問題になった。そして湾岸戦争をきっかけに、弾道ミサイルの脅威が広く知られるようになると、ジョージ・H・W・ブッシュ政権の下、GPALS(限定的攻撃に対する地球規模の防衛構想,Global Protection Against Limited Strikes / じーぱるす)が提唱された。SDIが大国間の弾道ミサイル攻撃を想定していたのに対して、GPALSはより小規模な弾道ミサイル攻撃への対処を目的としていた。迎撃方式も改められ、宇宙配備と地上配備の迎撃・追跡システムを組み合わせる事とされていた。後述のTHAADやパトリオットミサイル PAC-3が計画されたのはこのころである。
[編集] TMDとNMD
この計画を引き継いだビル・クリントン大統領は、GPALS計画を破棄し、代わって打ち出したのがTMDである。これは、GPALSで予定されていた宇宙配備の迎撃システムを構築するためにはABM条約を破棄せねばならず、これを嫌ったためとされている。TMDでは地上配備型の迎撃ミサイルが迎撃の中心となっている。
その後、再び米本土を狙うことができる長射程の弾道ミサイルに対する懸念が高まった。具体的には、イランのシャハブ3や、北朝鮮のテポドン1などである。これらは射程が1000km前後であるものの、将来的には米本土に対する脅威になりえると見られていたからである。この脅威に対抗するために始められたのがNMDである。
[編集] 現代のミサイル防衛
その後、これらの計画を引き継いだジョージ・ウォーカー・ブッシュ政権は、NMDとTMDを統合し、より強力に推し進めている。またABM条約を破棄したことから今後、宇宙空間配備のミサイル迎撃兵器が登場する可能性もあり、実際に計画もされている。
なお、アメリカ以外でも弾道ミサイル迎撃能力を持つミサイルは開発されており、イスラエルのアローミサイルや、ロシアのS-300などが知られている。
[編集] 迎撃段階と使用される兵器
弾道ミサイルの発射は早期警戒衛星によって探知される。弾道ミサイル迎撃の方法としては発射直後のブースト段階で破壊するもの、発射後大気圏外で慣性飛行している段階で破壊するもの、着弾前の再突入段階で破壊するものの3つに分けられる。基本的にこの3つは個々で使用されるわけではなく、あわせて使用され撃墜率を高める。
[編集] ブースト段階(ブーストフェイズ)
ブースト段階で破壊するための兵器としては ABL(Airborne Laser)が挙げられる。これはレーザーを使用しブースト段階のミサイルを破壊しようとするものである。現在この兵器は AL-1 として開発中である。この段階での迎撃の利点として、ミサイル自体がまだ低速で弾頭切り離し前のため大きいことから、迎撃が比較的容易であることである。逆に欠点としては常に迎撃可能な位置にいるとは限らないことである。またその性質上敵領空内での迎撃となる可能性が高いため制空権が確保されていない場合使用が困難でもある。
[編集] 慣性飛行段階(ミッドコースフェイズ)
宇宙空間を慣性飛行している段階で使われる兵器としてはイージス艦から発射される現在開発中のスタンダードミサイル SM-3が挙げられる。
[編集] 再突入段階(ターミナルフェイズ)
再突入段階での迎撃に使用される兵器としてはペトリオットミサイル PAC-3、THAAD(Terminal High Altitude Area Defense)が挙げられる。パトリオットミサイル PAC-3は現在実戦配備が開始されており2003年のイラク戦争でも使用された。THAADはPAC-3より射程が長く大気圏外での迎撃も可能とされる。しかし、この段階で弾頭の迎撃に成功したとしても、弾頭の残骸や弾頭内の放射性物質が迎撃国領内に降り注ぐ可能性がある。
[編集] 日本版BMD
日本では、1998年(平成10年)8月31日のテポドン発射以来、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の弾道ミサイル開発に神経を尖らせている。このため、米国のミサイル防衛計画の進行を観察し、小泉純一郎内閣は2003年(平成15年)12月19日の安全保障会議および臨時閣議によって、『日本版弾道ミサイル防衛(BMD)』のシステム導入を決定した。同日付で閣議決定「弾道ミサイル防衛システムの整備等について」(計画概要、総合的な防衛力の見直し、BMDが集団的自衛権に利用されるものではない旨の説明)を発表、同時に福田康夫官房長官が周辺国に脅威を与えるものではないことを旨とした補助的な談話を公表した。
BMDシステムは2004年(平成16年)度から調達が開始され、2007年(平成19年)度からの稼動を予定している。目下のところ、以下のような装備の導入計画・開発がなされている。
- 弾道ミサイルの終末局面(再突入から着弾)での破壊を行う。
- 現在、航空自衛隊では地対空誘導弾ペトリオットとしてパトリオットミサイル PAC-2 が配備されている。新たにPAC-3を導入するのは、PAC-2も弾道ミサイル迎撃能力は持っているとされるが、限定的なもので北朝鮮のテポドン等には対応できないと見られているからである。
- ただし、PAC-3の射程は15kmと短く(PAC-2の射程は百数十km)、PAC-3単独で日本全土をカバーすることは不可能である。このため、スタンダードミサイル SM-3を導入する。
- PAC-3は弾頭貫通時に高熱を発し生物・化学兵器を無力化させる能力がある。
- イージス艦で運用される迎撃ミサイル。弾道ミサイルの中間飛行局面(宇宙空間での弾道飛行)での破壊を行う。
- 現在、海上自衛隊ではスタンダードミサイル SM-1とSM-2を運用しているが、いずれも弾道ミサイル防衛には適していない。
- SM-3とMDシステムに対応するため、こんごう型護衛艦4隻の改修が予定されている。
- 導入が予定されているのはブロックIであるが、より迎撃能力を高めたブロックIIが日米で共同開発されている。
- 将来警戒管制レーダー(FPS-XX)
- 防衛庁が開発したアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー。弾道ミサイルの探知が可能。その特異な外見からガメラレーダーとも言われる。
- 将来センサシステム(AIRBOSS)
- Advanced Infrared Ballistic-Missile Observation Sensor System、通称エアボス。弾道ミサイルを探知するために開発された、航空機に搭載するセンサーである。日本版コブラボールとも言われる。将来センサシステム(搭載型)としてUP-3Cを試験母機に開発が進められており、2005年(平成17年)11月に米ハワイ州での弾道ミサイル探知試験で捜索・探知・追尾に成功した。
これらの装備が連携するためのネットワークを整備することも予定されている。また、MDにはアメリカの協力が不可欠であることから、日米共同の作戦センターを横田基地に設置する案もある。
MDが有効に機能するためには迅速な判断が必要とされ、2005年(平成17年)に改正された自衛隊法によって、ミサイル防衛システムで迎撃する際の手続きが簡略化された。これによって2007年(平成19年)度から開始されるミサイル防衛システム配備の法的な整備が整った。実際に迎撃するにあたり現場の指揮官に大幅な裁量を認めているため、シビリアンコントロールが確保されていないとして問題視されることがあるが、数分以内で対応できなければ甚大な被害をこうむる可能性があるため、権限を制約しこれ以上時間をかけることは難しいと考えられている。[1]
これら一連のMD計画の中で、小泉首相の推し進めた日米同盟強化が実現し、「日米一体化」が進むことへの懸念の声も聞かれる。また、MDには巨額の費用が必要であるが、現状では迎撃に失敗する可能性が少なからずあるとされるため、MDの有効性を疑問視する専門家も少なくない。
[編集] 批判
ミサイル防衛計画に対し、それぞれの立場・知見から批判を行う人々もいる。
- (主に反戦・反米の立場から)ミサイル防衛は相互確証破壊(MAD)による安定を崩壊させる。先制核攻撃を容易ならしめて核戦争の危機と軍拡を引き起こすものなのでこのような計画は進めるべきではない。
- (コストパフォーマンスを重視する立場から)ミサイル防衛計画はその推進にも維持にも莫大な費用が必要であるが、それに見合った迎撃効果が得られるか疑わしい。また、ミサイル防衛をすり抜けるような核ミサイルを開発するのも容易である。したがって、このような計画は中止し、その分の予算をより有益な分野にまわすべきである。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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