情報収集衛星
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情報収集衛星(じょうほうしゅうしゅうえいせい Information Gathering Satellite; 略称 IGS)は、日本の安全保障上の情報収集を目的としたいわゆる偵察衛星である。
法令上は「我が国の安全の確保、大規模災害への対応その他の内閣の重要政策に関する画像情報の収集を目的とする人工衛星」と定義されている(内閣官房組織令第4条の2第2項)。
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[編集] 概要
光学センサを搭載し画像を撮影する「光学衛星」と合成開口レーダー(SAR)による画像を取得する「レーダー衛星」の2機でペアを組み、2組4機で運用する計画だが、第2回目の打ち上げが失敗したため、当面は2機体制で運用中。2006年9月及び2007年に1機ずつ打ち上げられ、4機体制となる予定。
4機体制が確立すれば、地球上の任意地点を毎日最低1回は観測可能となる。光学衛星の解像度は最高1m程度であるとされ、昼間の写真撮影を行う。レーダー衛星は光学衛星より解像度は落ちるものの、夜間および曇天でも画像取得が可能である。
[編集] 経緯
1998年8月31日に北朝鮮が何らかの飛行体をほぼ東の方向(射場から見て東は北米ではなく南米大陸の方向)に向けて発射した。飛行体の一部(ロケットの1段目と推定される)は日本海に、他(2段目以降と推定)は日本上空を通過して太平洋に落下した。同国はこれを人工衛星の打上げで、打上げは成功したと発表したが、衛星の電波は全く観測されていない。日本政府はこれを弾道ミサイルテポドンと判断して北朝鮮に対する非難声明を出し、KEDOへの資金拠出を凍結した(→北朝鮮によるミサイル発射実験 (1998年))。
この事件をきっかけに、日本独自に衛星による偵察を行う能力を保持すべきとの動きが与党自民党から出され、野党の民主党も概ね同調した。1998年11月には早くも情報収集衛構築には総額で約2,500億円が投じられる。
[編集] システム
[編集] 衛星
2003年3月28日にH-IIAロケット5号機で最初の2機が同時に打ち上げられた。さらに、2003年11月29日13時33分にH-IIAロケット6号機で次の2機を打ち上げたが、ロケット側の故障により打ち上げに失敗し、2機とも失った。その教訓から、以降はリスク分散のために1機ずつ打ち上げることになった。2006年9月11日に光学2号機が打ち上げられ、2007年初頭にレーダー2号機が打ち上げられる。この2機の正式運用が始まるまでは、先に打ち上げられた2機体制のままの運用を続けざるを得ないと見られている。
衛星の詳しい諸元や打上げ・軌道データは公開されていない。(注:下記参照)以下のデータは一部推定である。
[編集] 稼動中の衛星
- IGS-1A(レーダー衛星)
- SAR(合成開口レーダー)の解像度約1~3m
- マイクロ波を用いるため、夜間や雲天時も地上の様子を撮影可能
- IGS-1B(光学衛星)
- パンクロマチックセンサー:最大分解能1m(モノクロ画像)
- マルチスペクトルセンサー:最大分解能5m(多波長で撮影可能)
- 但し目標解像度1mの性能を満たしていないとの報道もあり(朝日新聞 2003年6月7日)
- 可視光を用いるため、地表撮影は昼間かつ晴天時に限られる
- 情報収集衛星光学2号機(IGS-3A)
- IGS-1Bと同型の光学衛星
- SSC number: 29393
- 2006年9月11日13時35分H-IIAロケット10号機にて打ち上げられた。打ち上げ後の約3ヶ月間は軌道上で衛星の機能試験を実施し、その後に正式運用に入るものとされる。
- 他の衛星や、前回前々回の情報収集衛星打ち上げ時と違って、テレビ中継やインターネット中継はなかった。発射場ライブカメラも別の場所を映していた。
- 衛星開発費は290億円、ロケットの製造および打ち上げ費用は96億円、衛星打ち上げでかかった総額は約390億円とされる。FAAの資料でもロケットの打ち上げ費用は85M$と示されている。
- 光学2号機とレーダー2号機(3,4号機と称していたもの)の打ち上げ費用は合わせて約900億円という。
[編集] 打ち上げ予定の衛星
- 情報収集衛星レーダー2号機
- IGS-1Aと同型機
- 2007年1~2月H-IIAロケット12号機にて打ち上げ予定
- より分解能を向上させた光学3号機の技術検証用の実証衛星も同時打ち上げ予定 (2006/11/1付 南日本新聞の報道より)
- 先に打ち上げられた光学衛星2号機と一組で運用される予定。
- この打ち上げにより、当初計画していた4機での運用体制が整う。
- 情報収集衛星光学3号機
- 2009年打ち上げ予定
- 最大分解能を40cmに引き上げ、姿勢制御能力を大幅に向上させて様々な角度からの撮影を行うことを目標として開発される。
- 衛星からの画像を処理するための地上システムも同時に増強予定。
- 情報収集衛星レーダー3号機
- 2011年打ち上げ予定
[編集] 衛星の軌道
- 高度約500kmの円軌道(太陽同期準回帰軌道)
- 日本付近を通過する時刻は10:30~11:00に設定
(注)軌道データは当初、米国ゴダード宇宙センターから公表されており、数日後に日本政府から要請があるまで公開されていた。(軍事衛星を除く)人工衛星の軌道要素は公開が原則となっているが、内閣府の担当者はそれを知らなかったという。外部から指摘され、公開停止要請をしたと見られている。しかし、現在でもネット上で軌道要素は流通していると考えられ、日本国内でも撮影に成功している者がいる。
[編集] 地上システム
北海道苫小牧市、茨城県行方市、鹿児島県阿久根市に受信局を持つ。データは東京・市ケ谷の内閣衛星情報センターに送られ、分析官により情報分析が行われるが、分析官自体養成中の段階であるといわれる。
衛星の打上げ・運用(運用は内閣衛星情報センターが行っているのでは?)は初回は宇宙開発事業団(NASDA)が行った。2003年10月以降は、後身の宇宙航空研究開発機構(JAXA)で行っている。
[編集] 実績
2006年9月、朝鮮人民民主主義共和国が地下核実験を実施した。それに対して、初期計画通りの偵察活動を検知できたか発表もなく、成果を上げているのか定かではない。