マツ
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マツ属 | ||||||||||||||||||
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マツの木 |
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分類 | ||||||||||||||||||
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マツ(松)とは、マツ科マツ属の針葉樹。日本語でマツといった場合、クロマツ、アカマツを指すことが多い。また日本語でマツを名前に含む樹種にはカラマツ等マツ属でないものもある。マツ属には約115種類の樹種があり、また、人により105から125の樹種があるとも言われている。庭木や盆栽によく用いられる。松脂(まつやに)は様々な分野に利用される。
松の葉は針状であり、幹には堅い殻が形成される。また、松ぼっくり(まつぼっくり)もしくは松笠(まつかさ)という球状の果実ができる。松ぼっくりの中には種が作られる。この種により松は繁殖することができる。
日本では長寿を表す縁起のよい木とされ、松、竹、梅の3つを松竹梅(しょうちくばい)と呼んで重宝している。
目次 |
[編集] 分類
分類上は単維管束亜属(ゴヨウマツ)と複維管束亜属(ニヨウマツ)に分けられる。
日本に自生する五葉松類として以下の4種及び1変種がある。
- ヒメコマツ(別名ゴヨウマツ) Pinus parviflora
- キタゴヨウ(ヒメコマツの変種) P. parviflora var. pentaphylla
- ヤクタネゴヨウ P. armandi var. amamiana
- チョウセンゴヨウ P. koraiensis
- ハイマツ P. pumila
日本に分布する二葉松類としては以下の3種類がある。
[編集] 分布
分布域は、主に日当たりの良い地味の乏しい土地を好み、気温的には亜熱帯(リュウキュウマツ)から高山帯(ハイマツ)までの、きわめて多様な気象条件に対応している。世界的にはユーラシア大陸から北米までの北半球全域で北は北極圏近くから南はベトナム(アジア)・コスタリカ(北米)にまで分布。
[編集] 文化
能、狂言の舞台には背景として必ず描かれており (松羽目)、演目によって山の松や浜の松、庭の松などに見立てられる。 歌舞伎でも能、狂言から取材した演目の多くでこれを使い、それらを「松羽目物」というなど、日本の文化を象徴する樹木ともなっている。松に係わる伝説も多く、羽衣伝説など様々。また常緑樹として冬も緑の葉を茂らせることから、若さ・不老長寿の象徴とされ、竹、梅と合わせて「松竹梅」としておめでたい樹とされる。日本の城にも植えられているが、非常時に実や皮が食料になるため重宝されてきた。
[編集] 音楽
- 『老松』 (能)
- 『末の松』 (箏曲)
- 『松尽し』 (地歌、箏曲) 作曲者不詳
- 『松尽し』 (地歌、箏曲) 藤永検校作曲
- 『松風』 (地歌、箏曲) 岸野次郎三作曲
- 『新松尽し』 (地歌、箏曲) 松浦検校作曲
- 『松の寿』 (地歌、箏曲) 在原勾当作曲
- 『松竹梅』 (地歌、箏曲) 三ツ橋勾当作曲
- 『根曵の松』 (地歌、箏曲) 三ツ橋勾当作曲
- 『老松』 (地歌、箏曲) 松浦検校作曲
- 『尾上の松』 (地歌、箏曲) 作曲者不詳、宮城道雄箏手付
- 『松の栄』 (地歌、箏曲) 菊塚検校作曲
- 『松風』 (山田流箏曲) 山田検校作曲
- 『松の栄』 (山田流箏曲) 二世山登検校作曲
- 『老松』 (長唄) 杵屋六三郎作曲
- 『松の緑』 (長唄) 四世杵屋六三郎作曲
- 『松襲』 (一中節) 初代菅野序遊作曲
- 『松の羽衣』 (一中節)
- 『老松』 (常磐津) 初世常磐津文字太夫作曲
- 『老松』 (清元) 富本豊前掾作曲
- 『 ローマの松』(交響詩) レスピーギ作曲
[編集] 利用
[編集] 観賞
低木は庭木などに利用される。また葉長の短い物は盆栽などに利用される。
[編集] 木材
木造建築用の梁・桁などに利用される。近年、マツクイムシなどの被害が多く純林が減少。手に入りにくくなっている。また、鉄道の枕木としても使われていた。
[編集] 燃料
他の木材と比べ可燃性の樹脂を多く含み、マッチ1本で着火できるため以前は焚き付けに用いられた。また、第二次世界大戦中の日本では、掘り出した根から松根油を採取し、航空機の燃料に用いようとしたことがある。
他の木材と比較し単位重量当りの燃焼熱量が高いことから、特にアカマツは陶器を焼き上げる登り窯など、窯の燃料として珍重される。
[編集] 食用
朝鮮五葉松などから採取された松の実は、食用にも供される。60%を超える脂質のほか微量元素も含まれ、独特の香りを持つことから健康食品、菓子等にも使用される。
また、フランス海岸松の樹皮から抽出されるポリフェノールを多く含むエキスは、サプリメントに利用されている。
アカマツなどの若葉を洗浄して、砂糖水に漬け、葉に付着している細菌の作用で炭酸ガスを発生させて水中に溶け込ませて作る松葉サイダーという飲み物がある。松葉は食用にしないが、成分が溶け込んで、独特の味わいがでる。
紅茶のラプサンスーチョンは、タイワンアカマツなどの木材や樹皮でいぶして、独特の香りを付けて作られる。
[編集] 松脂
松脂(まつやに)は松の枝、芽などを折ったり、幹に傷を付けたりした際に出る樹脂の事である。樹脂は樹脂道という特殊な組織でつくられ、主に昆虫の幼虫の寄生を妨げる目的で合成され、テルペン等の揮発成分を大量に含み、水には溶けない。最初は透明で粘り気があり、揮発成分による芳香がある。酸化により黄色や茶色に着色する。虫がこの中に捕捉され、そのまま地中に埋もれても腐らないため酸化固化を経て琥珀になる。同じような樹脂はスギ、ヒノキ、トウヒ、モミ等針葉樹の全てで作られるが、松は特に材の中にも樹脂道を多く持っているため、松脂がもっとも有名で、幹に傷をつけて採取する場合も大量の樹脂の収集が可能である。また、マツはもっとも人に近いところに生育あるいは、植栽されてきたため、世界中で松脂は様々な物に活用されてきた。松脂を蒸留するとロジン、テレピン油、ピッチなどが得られる。松脂を香料として使うこともあり、フランスなどではマツの香りのする飴が作られている。
==手入れ== 庭木や盆栽の松の手入れとして他の植物と際だったものとして、「みどりつみ」と「もみあげ」がある。 [みどりつみ] 松の新芽を「みどり」という。若木や栄養豊富な木ではこの「みどり」が勢いよく伸びて、結果として間延びした樹形となってしまうので、5~6月頃に、本数は2,3本くらいに、長さは好ましい枝の長さに指で「みどり」を折ってやる。 [もみあげ] 古葉取りのことである。葉をむしり取る様子がもみあげという言葉を生んだのだろうか。作業は秋以降に原則として前年葉を全てむしり取るということである。目的とするのは次の通り。1 能力の弱まった古い葉を捨てる。2 そのことによって日当たり、風通しをよくする。3 全体としてすっきりとした樹形にする。 木全体のことを考えれば、前年葉でも少しは残すこともあるだろうし、本年葉でも少しむしるということもありうる。
[編集] 応用例
- シャボン玉原液の材料
- 粘りがあるため、割れるまでに時間のかかるシャボン玉が出来る。
- バイオリンなどの弦楽器に使用される弓の塗布剤
- 弦楽器の弓はその殆どが馬の尻尾の毛でできている物が多く、ただそれだけでは弦との間に摩擦係数が極めて少なく殆ど小さな音しか出せない。固形化した松脂またはロジンを塗布することで摩擦係数が大きくなり音が出やすくなる。