マスドライバー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
マスドライバー(Mass driver)とは、惑星の衛星軌道上や衛星の周回軌道上に物資輸送を大量輸送に向くよう効率良く行うための装置/設備/施設で、地上から第一宇宙速度にまで加速したコンテナなどを垂直、またはそれに近い角度で「放り上げる」物である。この装置は実用化に向けて様々な研究もなされており、宇宙を舞台としたSF作品にしばしば登場する。
目次 |
[編集] 概要
マスドライバーとは宇宙に大量の物資を輸送するために考案された物で、端的にいえば「コンテナを積んだ巨大な砲弾を打ち上げるための大砲」のような物である。このいささか乱暴にも聞こえるアイデアの原型は、1865年にジュール・ヴェルヌの発表した、『地球から月へ』(日本では『月世界旅行』という作品名で知られている)という作品の中で登場した270mもの砲身を持つ大砲である。
重力の井戸の底に住んでいる人類は、現在ロケット噴射によって衛星軌道にまで上がることで、もっとも近い天体である月に人を送り、無人探査機を太陽系内の他惑星に送る技術を獲得している。しかしこの衛星軌道へのロケットによる打ち上げでは、キログラム当たり数千ドル(スペースシャトルでも約8,800ドル/kg程度)という莫大な費用が掛かるため、宇宙空間への物資輸送はコスト面で足踏み状態にあるのが現状である。これをもっと安価に…と考えられた結果、発案されたのがマスドライバーである。
現在考えられているものの動力には、さすがに黒色火薬やダイナマイト等の火薬の類いでは間に合わないため、弾体の通過に合わせて巨大な砲身に、数段階に別けて高圧ガスや炸薬を注入して加速する方法(多薬室砲など)や、リニアモーターカーのように、それよりも遥かに強力な電磁石の反発力で段階的に加速・射出するもの、更には二本のレール間に高電位をかけ、伝導体で出来た弾体をレール間に挟んで、伝導体後方に発生したプラズマにかかるローレンツ力による反発で弾体を加速・射出するレールガン等がある。また射出用コンテナの代わりにロケットを砲身に突っ込んで、ロケットを外部から加速して打ち上げる複合的な案もあり、ロケットの燃料節約や積載量の拡大が期待されている。
一方、打ち上げられた弾体には、基本的に推進装置がないため、一度宇宙空間に飛び出してしまえば、慣性の法則に従って飛んで行くだけなので、それらコンテナを宇宙空間で受け止めるマスキャッチャーと呼ばれる、受け取り場所も必要と考えられている。
[編集] 可能性や実用案
地球上から、有人の弾体をマスドライバーで打ち上げるのはかなり乱暴な方法といわざるを得ない。何故なら本来は数kmの上昇距離をかけて加速するはずの速度を、砲身の高々数百m程度の距離で加速するマスドライバーは、弾体に強い加速が付くためである。この問題に対して、SF作品の多くは「宇宙船カタパルト」としてのマスドライバーを登場させるなどしている。
マスドライバーは、地球上から有人コンテナを打ち上げるには、加速がかかり過ぎるなどの点で不適切な部分も多いが、これが重力井戸の浅い月や火星などの天体から打ち上げる場合は、非常に有効な射出手段として考えられている。また地球軌道上の宇宙ステーションは火星並の重力下にあるため、宇宙ステーションから他天体へ移動する際に第二宇宙速度へ加速するためには、このマスドライバー設備が必要になると思われる。
なお、NASAでは永久磁石を用いるインダクトラックが補助的なマスドライバーとして利用できる可能性があると考え、研究資金を提供している。
[編集] マスドライバーの登場する作品
- 月は無慈悲な夜の女王(ハインラインのSF小説)
- 月面マスドライバーを転用した対地球兵器として登場。地球を月の石で爆撃した。
- ガンダムシリーズ(アニメ)
- 月面に設置されており、モビルスーツ(人型ロボット)を遠方の宙域へ移動させるための加速を得るために利用された。(機動戦士ガンダム 逆襲のシャア)
- 定期的に地球から宇宙(スペースコロニーなど)に向け、人、及び個人の財産や過去の貴重な遺産などを送り出す施設。完全中立を謳う宇宙引越公社によって運営されており、アニメではヨーロッパのアーティ・ジブラルタルにマスドライバーが設置されていた。(機動戦士Vガンダム時の設定)
- 宇宙船がザックトレーガー(スカイフック)へアプローチするために、南アメリア・マニューピチに作られた施設。長年遺跡状態にあったが、ウィルゲム飛翔のため復元された。(∀ガンダム時の設定)
- オーブ連合首長国などの赤道付近にて、戦艦等を地上から宇宙空間へと飛び立たせるための施設として登場している。オーブの他にも南アフリカ統一機構のビクトリア、東アジア共和国のカオシュン、南アメリカ合衆国のパナマに存在。パナマのマスドライバーは機動戦士ガンダムSEED第37話でザフトのグングニールによって破壊された。またオーブのマスドライバー「カグヤ」は、機動戦士ガンダムSEEDにおいて、マスドライバーを確保したい地球連合軍が同施設を確保すべくオーブ侵攻を図るが、連合軍に屈することを良しとしなかったオーブ首脳陣の手により爆破された。なお機動戦士ガンダムSEED DESTINYの時点で「カグヤ」は再建された。(機動戦士ガンダムSEED・機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
- エースコンバット5 (PS2用ゲーム)
- オーシアとユークトバニアの軌道施設建造の為の資材打ち上げの手段として建造され、MISSION06白い鳥Iでプレーヤーの所属する部隊は、オーシアの単段式シャトルの打ち上げを護衛した。全長約12km。
- 夜明け前より瑠璃色な (PCゲーム)
- 軌道重力トランスポーターの名で地球と月面に1基ずつ配置されていて、対の装置が打ち出されたものを受け止める。四角錐型で高さ60m程。
- 地球から月へ大量物資や人員を送る為に使われてきたが、後の戦争で対の装置を狙わず街を狙い兵器として使用された。戦後も双方の装置は形を残している。
- 未来の二つの顔 (SF小説)
- 推論能力を備えたコンピュータに月面の丘陵の掘削を命じたところ、配下のマスドライバの駆動力を減じて荷物を所定丘陵に落下させて粉砕する手法を編み出して実行し、現場の工事担当者ならびにコンピュータ技術者を恐怖させた。これを契機としてより高度な人工知能の開発がはじまる。