ビオチン
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ビオチン (biotin) とは、D-[(+)-cis-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ-(3,4)-イミダゾール-4-吉草酸]のこと。ビタミンB群に分類される水溶性ビタミンの一種で、ビタミンB7(Vitamin B7)とも呼ばれるが、欠乏症を起こすことが稀なため、単にビオチンと呼ばれることも多い。
1935年、オランダのケーグル(F. Kögl)により卵黄中から発見された。酵母の増殖に必要な因子ビオス (bios) の1成分として研究されたため、この名がついた。また、古くには、マウスを用いた動物実験において、生卵白の大量投与によって生じる皮膚に炎症を防止する因子として発見されたことから、ビタミンH(Hは皮膚を表すドイツ語Hautから)と呼ばれたこともある。また、生体内において果たす役割から補酵素Rと呼ばれることもある。
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[編集] 生化学
カルボキシル基転移酵素(carboxylase)の補酵素として働く。特にビオチンを補酵素として持つ酵素の一群をビオチン酵素(biotin enzyme)と呼ぶ。この中には糖代謝に関与するピルビン酸カルボキシラーゼ、脂肪酸代謝に関与するアセチルCoAカルボキシラーゼやプロピオニルCoAカルボキシラーゼ、アミノ酸の一種ロイシンの代謝に関与する3-メチルクロトノイルCoAカルボキシラーゼなどが含まれる。
[編集] 物性
- 分子量 244.31
- 水溶性、溶解度は25℃において22mg/100ml
- 熱、光、酸に対し安定
- アルカリに不安定
- 無色針状結晶
- 融点 232~233℃
[編集] 摂取
一日の目安量は、成人で45μg。腸内細菌叢により供給されるため、通常の食生活において欠乏症は発生しない。多く含む食材には酵母、レバー、豆類、卵黄などがある。しかしながら国内で未だ知名度の低いビオチンは、未だ日本食品成分表に掲載されておらず、その摂取基準が曖昧である。ビオチンの利用効率は食品によりかなり異なり、特に、小麦中のビオチンはほとんど利用されない。過剰障害は特に知られていない。
抗生物質の服用により腸内細菌叢に変調をきたすと欠乏症を示すことがある。また、ビオチンは卵白中に含まれる糖蛋白質の一種、アビジンと非常に強く結合し、その吸収が阻害されるため、生卵白の大量摂取によっても欠乏症を生じることがある。この場合のビオチン欠乏症を特に卵白障害と呼ぶ。1日あたり10個以上の生卵を食用し続けると卵白障害に陥る可能性があるとされる。欠乏症状は以下のとおり。
- 白髪、脱毛、湿疹あるいは炎症など皮膚症状
- 皮膚や粘膜の灰色退色や落屑
- 結膜炎
- 筋肉痛
- 疲労感
- 食欲不振
- 味覚異常
- 血糖値上昇
- 不眠
- 神経障害
[編集] 催奇形性
これまでの動物を用いた多くの研究において、妊娠中ビオチン欠乏状態に陥った母体の胎児に、高い確率で(~100%)奇形が誘発されることが報告されている。その主なものとしては、口蓋裂、小顎症、短肢症などがある。これらの研究は国内のビオチン研究における第一人者である兵庫県立大学渡邊敏明教授らによって進められているが、その詳細なメカニズム等に関してはほとんど明らかにされていない。
[編集] 応用
卵に含まれるタンパク質アビジンは、ビオチンを非常に強く結合する(ほとんど不可逆的)ため、標的分子にビオチンを結合して目印とし、これをアビジンで検出する方法が用いられている。生化学の研究用試薬、あるいはがんなどの検査用試薬、さらにはモノクローナル抗体と制がん剤を結びつけてがん細胞のみを直撃するミサイル療法製剤への適用などへの応用がある。