パワードスーツ
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パワードスーツとは、SF作品などに登場し、人体に装着される電動アクチュエーターや人工筋肉などの動力を用いた、外骨格型または鎧型、あるいは衣服型の強化装置である。日本語では直訳で強化服とも呼ばれている。
- 架空のものでは、登場作品によって色々な名称や作動方式・機能の付加が見られる。
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[編集] 概要
パワードスーツは、人間の筋力を増強するために、「着用して利用する」という機械装置である。人間は古くから自分の筋力の限界を様々な形で補ってきており、建設機械などでは人間の力を超えて遥かに作業効率の良い装置も一般的に使われているが、パワードスーツはその最も個人化した概念といえよう。
[編集] 関連する呼称・類似概念
現実の医療機器などはパワーアシスト(Power Assist)機器ないし装置などと呼ぶ。これは近年一般的に見られる電動アシスト自転車の延長的な呼び名とも言えるが、同時に「人の力を補助する(助ける)」という意味で、自立行動が難しい障害者の行動を助けたり、あるいは看護する者の力仕事を助けるという意味合いとも言えよう。
1968年にはジェネラル・エレクトリック社が"Hardyman"を発表している。この装置は「外骨格(Exoskeleton)」と呼ばれるタイプのもので、人が装着しない状態でも自重を支えるフレーム構造を持ち、人間が装置に搭乗して操作する事で、その操作に従って仕事をするという発想である。
強化外骨格はこのHardymanのような装置全体で一つのシステムであり、人間は搭乗するような形のものを指す言葉である。しばしば人間が装着してその力を増幅させるパワードスーツそのものと混同される事もあるが、強化外骨格はパワードスーツの一形態に過ぎない。なお2006年現在で医療関連で開発・商品化が進められているパワーアシスト機器も、基本的には強化外骨格である。また強化外骨格は「外骨格」という言葉から甲殻類のように全体を被う鎧が付属しているとイメージされる事もあるが、装甲の有無は関係が無い。
なお「パワードスーツ」という用語は、以下で述べるとおり一作品に登場したものが代名詞となり、フィクション・ノンフィクションを問わずこの手の機器の総称としてサイエンス・フィクションや娯楽作品を中心に便宜上使われている。「身に付けた機械装置で力を付与する」という古くからある概念であるため、平行進化の形で実用化の研究も進められており、実際の物としては同概念のものであっても、必ずしも「パワードスーツ」という呼称で呼ばれている訳ではない。
[編集] 作品世界のパワードスーツ
もともとはロバート・A・ハインラインのSF小説『宇宙の戦士』(1959年)に登場する、重装甲・重武装と倍力機能を持った架空の強化防護服の呼称で、歩兵に「ゴリラも容易く倒せる怪力」と「戦車並の装甲」と「戦闘車両並の重武装」と「小型宇宙船並の環境適応力」と「戦闘ヘリ以上の機動力」を持たせた装備である。最大の特徴は「マスター・スレイブ方式」、即ち着用した人間の動きをそのままフィードバックして動かせる点であり、パワードスーツと搭乗・操縦型の人型兵器の決定的な違いとなっている。これは既に同じハインラインの小説・「ウォルドー」(1942年)で固定式の遠隔操作型マニピュレータの操作方式として描かれており、こちらが元祖であるといわれる。これらは現実にはFFB(Force Feed Back)またはBFR(Bilateral Force Reflecting)方式と呼ばれる。
- (注)「宇宙の戦士」のパワードスーツが後に日本のアニメなどに大きな影響を与えたのはその概念だけでなく、大流行した「機動戦士ガンダム」にヒントを与えたという事実と、ハヤカワ文庫版のイラスト(デザイン・宮武一貴 イラスト・加藤直之)のビジュアルの素晴らしさによるところが大きい。それ以前にも、例えばアバロンヒル社製のボード・ウォーゲームにおいてイラスト化されてはいたが、そこで描かれていたようなレトロな宇宙服風ではない、軍用・工業製品らしさに溢れたデザインは当時画期的であり、登場30年を経た現代でも根強いファンを持っている。
パワードスーツはその概念が広まるにつれ、さまざまな作品中において派生型を生んでおり、中には音声や思考による制御を部分的に行う物もある。(下記の登場作品紹介のリンク先を参照のこと。)なお肉体を直接強化する物(サイバネティックスやサイボーグなど)、機械式動力サポートの無い物はパワードスーツの定義から外れる。
[編集] 現実世界のパワーアシスト機器
第二次大戦後、原子力の発展に伴い、放射性物質を扱ったり原子炉の故障を直すための移動可能なマニピュレータ(モビル・マニピュレータ)の開発が求められた。これは後に宇宙用・深海作業用に発展するもので、その多くは遠隔操作型でありパワードス-ツやパワーアシスト機器とは異なるものである。しかし、1961年に開発されたジェネラル・エレクトリック社製の"Beetle"は乗員が乗り込み操作する物で、ある程度パワードスーツ的な要素を持っていた。もっとも走行にはキャタピラを用いており、また放射線を遮るための装備のため重量過大で失敗に終わっている。冒頭で触れた外骨格型マニピュレータ"Hardyman"はパワーアシスト機器の元祖と言えるが、油圧アクチュエーターで駆動するという構想ではあったものの、当時の技術的な限界で実用には至っていない。なお'68年の試作型はどうやら概念説明用のモックアップ(実物大模型)らしく、'70年に左腕と左脚のみが完成したという。この方向性は現在、日本のレスキューロボット「援竜」が開発されている。
現代では、重量物の運搬や介護現場で非力な看護者が介護者を抱きかかえて運べるようになるという活躍が期待されており、兵器としてではなく産業・民生分野での可能性が発展している。屋外作業や戦場では、雨・風・埃・熱といった過酷な環境で、衝撃などの過度な使用にも耐えなければならない。それよりは限られた環境において、限られた機能だけに特化する方が、実現しやすいという事なのだろう。
また、近年では筋電位や神経電位の測定に関する、生化学・神経生理学分野で目覚しい発展が進んでいる事から、四肢マヒや筋力低下で歩行困難な人が、自律歩行を行える様に成るというパワーアシスト型のロボットギプスの開発・製品化も進んでおり、将来的には車椅子利用者の大半が、自分で望むままに行動できると考える人もある程である。
- CYBERDYNE(実用レベルのロボットスーツ)
なお、マサチューセッツ工科大学(MIT)では、米軍と共同でナノテクノロジーを応用した、生物兵器をも防ぎ、負傷時には患部を固定するギプスにもなるパワーエクステンダーを開発中との事である。カリフォルニア大学バークレー校では米国防総省防衛高等研究計画局DARPAより資金提供を受け、下肢外骨格を開発するBLEEXプロジェクトを進行させている。
[編集] 様々な作品に登場する主なパワードスーツ
小説『宇宙の戦士』の発表後、特に日本では1980年代にSF作品を中心に大流行した。その後も名称や作動原理の異なるパワードスーツが創作され続けている。
- パワーローダー(SF映画『エイリアン2』)
- パワードスーツ(ゲーム『メトロイド』)右手にアームキャノンが装備され、さまざまなビームやミサイルを用いて攻撃する。モーフィング機能によりボールの形状に変形することも可能。
- コンバットスーツ、クラステクター(特撮『メタルヒーローシリーズ』)
- アームスーツ(士郎正宗『攻殻機動隊』)
- ガイバー(高屋良樹『強殖装甲ガイバー』)
- ランドメイト(士郎正宗『アップルシード』『ガンドレス』)
- アーム・スレイブ(『フルメタル・パニック!』)
- ズバットスーツ(『快傑ズバット』)
- テッカマン(『宇宙の騎士テッカマン』『宇宙の騎士テッカマンブレード』)