装甲
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装甲(そうこう)とは、機械装置や兵器・生物等を、過酷な環境下における他の物体との衝突・爆発や着弾・熱などのエネルギー放射より守るべく、打撃耐久性や耐熱性等を向上させるために取り付ける板状の部品、またはそれらを取り付ける事を指す。
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[編集] 概要
兵器は常に、相手の兵器によって破壊される危険性のある場所で、破壊されずに機能する事を要求される。このため、相手兵器の攻撃に対する何らかの防衛手段を必要とする。また兵器に限らず、苛酷な環境下で運用される建築機械や探査装置においても、内部機構を保護し、稼働を続けることを求められるという点で同じ事が言える。そのような環境下で活動する人間や動植物においても同様である。
古来より、戦時下において装甲の必要性が求められ、常に最前線で様々な攻撃から身を守る盾や鎧・兜等の防具が必要とされた。しかし強固なこれらの防具は必然的に重くなり、次第に行動力と防御力の兼ね合いが求められるようになってきた。そこで「必要な部分だけを重い防具で守り、あまり攻撃を受けない股下等は装甲を薄くする」や「梁状の構造物や波板・曲面による力学的に力が分散しやすい構造」が研究され、採用された。更には受ける攻撃の種類を想定し、正面打撃だけを受け流すように設計された馬上槍試合用のプレートアーマー(落馬すると自力で動けず、馬の上に数名の従者を使って押し上げるほどだが、背面装甲は薄い)や、ナイフや軽い剣の切っ先だけを受け止める事を目的にしたリングメイル等も生まれた。
現代の戦闘でも、攻撃兵器の殺傷力や破壊力が増すにつれ、装甲の必要性は更に高い物となっており、また同時に、その装甲を破壊する事を目的とした兵器の開発も、同時に進行している。この「矛と盾」のジレンマが解決する事は、まだ当分先の話である。
[編集] 装甲の種類
装甲は、その目的によって、様々な形状や性質を付与する必要に迫られる場合がある。また、単純な構造から、より力学的に計算された形状を取る事で、同じ素材や材料を用いても、更に強度を上げる事も可能である。
[編集] 単純な装甲
最も基本的な装甲の形状は、装甲材を板状にしたものを、保護対象となる物に貼り付ける方法である。これらの装甲様式では、素材が同じであれば単純に装甲板が厚くなるほど強度が増す。しかし同時に、装甲の合計重量も増えるため、移動体に装甲を施す場合には、移動体自身の動力の限界もあって、自ずと装甲の量的な限界が存在する。これらの問題に関しては、一様に全体を装甲するよりも、より打撃を受けやすい部位を集中的に装甲を厚くし、それ以外の装甲を薄くする事で、総合的な防御能力を向上させるという思想がある。
例を挙げるなら、戦車の装甲であるが、戦車砲同士による撃ち合いの場合に、もっとも被弾しやすいのが正面装甲である。次に側面であり、後部や上面・下面は然程攻撃を直接受ける事が少ない。 このため、全体に使用できる装甲の総重量を100とすると、正面に30・側面にそれぞれ20ずつ・残る後部や上面や下面には10ずつ…… といった様に装甲を施す事で、全体均一に16~17程度の装甲を施した戦車より、同じ生産コスト・機動力で格段に耐久性に優れたものが誕生する事になる。
[編集] 増加装甲
装甲は、打撃を受けるほどに破損し、消耗する。このため、絶えず打撃を受けやすい状況においては、装甲が簡単に交換できる方が望ましい。しかし「簡単に交換できる」という事は、同時に「簡単に剥がれ落ちてしまう」事にもなるため、装甲板そのものを交換しやすくする事は自殺的である。
この問題を解決する方法として用いられるのが増加装甲で、戦車で言うなら、100の装甲許容量がある車体に、あらかじめ70だけの装甲を施し、その表面に30の装甲板をネジ止めなり接着するなりして装甲を追加する事で、30の装甲が完全に破損する前に補給を受ける事ができれば、短時間で100の装甲に戻せるという利点がある。また、この30の装甲を、目的に合わせて他の機能を持つ装甲に交換する事で、多目的に使用する事もできる(下記リアクティブアーマー参照)。
[編集] 均質圧延鋼装甲
RHAともいう。装甲表面を焼きいれして硬化した表面硬化装甲に対して、どの部分も均質な圧延鋼板での装甲板を言う。戦後第2世代戦車の装甲は均質圧延鋼板の場合が多い。 また装甲は材質によって同じ厚みでも耐弾性が違い、第3世代戦車の複合装甲の場合は同じ厚さ・重さでRHAの2-3倍の防御力がある場合が多いので、「某戦車の前面複合装甲はRHA換算900mm相当の装甲防御力」などと、装甲防御力比較の指標としても良く使われる
[編集] モノコック装甲
基本的にこれは、装甲というよりも、設計思想の問題であるが、ベースとなる装甲対象物を製作する際に、装甲そのもので対象物を作ってしまう事で、耐久性を向上させるものである。モノコック構造では、本体と外板を一体化して作る事で、同じ強度でより軽い構造物を作ったり、同じ重量でより高い耐久性を持たせる事が可能である。
戦車で例えるなら、車体を作る際に、シャーシなどの構造を使用せず、装甲板を折り曲げたり削り出して作った車体をシャーシとして、それらに内部構造や外部の装備を取り付けていく。この工法では、同じ強度でより軽い物も作れるため、より運動性能が高い戦車を作る事ができる。しかし製造の際により高度な設計技術や加工技術を必要とする部分もあり、製造コストも上がるという欠点もある。
旧ソビエト連邦の戦車では、車体に強度で劣る鋳物を使っているため、少しでも強度を上げる上で、比較的形を作りやすい鋳物の特徴を生かし、モノコック構造のシャーシや砲塔を持つ戦車が多く生産された。しかし重量面での限界から、どうしても全般的に強度に不安が残り、増加装甲などの付加技術が発達するなどした。
[編集] 積層装甲
2種以上の材質を積層させて造られた装甲のこと。複合装甲(コンポジットアーマー)や特殊装甲(スペシャルアーマー)とも呼ばれる。スペースドアーマーも、鋼と空気の積層装甲である。積層装甲の目的は、装甲を構成するさまざまな材質の特性を生かすことにより軽量で強靭な装甲を造ることである。積層装甲に用いられる材料で一般的なものは、鋼、セラミック、繊維強化プラスチック、ラバーゴムなどである。第3世代戦車に使われている複合装甲は、第2世代戦車の均質圧延装甲の2-3倍の防御性能を持つという。
[編集] スペースドアーマー
1次装甲と2次装甲の間に空間を持たせた防御構造の総称。日本語では中空装甲や空間装甲と呼ばれる。最も一般的に見られるものは、主力戦車の車体側面の構造で、サイドスカードが1次装甲、車体側面装甲が2次装甲にあたる。対戦車榴弾、粘着榴弾、通常の榴弾などの化学エネルギー弾は、1次装甲に命中した際に起爆し、1次装甲と2次装甲の間に空間があるために衝撃波の伝達が妨げられ、車内への衝撃波による被害が減少する。対戦車榴弾の場合、1次装甲での起爆によりスタンドオフがくるわされ、貫徹力が低下する。小口径弾や榴弾破片の場合、1次装甲を貫徹する際に運動エネルギーを奪われ、2次装甲やその内部への被害が減少する。
[編集] 特殊な装甲
本来の意味での装甲とは違うが、装甲の一部として考えられたり、もしくは何等かの機能性が期待され、特定兵器への対抗手段として採用されているものを以下に挙げる。
[編集] リアクティブアーマー
爆発反応装甲(ERA: Explosive Reactive Armor)とは、2枚の鋼板の間に爆発性の物質(爆薬)を挟んだ装甲板で、補助装甲として使用される(主装甲に付加される形で使用される)。運動エネルギー弾や成形炸薬弾のメタルジェットの侵徹およびそれらの衝突の圧力で爆発性の物質が起爆(爆轟)して、2枚の鋼板を高速で吹き飛ばす。飛んだ鋼板は爆圧により変形(設計にもよるが鋼板の変形は少ない方が良い)するものの連続した形状を維持しつつ、メタルジェットの進路を横切って収束を妨げたり、運動エネルギー弾の侵徹体に衝突し変形・破壊して侵徹を妨げる。
この効果を上げるため、爆発反応装甲は、砲弾の弾道に対して傾斜して設置される(弾道と垂直であると装甲の厚み分しか効果が無いため)。また、対成形炸薬弾用と対運動エネルギー弾用の爆発反応装甲の構造が多少異なること、運動エネルギー弾でもL/D比の大きな侵徹体でないと効果が薄いこと(L/D比の大きな侵徹体は横方向からの応力に弱いため)、を知っておく必要がある。
一方、爆発反応装甲の問題点は、
- 爆発の衝撃(通常のERAは表裏の板とも飛ぶが、裏板は主装甲に高速で衝突する)が車体内部に伝わることで、センサー等の精密機器に損障を与える可能性がある
- 飛んだ装甲板が、近傍の歩兵やソフトスキン、資器材等に被害を与える可能性がある
などが挙げられる。実際的には、前者は爆発反応装甲の取付け方法で(衝撃が伝わりにくいように工夫して取付ける)、後者は運用方法等(随伴歩兵等の展開位置を被害の及ばない位置とする)で対応しているようである。また、小口径弾(口径20mm程度以下)の着弾で、爆発反応装甲がいちいち反応(爆轟)していてはたまらないため、小口径弾の着弾では爆発しないように工夫が施されている。
[編集] スラット装甲
この装甲は鉄柵状の増加装甲であり、車両の周囲に装着する事でRPG(ロケット推進擲弾)などの成形炸薬弾頭のロケット弾による攻撃から車両を防護する。鉄柵状の隙間の間隔は50mm程度で、弾頭の直径が70mmのRPG-7が貫徹しないようになっており、同時に着弾した際に信管を狂わせ作動させない様にするものだという。スラット装甲は車体から50cm程度離して装着されている、これは成形炸薬弾の弾頭が爆発した際に生成される流体金属(メタルジェット)が20~40cm先で最大となり、その後、急速に侵徹力が減衰するという特性を考慮した為だという。実戦におけるRPGに対する有効率は50%程度で、成形炸薬弾頭以外のRPGには殆ど効果が無いという。 参考:対戦車ロケット対策、新形装甲とは?
[編集] 電磁装甲
現在、米国を中心に開発が進められている物であるが、装甲表面に高い電位を掛け、表面に強力な磁場を形成し、ロケット弾の爆発の際に発生する、金属粒子を含む噴射炎を遮断してしまおうという物である。これは装備的に非常に軽量にする事ができるため、装甲輸送車などの、あまり重装甲にする事ができない車両に搭載される見込みである。
[編集] エンジン
車体の内部構造であるエンジンだが、これを装甲の一部に取り入れる発想がある。これはイスラエルのメルカバ戦車が良く知られているが、エンジンを前面に配置する設計で、金属の塊であるエンジンを犠牲にしても、乗組員の生存率を高めようと言うもの。
勿論エンジンが破損すれば戦車は行動不能となるが、乗組員の徴用から訓練を通して掛かるコストがより大きい場合には、非常に重要な設計思想となる。
似たようなものでは、恒星船(世代宇宙船)のような極大な設備で、船体の外装の下は水や食料といった物資を保管するようにし、これで宇宙空間の放射線を防ごうというアイデアもある。
[編集] 関連項目
この「装甲」は、軍事に関連した書きかけ項目です。この項目を加筆・訂正などして下さる協力者を求めています。(関連: ウィキポータル 軍事 - ウィキプロジェクト 軍事) |