ネット検閲
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ネット検閲(―けんえつ)はインターネット、イントラネット、ウェブや電子メールなどに対する検閲を指す。オフラインでの検閲とは別に扱われることが多いが問題点は同様である。主な違いはオンラインの方が国境を容易に越えやすい点にある。ある情報を禁止する国の住民は別の国のウェブ上でその禁止されている情報を得られる場合がある。逆に、ある資料を管理する政府が市民がその資料を閲覧するのを妨げる場合にはその政府が世界中のインターネットサイトを監視するなどして外国人をも制限する効果を持つことがある。
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[編集] 各国の事例
- 米国は1996年に通信品位法を定めた。規制の対象は主に年少者に関するものだが、言論の自由に関する議論の対象にされている。しかし言論の自由を擁護する側からの訴えはいずれも退けられている。2000年に施行されたデジタルミレニアム著作権法では著作権保護技術の解除プログラムに関する議論やその配布が犯罪と規定され、オンラインでの著作権侵害の主張をより容易にした。この法律は既に(サイエントロジー教会など)幾つかの団体が著作権保護の訴えに見せかけて気に入らない言論を検閲するために用いられている。[1]
- 米国とフランスで争われているLICRA 対 Yahoo!の訴訟ではフランスの組織「人種差別と反ユダヤ主義に反対する国際連盟」(LICRA) とフランスユダヤ人学生連合 (UEJF) がヤフーがナチの記念品を売るオークションサイトに出店を許しているとして訴えた。これらの記念品はナチの戦争犯罪とホロコーストを賛美するものであると非難された。フランスではヤフーフランスのサイトがフランス法に反するとして閲覧を禁止する判断が示された。米国ではヤフーはフランスでの判断が合衆国憲法修正第一条に反すると主張し、カリフォルニア連邦地裁でヤフーの訴えが認められたが、連邦高裁で覆された。
- 中華人民共和国では「网络审查」(網絡審査)という名目でネット検閲が行われ、「防火长城」と呼ばれる中国防火墙(中国のネットと国外の「反中国的サイト」とを隔てる技術力の高いファイアーウォール)が設けられている。(→金盾及び中国のネット検閲を参照)
- ミャンマーではウェブ接続や自由なメール送信は認められず、検閲済みのサイトで構成されたミャンマー・ワイド・ウェブなるものが設けられている。
- モルディブではネット上で政府批判記事を発表した市民が逮捕された。
- キューバでは許可のないインターネットの使用は違法とされている。許可を得られる例の大半は医師であり、医師の近隣住民が海外へのメール送信を依頼するが、キューバ政府はこれを制限しようとしてきた。
- チュニジアでは(ポルノサイト、メールサービス、転送サービスなど)数千のウェブサイトがブロックされ、FTPやP2Pの利用が禁じられている。(技術的にプロキシに利用されるポートが封鎖されている。)
- シリアは政治的な理由から幾つかのウェブサイトの閲覧を禁止しそれらにアクセスした市民を逮捕した。
- 大韓民国では情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律により政府・情報通信倫理委員会がISPに対して強大な監督指導権限を有しており、朝鮮民主主義人民共和国に共感的と看做される様々なサイトへの接続を認めないように命令した。この他、竹島(韓国名・独島)が日本の領土であることを肯定する記述を含むサイトが「反愛国的」との理由で強制的に削除されたケースも存在する。[2]
- イスラム国家の多くではインターネット接続は政府の管理下にあり、「不道徳」とされるサイトのアクセスをブロックしたプロキシを経由して行われる。この中には露骨なポルノサイトのみならずセクシャリティなどに関する議論、議論が行われるブログのホスト、女性の下着のネット販売を含む女性の裸に関する記述のあるサイトなども含まれ、またイスラム教と他の宗教を比較するサイトや政治的に微妙であったり、議論のある話題などもブロックされている。
- アメリカ新世紀プロジェクトは2000年9月に米国によるサイバースペースと近地球衛星軌道の支配を提唱している。
- アラブ首長国連邦では国内単一のプロバイダであるエティサラットを通じてセキュアコンピューティングの手法で(すべてのサイトが62のカテゴリに分類され)強制的に検閲されポルノや政治的に微妙なものなど UAE の道徳観に反すると思われるものはブロックされる。
- シンガポールでは3人が人種差別を煽動する書込みをしたとして逮捕、起訴され、うち2人が懲役を受けた。ブログで教師を中傷する学生を訴えるという教職員組合による警告など、法的対応による脅威が増えることによる萎縮効果の恐れが強まっている。3つの主要なプロバイダによって提供されるインターネットのサービスは治安、国防、人種や宗教間の調和、公衆道徳への脅威となる材料を含むサイトを規制しブロックしており、また警察にはオンラインの通信を傍受する強い権限が与えられている。
- ブラジルのサンパウロ州はネットカフェの利用者に住所氏名と生年月日、電話番号と身分証明書番号の登録を義務付ける最初の州となった。[3]
- モロッコは2006年3月にLiveJournalなどの多くのブログサイトへのアクセスをブロックした。
- タイでは非合法活動の表現を規制するために著しい労力が払われた。タイが管轄するDNSサーバの管理やプロキシの管理によりポルノ、薬物の使用、ギャンブルが厳しく禁じられている。これによりそれらウェブサイトはアクセス困難になっている。政府はネット検閲を回避する方法を論じたサイトをもブロックした。
しかしながら、インターネットの基本的な分散的な技術によりインターネット上の情報の検閲を達成するのは非常に難しい(或は不可能である)。偽名性や(Freenetなどの)データ・ヘブンなどにより、技術上は発信者の特定や組織に結びつく情報を与えずにどんな資料をも隠さないことが保証されることで、ヘイトスピーチ的な意味合いに限定すれば無条件の言論の自由が与えられる。これらの手段では基本的人権としての言論の自由が保障されることはない。
しかしウェブサイトへの検閲が世界的に一般化する傾向がある。
[編集] 奈良県少年補導条例
2006年3月の奈良県定例議会で成立した奈良県少年補導条例では、未成年者による「有害サイトの閲覧」「インターネット上もしくは電子メールで他者を中傷する行為」を「不良行為」とみなし、補導の対象と定めている。いずれも、当該行為による被害者がいない場合でも適用される余地を残したもので、奈良県弁護士会などは「警察権限の市民生活に対する不当な介入を拡大する」と反対を表明している。
[編集] よく検閲されるウェブサイト
- ポルノサイト
- MySpaceなどソーシャル・ネットワーキング・サービス
- ウィキペディア
- 政治的なブログやウェブサイト
- 電子掲示板、チャットなどのコミュニティサイト