ソフィスト

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ソフィスト（sophistēs）はペルシア戦争（紀元前492年-紀元前449年）後からペロポネソス戦争（紀元前431年から紀元前404年）ごろまで、主にギリシアのアテナイを中心に活動した、金銭を受け取って徳を教えるとされた弁論家・教育家。ギリシア原語に近い読みはソピステースである。sophistēsという語はsophizōという動詞から作られた名詞で、「智が働くようにしてくれる人」「教えてくれる人」といった意味がある。代表的なソフィストにはプロタゴラス、ヒッピアス、ゴルギアス、プロディコス等がいる。

[編集] 時代背景

ソロンの立法（紀元前594年）、クレイステネスの改革（紀元前507年）を経てアテナイには民主制が形成される。この世界史に初めて登場する民主制は、従来の有力・富裕氏族による独裁を防ぎ、選挙・抽選によって国民（女性・未成年・奴隷を除く）のほとんど全てが政治に関わることを可能とした。

しかし、ペロポネソス戦争の頃から、冷静に政治的判断を行うべき評議会（政務審査会）はその機能を失う。評議会には説得力のある雄弁を用いて言論を支配するデマゴーグが現れるようになり、戦争期の興奮の中、デマゴーグの誘導によって国策が決められるようになってしまった。

そのような社会状況の中で、政治的成功を望む人間は大衆に自己の主張を信じさせる能力を必要とした。そこに、大金を出して雄弁の技術を身につけようとする者と、それを教えるとするソフィストの関係が成り立つこととなった。

[編集] 悪名としてのソフィスト

ソフィストという名は当時からすでに悪い意味で通用することが多かった。彼らが金銭と引き換えに徳を教えたため、富裕な人びとが主にその商売相手であったことや、目に見えない論理の力で無理やりに相手を打ち負かす詭弁の方法を教えているといううわさが、大衆の反発を買ったことは当然であるといえる。

しかし、ソフィストは別にその思想内容によって区別されるものではない。彼らが相対主義、もしくは危険思想の持ち主である、という偏見はプラトンの対話篇『ゴルギアス』『国家』に登場するカリクレス、トラシュマコスなどの「ソフィスト」のイメージに由来するものだと考えられる。しかし、現実に彼ら（カリクレス、トラシュマコス）がソフィストであったという確証はなく、知られている断片の内容も相対主義を積極的に唱えたというよりかは、世間の常識を彼らの流儀で強弁したものに過ぎない。

彼らが相対主義者として際立つのは、ソフィストをただ相手を説得する手管に秀でたものとして定義し、哲学者との区別を強調したソクラテスが存在するためである。言論を用いた問答競技の方法に過ぎなかった弁証法（dialektikē）を「無知の知」の自覚のために用い、真理（プラトンではイデア）の探求に向かわせるというソクラテスとの対比によってソフィストは批判対象となった。つまり、ソフィストが「徳を教える」といいながら「徳」がいったいなんであるかを問題にすることはなかったことが、初めて批判されることになったのである。

また、ソフィストを危険思想の持ち主であるとする偏見と対応するようにソクラテスを既存の道徳の擁護者であるとする見方（ニーチェの影響？）もあるようであるが、これも極端な図式化であるといわざるを得ない。