ジークフリード・キルヒアイス
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ジークフリード・キルヒアイス(Siegfried Kircheis)は、田中芳樹のSF小説『銀河英雄伝説』の登場人物。
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[編集] 概要
帝国側の主人公であるラインハルト・フォン・ローエングラムの少年時代からの親友にして、その半身的存在。能力的にも多くの魅力を兼ね備えているが、特に人格面で高く評価されており、読者の人気も高い。にも関わらず物語の序盤で死んでしまった為、それを惜しむ声が多く、作者自身もプロット上問題がある事を認める発言を残している。
[編集] 略歴
帝国暦467年1月14日(道原かつみのコミック版第3巻より)、司法省下級官吏の息子として、ごく一般的な家庭に生まれ育つ。10才の時、隣にミューゼル(ラインハルトの旧姓)家が引越してきて、その家の長男である同級生のラインハルトと友人になり、同時にラインハルトの姉で5歳年上のアンネローゼに初恋を感じる。引っ越して来て間もなく、アンネローゼが皇帝フリードリヒ4世の後宮に召された事により精神的なショックを受けるが、自分以上にショックを受けたラインハルトから、姉を取り戻す為に帝国を簒奪する事を誓ったと唯一打ち明けられ、その実現に全面的に協力する事を誓う。以後、ラインハルトと共に帝国軍幼年学校に進み、卒業後は帝国軍に入隊する。
それ以来、常にラインハルトの傍らで仕えた。立場としては部下であり、主従関係を表すかの様に「ラインハルト様」と呼び続けたが、同時に彼に諫言できる唯一の存在でもあった。帝国暦487年、元帥府開設直後にカストロプ動乱を平定して中将に昇進、同盟軍の帝国領侵攻作戦においては、ホーウッド提督の同盟軍第7艦隊を降服させた後、さらにヤン・ウェンリーの第13艦隊と対峙。ルッツとワーレンとの共同作戦で大軍を有効に運用し、ヤンをして「つけ込む隙もない」と感嘆させ、少なからず打撃を与えた。その後のアムリッツァ星域会戦では、別働隊を率いて同盟軍が背後に敷設した広大な機雷原を突破し、戦線を崩壊させて戦いの趨勢を決した。この功績によって上級大将/宇宙艦隊副司令官まで昇進するが、ナンバー2不要論を自説に持つオーベルシュタインは眉をひそめる一方だった。
翌488年、同盟との捕虜交換式(同盟内でクーデターを起こさせるための戦略でもあった)では、帝国側の代表としてイゼルローン要塞に出向き、ヤンやユリアンらと直接対面している。その後のリップシュタット戦役ではルッツとワーレン及びその艦隊を傘下に別働隊を率いて辺境を平定した。また、同戦役中のキフォイザー星域会戦において数で勝る敵の貴族連合軍副盟主であるリッテンハイム侯爵の艦隊を撃ち破った後、ガルミッシュ要塞を無血占拠して門閥貴族軍に大きな打撃を与えている。
しかし、同戦役の中、敵盟主のブラウンシュヴァイク公爵が起こした虐殺事件「ヴェスターラントの惨劇」への対応がきっかけとなり、ラインハルトとの間に亀裂が生じる事となる。意固地になったラインハルトは参謀であるオーベルシュタインからの進言を入れて、キルヒアイスを今後は一臣下として扱おうとし、キルヒアイスだけに許していた公式な場での武器携行を禁じた。そして帝国暦488年9月9日、リップシュタット戦役終結後の捕虜の謁見において、ブラウンシュヴァイク公の部下であるアンスバッハ准将が主君の仇をとるためラインハルトを襲った時、銃のないキルヒアイスはその身を盾にしてラインハルトを庇い、凶弾に倒れた。享年21。
[編集] 能力
その軍事的才能は天才であるラインハルトに比肩すると考えられている。副官としてラインハルトの傍らにいた時に度々助言を求められ、その回答の全てがラインハルトの価値観と思考原理に合うものだった。また、例えばアスターテ会戦で同盟第4艦隊を撃破した後、ラインハルトが思いつかなかった「自軍の兵士に休息をとらせる」という提案を自ら行うなど、場合によってはラインハルトを凌ぐ見識と判断力を示すケースが見られた。
当初はラインハルトの影に隠され、敵味方を通じて過小評価されていた。しかし帝国暦487年、ラインハルトの元帥府開設に伴い少将に任命されると、直後に発生したカストロプ動乱を短期間・無血で鎮圧して実力を示し、一挙に中将に昇進してラインハルト陣営のNo.2である事を周囲に認めさせた。これ以降は次々と才覚に相応しい功績を挙げていく。
また、幼いころから天性の喧嘩巧者で、白兵戦の技量も非常に高く、ヴァンフリート4=2での地上戦では、同盟軍最強のシェーンコップと互角に渡り合ったほどである(お互い名乗る間もなく、相手が誰かを知ることは無かったが)。また、フライングボールの名人でもあり、刺客に襲われて無重力状態で格闘した際にその片鱗を見せている。さらに、射撃能力も卓越している。幼年学校時代に大会で何度も金メダルを獲得する程の腕前で、作品中ラインハルトを射撃の腕で救った回数はトップである。ラインハルトが護衛役としてキルヒアイスに武器の携行を許していたのは、信頼関係と同時に、キルヒアイスの射撃能力を評価していたからとも考えられており、リップシュタット戦役終結後の捕虜の謁見においても武器携行が認められていれば(つまり、ラインハルトがキルヒアイスを一臣下として扱おうとしなければ)アンスバッハの襲撃は瞬時に阻止されていたと思われる。
[編集] 人柄
ラインハルトの特徴或いは欠点を補うかの様に、温和で人当たりの良い性格を有している。幼年学校の時代から、敵を作りやすい性格を有するラインハルトの傍らにいて、調整役、或いは戦う際の味方となった。
アムリッツァ会戦で同盟軍の完全な殲滅を逸する原因を作ったビッテンフェルトをラインハルトが厳しく罰しようとした時、キルヒアイスの諌めで不問に伏したという事例があり、この時の、減点主義を否定し、失態を演じた者には名誉挽回の機会を与えるべき、という発想は、死後にラインハルトに受け継がれ、ヤンに敗北したミュラーやワーレン、シュタインメッツ、あるいはレンネンカンプなどが厳罰を免れて、敗死したケンプも上級大将に特進している。
最期までラインハルトを守り、慕い続け、ラインハルトの「宇宙を手に入れる」という望みを託して死亡。死後、ラインハルトは元帥、大公の称号を贈るなどあらゆる栄誉を与えたが、その墓に刻んだ碑銘は「Mein Freund(我が友)」ただ一言であった事がラインハルトの心情を表していたと思われる。
キルヒアイスの死は、その後のラインハルトとその陣営内に重い影を落とし続けた。彼を知る者のほとんどが「キルヒアイスが生きていれば」と口にするほど、彼の存在は大きかったと考えられる。死の直後の茫然自失からは立ち直ったラインハルトだが、その後の対応はロイエンタールに野心の芽を抱かせる遠因ともなった。また、ヴェスターラントの惨劇への対応、キルヒアイスの処遇はオーベルシュタインの進言で変わった事から、陣営内でのオーベルシュタインへの反感を強める原因ともなった。
人気を博したこの作品においてなお、「キルヒアイスの死は早すぎたのではないか」という読者の意見は多い、作者も、その死を早くし過ぎた事を初版の本伝5巻のあとがきで認めている。一方、その批判と不満を補うかのように、外伝ではラインハルトとともに活躍する若き姿が数多く描かれており、特に外伝『汚名』はキルヒアイスの視点で物語が進行してラインハルトの登場は最後にわずかあるだけである。
鮮やかな赤髪(ルビー色)と190cmの長身が特徴。容貌もかなり良いとされ、昇進が続いていた頃は帝国貴族の女性達からかなり注目されていた。特にヴェストパーレ男爵夫人マグダレーナの執心ぶりは一度ならず描かれているが、キルヒアイス本人はアンネローゼ以外の女性に興味を抱いた様子は無かった。
彼のローエングラム陣営での特別扱いに関しては、人柄の良さからオーベルシュタイン以外の部下は誰も問題にしなかったほどである。
艦隊司令官になった後の乗艦はバルバロッサ。アニメ版では、ラインハルトのブリュンヒルトと似た流線型のデザインを持つ戦艦だが、キルヒアイスの髪の毛と同じ赤い色に塗られている。
[編集] 声優
アニメにおいて声を担当した声優は以下の通り。
アニメ化に際して、その声役を誰にするかは、他のキャラクターと比べてすぐには決まらなかったと伝えられている。オーディションによって、広中雅志に決まった経緯がある。
[編集] その他
セガサターン版ゲームでは、展開によってはローエングラム王朝の軍服を着用した彼を見る事が出来る。