クリプトスポリジウム
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クリプトスポリジウム(Cryptosporidium spp.)は、胞子虫類に属する病原性の原虫のひとつである。特にクリプトスポリジウムパルブム (Cryptosporidium parvum) は病原性が高い。
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[編集] 生活環
糞便に混じって体外に排出された長円形のオーシストは内部に未成熟のスポロントを含む。直径は5μm程度である。これが成熟して2個のスポロブラスト、ついでスポロシストとなる。最終的にスポロゾイドと呼ばれる胞子が形成され、オーシストは感染性を持つようになる。この段階のオーシストがヒトの体内に入ると、三日月型のスポロゾイドがオーシストから放出され小腸の微絨毛内に進入する。ここで円形の栄養体に成長し、核分裂を起こし8個のメロゾイドとなる。放出されたメロゾイドは他の微絨毛に感染し、無性生殖の環が形成される。
一方、一部のメロゾイドは大配偶子母細胞(雌性)と小配偶子母細胞(雄性)を形成し有性生殖が起こる。小配偶子母細胞が16個のミクロガメートを放出し、これが大配偶子母細胞に到達すると接合子としてオーシストが形成される。
[編集] 影響
環境中では4~6μmの大きさのオーシストを呈しており増殖することはないが、ひとたびヒト、イヌ、ネコ、ウシ等の哺乳類の体内に取り込まれると、消化器系、特に小腸に寄生して増殖する。糞便中に含まれるオーシストはヒトの場合10億個/日、大型の家畜においては100億個/日に達する。
水源等が汚染され、しばしば飲料水や水道水に混入して集団的な下痢症状を発生させることがある。下痢は水様便を呈し、3l/日、回数にして数十回/日に達する。現在、特効薬は無いが、1-2週間程度で免疫ができ、自然治癒する。旅行者下痢症の一因でもある。AIDSなど免疫不全症を発症している患者の場合、死に至る事もある。
上水道の残留塩素など塩素による消毒ではオーシストを死滅させることができないため、先進諸国でもしばしば集団感染が報告される。
[編集] 対策
浄水場における対策
- 水源を替える。
- 凝集処理を適切に行い、クリプトスポリジウムを含む濁質の除去率を上げる。
- 急速ろ過池ではろ過池逆洗流量を調整するスローダウン(SD)・スロースタート(SS)方式を採用し、濁質の除去率を上げる。
- 膜ろ過処理の導入。
- オゾン処理の追加。
使用者の対策
- 飲用に使用する水は、煮沸を行う。1分程度の煮沸でオーシストの感染力は失われる。
その他
- 水源地の上流に放牧地等が存在する場合には、家畜の屎尿を流入させない処理施設を整備する。
- 家庭用浄水器は、ほとんどの製品で膜の孔径を表示していない為、その有効性を評価できない。
補足
- オゾン処理は、低水温時に消毒効果が大きく低下することが明らかになった。
- 紫外線消毒は、消毒効果が高いことが分かっているが、クリプトスポリジウムが濁質の影に隠れる可能性と、その場合の対策を検討する必要がある。
- 膜処理では、膜の損傷の検出と、対策が重要である。
- 平成13年(2001年)11月13日付の厚生労働省健康局水道課水道水質管理室による「水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針」によれば「ろ過池出口の水の濁度を常に0.1度以下に維持すること。」となっている。
[編集] 集団感染の発生事例
- 1993年 アメリカミルウォーキーで水道水に混入し、40万人が集団感染。400人が死亡。
- 1994年 神奈川県平塚市の雑居ビルの貯水槽が汚染され、460人が感染。
- 1996年 埼玉県越生町の水道水に混入し、8,800人が感染。これは越生町の人口の7割に相当する。