アーミーナイフ
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アーミーナイフとは、軍隊が制式採用している、戦闘以外の日用的な用途に使用するための多機能な折り畳みナイフ、およびそれらから派生した多機能ナイフを指す俗称である。十得ナイフ(じゅっとくないふ)とも呼ばれることがある。
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概要
特に有名な物としては、ビクトリノックス社やウェンガー社が、国民皆兵制をとるスイスにて兵士の日用的な用途に使用させるために制式採用されている折り畳みナイフと、ほぼ同一な製品を一般に向けても広く販売しているため、両社の製品が一般ではよく知られている。またはそれらから派生して一般的に利用されている多機能な折り畳みナイフも販売しており、このコンパクトで多機能な折り畳みナイフを指す俗称でもある。なお、派生型の汎用性を重視したものでは、キャンピングナイフという呼称で呼ばれることも多い。
同種ナイフの歴史は1890年代にまでさかのぼり、第一次・第二次大戦を通じて大量に製造、軍隊に納められ、実用に供されている。現在では、大抵の軍隊に於いて標準装備として様々なメーカーの製品が採用されている(アメリカ軍ではカミラス社の製品を採用)が、その基本構造には余り大きな違いは見られない。
各国の軍隊で兵士に配給されている物では、折り畳み式でブレード(刃)のロック機構は(故障の原因となりやすく製造コストを押し上げるため)無く、缶切り・栓抜き・錐と大小のマイナスドライバーがコンパクトに収められている物とされる。特にドライバーは小銃の分解整備に供される場合もある。ブレードは耐久性に優れたステンレススチール製で、その強度は墜落した航空機の機体(ジュラルミン製)に穴を開けて脱出するのに利用されたという逸話も残るほどである。この他、ブレード側面は光をよく反射(鏡の代用としたり光反射信号を送るために利用される)し、錆を防止するため、鏡面仕上げとなっている場合が多い。
配給の食糧を食べる際にパッケージの開封に利用されたり、緊急時には簡易的な手術器具として、または食糧や水を得るための道具を製作するための工具としての利用法が兵士の教育カリキュラムに組み込まれている。戦史関連の書籍に拠れば「人を殺す以外には何にでも使える」とする記述も見られ、アメリカ陸軍の歩兵に提供されるマニュアルブックには、このナイフの使い方(その多くは「日常的な道具」としての用法であるが、緊急時に於ける活用法に関しても述べられている)は勿論、手入れの仕方に関する記述も見られる。
一般向け製品
一般向けの物(キャンピングナイフ)では大小のブレード(ナイフ刃)、ヤスリや栓抜き(先端はマイナスドライバーにもなる)といった機能を組み合わせた物が見られ、本来はあくまでも実用本位の日用品であるが、派生製品の中には数十もの機能を搭載し、方位磁針やポケットライトは兎も角として、時計やUSBメモリー、果ては気圧計などの電子機器まで搭載した、職人芸的ではあるが実用性には大いに疑問の残る、満艦飾的な製品も存在する。(キャンピングナイフの項を参照されたし)
世界市場に於いてもスイスのビクトリノックス社やウェンガー社によるものが有名で、この他にも米国のバック社(ウェンガー社との業務提携による)や米カミラス社ほか、日本の関市にある大小のナイフメーカーでも同種の製品が数多く生産され、実用品として用いられる他、お土産やお守り(極めて汎用性が高いことによる利便性)などとしても一定の存在感を持つ。中には安価な製品にあって製造元不詳のコピー商品も見られる。
汎用性に関しては、航空機内で食べ物を喉に詰まらせた老人を救うため、医師がこのナイフで気道確保の手術を行った事例(専門教育を受けた医師だからこそ出来た行為で、一般にはこのような用法はとても勧められないが)すら報告されている。航空機墜落・船舶沈没または漂流などで遭難した人が、これらナイフに頼った事例は数知れないとされている。
ただ「護身用」と称して持ち歩くのは、本来格闘を目的に作られていない事から役に立たない上に、日本国内では銃刀法の絡みもあって余計なトラブルを招き入れるだけに勧められない。警察による任意同行を求められる可能性もある。(ナイフの項を参照されたし)
なお、ウェンガーは、2005年にビクトリノックス傘下となった(ブランドは2つ、製造元が一社となった)。