アフターマン
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『アフターマン』(After Man: A Zoology of the Future) は、スコットランド人の地質学者でサイエンスライターである、ドゥーガル・ディクソン(Dougal Dixon)の1981年の著作。英語の原題を日本語訳すると『人類以後 - 未来の動物学』を意味する。日本語版の副題は『人類滅亡後の地球を支配する動物世界』。
本書は原題の意味や日本語版の副題にもある通り、人類滅亡後(5000万年後)の地球を支配する動物達を描くというコンセプトで描かれており、変化した地球環境に合わせて進化した生物達が生息環境別に紹介されるという形式を取る。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] 人類の作中に於ける立場と関連
人類はその構造に破綻を来たして滅亡し、その文明に駆逐されずに生き残った生物達が新たな生態系を構築する展開だが、人類滅亡のプロセスなどについては本題ではない為か、前提として軽く触れられているのみである。
後に著者は、人類が残ったままだと環境への大きすぎる影響力の為に進化に対する考察が困難になる旨を述べている。
[編集] 5000万年後の地勢と気候
本書では5000万年後の地球の生物を取り扱う為、その生息環境も考慮しなければならない。よって、大陸移動によって地球規模で大幅に大陸の配置が変化している様も描写されている。
具体的にはアフリカ・オーストラリア両大陸、インド亜大陸の北上によって地中海と東南アジア島嶼部が消滅して巨大山脈が生まれ、ヒマラヤ山脈は侵食が進んで低くなり、アフリカ大陸東部が大地溝帯を基点に本土から分裂し、パナマ地峡が消滅し南アメリカ大陸が北から独立している。
地勢が変化しているので、現在の生物地理区は当然ながら使用出来ない。その為便宜上、
の様に、アフリカ大陸東部(便宜上レムーリア島と呼ばれる)等の特殊な地域を除けば気候による区分が行われている。
[編集] 動物群の変化
人類の文明活動の所産として、我々が慣れ親しむ所の大型哺乳類は一部を除いて悉く絶滅した設定になっている。具体的には殆どの食肉類、一部を除いた奇蹄類・偶蹄類、長鼻類や鯨類などが姿を消したが、これらの生物が滅んで生じた生態的地位を埋める別の分類群の生物達の存在が、本書の面白さに大きな比重を占めるといってよい。
例としては
- 大型食肉類のニッチに入り込み進化したネズミを先祖とする肉食性齧歯類、ファランクス
- 偶蹄類のニッチを埋めた有蹄兎類、ラバック
- 長鼻類、大型奇蹄類に代わって進化したレイヨウを先祖に持つ大型偶蹄類、ジャイガンテロープ
- 鯨類の後に完全に海生になり巨大化したペンギン、ヴォーテックス
等がある。詳細はアフターマンの生物一覧を参照。
[編集] 進化の道筋の提示
他にも、誕生してから最初にそこに到着した生物が翼手類であった為に陸生に進化したコウモリたちの楽園となったバタヴィア列島、孤立した南アメリカ大陸で未だ捕食者として君臨し続ける食肉類、レムーリア島に生き残った最後の原始的偶蹄類など、本書は適応放散や収斂進化など、進化論的に非常に興味深い考察が多い。
[編集] 関連深い作品
ディクソンは本書の後も、6500万年前に大絶滅が回避された世界を想定した『新恐竜』や、現生人類が絶滅せずにそこから進化、種分化した生物を考察した『マンアフターマン』、専門家チームとの合作『フューチャー・イズ・ワイルド』などを手掛けており、いずれも仮想の条件の下で進化した生物を取り扱っている。
また、1994年、日本のNHK教育テレビ内の歌番組「みんなのうた」で、同名の歌が短編アニメーション(本書の未来生物達が多少デフォルメされた姿で登場する)と共に2ヶ月ほど放映されている。
[編集] 各種日本語版
- ISBN 4478860467(新・新装版:ダイヤモンド社)
- ISBN 4900416827(旧・新装版:太田出版)
- ISBNなし(旧版:旺文社)
[編集] 関連項目
なお、本書は以下の二つとあわせて生物系三大奇書とも言われる。
本書はジュニア向け動物図鑑の体裁に近い。ただし、前段において、至極真っ当な生物進化と分布に関する解説がおかれており、この部分は、全くの一般的科学解説書である。つまり、そのような予備知識を把握した上で、本書の内容はすべて想像であることを前提に楽しんでくれ、というスタンスである。その点、他の二書ではどこにも”事実に基づくものではない”ことが記されていないのと比べ、全く立場を異にする。