アドレナリン
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アドレナリン (adrenaline) (英名:アドレナリン、米名:エピネフリン)とは、副腎髄質より分泌されるホルモンであり、また、神経節や脳神経系における神経伝達物質でもある。分子式はC9H13NO3。
ストレス反応の中心的役割を果たし、血中に放出されると心拍数や血圧を上げ、瞳孔を開きブドウ糖の血中濃度(血糖値)を上げる作用などがある。
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[編集] アドレナリンの構造と生合成
アドレナリンはカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリンおよびドパミン)の一つである。L-チロシンからL-ドーパを経て順にドパミン、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)、アドレナリン(エピネフリン)と生合成される
[編集] アドレナリンの発見
アドレナリンは1900年に高峰譲吉と助手の上中啓三がウシの副腎から世界で初めて結晶化した。しかし、副腎から放出されている物質の抽出研究は同時期に世界中で行われており、ドイツのフェルトはブタから分離した物質に「スプラレニン (suprarenin)」、アメリカの研究者エイベルはヒツジの副腎から分離した物質に「エピネフリン (epinephrine)」と名付けた。
エピネフリンはアドレナリンとは分子式の異なる物質であったが、高峰の死後に、エイベルは高峰の研究は自分の盗作であると主張した。これはアドレナリン発表寸前に高峰がエイベルの研究室を訪問した事実を盾に取った主張であった。それまでの実績が主として発酵学の分野で、こうした分野での実績に乏しい高峰が、研究に大きな役割を果たした上中の功績を強調せず、自己の業績として発表したことも、本当に高峰らの業績だったのかを疑わせる一因であったと指摘する考えもある。しかし、後年、上中の残した実験ノートより反証が示されており、高峰と上中のチームが最初のアドレナリンの発見者であったことは確定している。
[編集] エピネフリンという名称
現在ではアドレナリンもエピネフリンも同じ物質の事を指しているが、ヨーロッパでは高峰らのプライオリティーを認めて「アドレナリン」の名称が使われているのに対して、アメリカではエイベルの主張を受けて、副腎髄質ホルモンを「エピネフリン」と呼んでいる。
現在、生物学の教科書・論文では世界共通でアドレナリンと呼んでいるのに対して、医学においては世界共通でエピネフリンと呼ばれている。「生体内で合成される生理活性物質」と言う捉え方と、「医薬品」という捉え方の違いからだが、日本では医薬品の正式名称を定める日本薬局方が改正され、2006年4月より、一般名がエピネフリンからアドレナリンに変更された。
[編集] アドレナリンの作用
交感神経が興奮した状態、すなわち「闘争か逃走か」のホルモンと呼ばれる.動物が敵から身を守る、あるいは獲物を捕食する必要にせまられるなどといった状態に相当するストレス応答を、全身の器官に引き起こす。
- 運動器官への血液供給増大を引き起こす反応
- 心筋収縮力の上昇
- 心、肝、骨格筋の血管拡張
- 皮膚、粘膜の血管収縮
- 消化管運動低下
- 呼吸におけるガス交換効率の上昇を引き起こす反応
- 気管支平滑筋弛緩
- 感覚器官の感度を上げる反応
- 瞳孔散大
などであり、ヒトであれば一重に「興奮した状態を作るホルモン」としてよく知られている。
[編集] 治療薬
アドレナリンは心停止時に用いたり、アナフィラキシーショックや敗血症に対する血管収縮薬や、気管支喘息発作時の気管支拡張薬として用いられる。有害反応には、動悸、心悸亢進、不安、頭痛、振戦、高血圧などがある。
心停止の4つの病態、すなわち心室細動、無脈性心室頻拍、心静止、無脈性電気活動のいずれに対してもアドレナリンは第1選択として長く使用されてきたが近年ではバソプレシンが救命率、生存退院率が共に上回ることが証明されバソプレシンに第1選択の座を譲りつつある。静脈内投与の場合、初回投与量は1mgである。血中半減期は3分から5分なので、3分から5分おきに1mgを繰り返し投与する。
また局所麻酔剤に10万分の1程度添加して、麻酔時間の延長、局所麻酔剤中毒の予防、手術時出血の抑制をはかることもある。
代謝はまずモノアミン酸化酵素によって酸化され、最終的にはバニリルマンデル酸として尿中に排泄される。
[編集] アドレナリンと疾患
褐色細胞腫は副腎腫瘍の一つであり、多量のカテコラミンが分泌される疾患である。