ろうそく
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ろうそく(蝋燭)・キャンドルとは、蝋(ろう)に綿糸などでできた芯を埋め込んだもので、芯に火を点して灯りとして用いる。
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[編集] 概要
芯の先に点った炎によって周囲の蝋が融けて芯に染み込み、さらにそれが気化して燃焼することで燃え続けるしくみである。炎はほぼ一定の明るさを保つ。 芯として用いられるのは綿糸(めんし)やイグサ(灯心草)で、芯を据えた型に蝋(ろう、パラフィン)を流し込んだり、融けた蝋を芯に繰り返し絡ませたりして作られる。 棒状のものが一般的。
ろうそくは大別して和ろうそくと洋ろうそくにわかれる。ろうそくに関する著作では、マイケル・ファラデーの『ロウソクの科学』が有名。光源の明るさの単位"カンデラ"(燭光)は、もともと特定の規格のろうそくの明るさを基準として決められた単位である。
[編集] 用途
[編集] 実用照明として
安価で携帯性・保存性に優れており、電灯の普及以前には家庭の照明としても利用されていた。また、電灯の普及後も、停電などに備えてろうそくを用意することが多かったが、これは高性能の懐中電灯の普及とともに廃れた。しかし、明るい室内照明を好む日本とは異なり、暗い室内を好む欧米文化では、21世紀になっても室内照明としてろうそくを好んで用いる家庭もある。また、ろうそくは耐水性もあるため、災害時の必需品として見直される傾向もある。
[編集] 接着剤や潤滑剤として
ろうそくから溶け落ちた蝋は、封蝋のように接着剤としても使われた。また、敷居にろうそくを擦りつけて襖のすべりをよくするなど、潤滑剤としても使われる。
[編集] 宗教儀式に
ろうそくはまた、多くの宗教の儀式においても用いられてきた。これは多く光の象徴として用いられる。 伝統的なキリスト教の祭儀では、祭壇の上にろうそくが献じられる。東方典礼、ローマ典礼いずれの典礼書でも、聖体礼儀(正教会)、聖体祭儀(カトリック教会の、いわゆるミサ)においてろうそくを灯すことが義務づけられている。東方典礼では、主に黄色い蜜蝋が用いられる。また死者のための祈祷や復活祭(正教会では復活大祭)の祈祷では手に灯りをともしたろうそくをもって礼拝に参加する。復活祭のろうそくは地方によってはそのまま家に持ち帰り、家庭の火を灯すのに使われることがある。
日本の仏事においてもろうそくは欠かせない道具となっている。お盆やお彼岸におけるお参り、寺社参拝時には線香とともにろうそくを燭台に立てるのが一般的である。このろうそくの淡い光は仏の慈悲によって人の心を明るくするものとも、先祖が子孫(つまり立てた本人)へ生きるための光を導き出す一種の道標ともいわれている。
[編集] その他の演出道具として
ろうそくの炎は色温度が低く、落ち着いてくつろいだ雰囲気をつくる照明となる。茶道においては夜話の茶事においてろうそくを用いることを常とする。雰囲気を重視するレストラン等でもテーブル用の照明として使われる。その他、伝統行事における提灯(ちょうちん)、行灯(あんどん)の照明、誕生日のケーキの飾り、結婚式などの装飾やイベント用、アロマセラピーの香具など様々な目的で用いられる。
その他に、SMにおいて、肉体に溶けたろうそくをたらすせめがあり、ろうそくプレイと呼ばれるが、本来の使用用途とは反れたきわめて特異な例である。
[編集] 歴史
紀元前3世紀のエトルリア(現在のイタリアの一部)の遺跡から燭台の絵が出土し、この時代にろうそくがあったことは確かだとされる。この時代の中国の遺跡でも燭台が出土している。
ヨーロッパにおいては、ガス灯の登場する19世紀まで、室内の主な照明として用いられた。キリスト教の典礼で必ず使われるため、修道院などでミツバチを飼い、巣板から蜜ろうそくを生産することが行われた。釣燭台(シャンデリア)は本来ろうそくを光源とするものであり、従僕が長い棒の先に灯りをつけ、ろうそくにそれぞれ点火した。蜜ろうそくのほかには獣脂を原料とするろうそくが生産された。マッコウクジラの脳油を原料とするものが高級品とされ、19世紀にはアメリカ合衆国を中心に盛んに捕鯨が行われた。19世紀半ばのペリーの日本来航の目的のひとつは、こうした米捕鯨船への便宜を求めるものであった。
日本でろうそくが最初に登場したのは奈良時代である。当時のろうそくは中国から輸入された蜜ろうそくと考えられている。恐らく、仏教の伝来とともにあわせて伝わった。平安時代になり、蜜ろうそくに代わって松脂ろうそくの製造が始まったと考えられる。その後、和ろうそくと呼ばれるはぜの蝋やうるしの蝋などを使ったものに変わり、明治以降の西洋ろうそくの輸入により、その地位も取って代わられている。日本ではろうそくは裸で使うより提灯などに入れて使うことが多かったので、蝋が減っても炎の高さが変わりにくいように上の方が太く作られていた。製造方法も、型を使って一度に多数を成形する西洋ろうそくと異なり、灯心の上に繰り返し溶けた蝋を掛けて太くしていく方法で作られた。