なれずし
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熟寿司(なれずし)は、主に川魚を塩と米飯で発酵させた保存食品。寿司の原型ともいわれる。 冷蔵庫などなかった古代に動物性タンパク質を保存するための知恵として生まれた。コイやフナなどの川魚に飯を混ぜ、重石をして数ヶ月~数年保存する。乳酸発酵作用によって酸っぱくなり、飯はもうボロボロになってしまうので、魚のみを食べる。これが古い形のナレズシである。くさややドリアン同様、異臭食品で、慣れないと独特の臭気が鼻を突くが、慣れると臭気を感じにくくなることもある。
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[編集] 熟寿司の起源
熟寿司は照葉樹林文化を構成する食品と考えられている。中国雲南省南部のシップソーンパーンナー(西双版納)のような少数民族地域やタイ王国東北部では今もなれずしが作られ、市場でも売られている。この地域には納豆のような発酵食品も存在する。ベトナム中部のチャンパ王国でも魚を腐らせて食べるとする中国文献がある。古代の中国南部に住んでいた百越の間にも存在し、たとえば海南省のリー族は現在も米と塩を加えた魚や肉を発酵させて食べている。これらの地域には、米を加えない魚醤をつくる習慣もある。これらの食品は漢民族にも広まり、6世紀に書かれた斉民要術にはコイのなれずしの作り方が書かれている。中国ではその後、遊牧民族王朝の影響でなれずしの製造は廃れたが、古い時代に長江下流域から日本にも伝播したと考えられている。
日本語の「スシ」の語源は酸っぱいさまを意味する形容詞「す(酸)し」から来たというのが通説であり、アクセント面からも、「スシ(寿司)」「スシ(酸)」「ス(酢)」とも、院政期京都アクセントが低起式であることから首肯される。
なお、朝鮮語で「酸っぱい」を「シュイダ」ということから、「シュイ」が「シシ」あるいは「シュイ」となり、「スシ」となったとして、日本の「すし」は朝鮮起源とする説もあるが、最近になって在日韓国人教授が主張し始めたものであって、その内容も、現代語どうしを比較した上での語形の類似と、韓国人が信じたい歴史である「朝鮮→日本」という一方的な文化の流れに基づくものであり、根拠は極めて薄弱である。
[編集] 日本の熟寿司
平安時代中期に制定された延喜式には西日本各地の調として様々ななれずしが記載されている。室町時代に発酵期間を数日に短縮した「生なれ」(または半なれ)がはじまり、酸っぱい飯も食べるようになった。江戸時代になって酢が出回るようになると、もはや発酵を省略し、飯に酢を入れて酸っぱくし、シメサバなどを使った押し寿司や箱寿司が作られる。
今日でも日本各地には古い形のなれずしが郷土料理として残っている。滋賀県守山市や野洲市などの琵琶湖周辺では鮒寿司、鮎寿司、ハス寿司やオイカワを使ったちんま寿司が作られ、名物となっている。 こと鮒寿司に関しては、1年数ヶ月から2年かけて作る本格的なもので、現在は非常に高価な高級食品となった。和歌山県のサンマのなれずし、岐阜県のアユのなれずしも有名。 日本海側にもアジなどを使ったなれずしが多く、石川県には冬の寒さを利用して徐々に熟成させるかぶらとブリを使ったかぶら寿司もある。また米麹を用いたものには、北海道・東北の飯寿司や秋田県のハタハタ寿司がある。