ちかいの魔球
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ちかいの魔球(ちかいのまきゅう)は、ちばてつやの野球漫画。少年漫画誌『週刊少年マガジン』に1961年(昭和36年)1月から1962年(昭和37年)12月にかけて連載された。
[編集] あらすじ
魔球をひっさげて大活躍の富士高校のエース・二宮光。地区予選の決勝でライバルの中村率いるチームを激戦の上に破るも、中村の謀略で出場辞退に追い込まれる。失意の二宮のもとを訪れたのが、巨人軍監督に就任したばかりの川上哲治と、若き主軸打者・長嶋茂雄。二宮は長嶋と対戦し、三振に仕留める。
その後、巨人入団を決意して川上らと帰宅した二宮のもとに他球団のスカウト達が押しかけていた。当惑する二宮に、叔父は「契約金の一番高かったところに行け。」と命じ、入札となる。川上の応札価格は百万円。怒る叔父に川上は「二宮の実力を正当に評価した結果だ。」と反論、叔父は退去を命じる。最高価格だった中日に落札しかけるも、従妹・雪子の機転で二宮は川上らのタクシーを追いかける。
巨人のキャンプに参加した二宮は、川上監督や別所毅彦投手コーチらの指導の下、順調にプロの水に慣れていく。その後、大洋ホエールズに新人・ヘンリー中川が入団。その俊足ぶりに巨人勢は脅威を感じる。ある夜、二宮はそのヘンリー中川に呼び出され、事前に偵察することについて卑怯者呼ばわりされる。 開幕も近いある日、多摩川グラウンド近くの寿司屋で長嶋と食事をしていた二宮、久保は、花売り娘に身をやつしていた雪子と再会。追いかけるも逃げられる。 昭和36年度ペナントレースが開幕。巨人は中日と対戦し、二宮は見事開幕投手に指名される。そのことを知らない二宮は、ベンチの騒ぎをよそに球場内の食堂で雪子と会っていた。慌てて駆けつけた久保から先発を告げられ、急遽マウンドに上がった二宮はいきなり先頭の中、井上、与那嶺を塁に出してピンチを迎えるが、4番の森徹、5番の江藤慎一を抑えピンチを切り抜ける。プロ入り初打席、バントのサインが出ていたが、二宮は絶好球と思って強打、ホームランを放つ。しかし、ベンチの態度は冷たく、川上は降板、罰金を命じる。しかし「理由がわからない!」と二宮は登板、ピンチを内野の好プレーで救って貰い、チームプレーの大切さを知る。 その後、二宮はヘンリー中川と対戦。一度は敗れるが、その悔しさをばねに打ち取る。 その年のオールスターに選ばれた二宮は、何気なくベンチで発した一言が登板していた国鉄・北川の逆鱗に触れ、そんなに言うなら投げてみろと言われる。全セの三原監督は北川をたしなめつつも二宮に登板を命じ、動揺したまま登板した二宮は7番仰木、8番野村に連続四球の後、豊田に痛打される。しかし、雪子が書いた「母親が見に来ている」と偽りのメモを見た二宮は奮起、魔球を連発して張本、山内、中西のクリーンアップを連続三振。しかし、魔球の投げすぎで肩を傷めてそのまま入院する。見舞いに来た相川は、調子に乗りすぎたこと、捕手のサインを無視したことを厳しく叱責。それがきっかけで雪子の嘘がばれ、二宮は病室を飛び出て何故か川上監督の家へ。川上夫人の配慮で二宮は一時帰省を許される。 戦列復帰した阪神戦で、二宮はその試合が相川の引退試合であることを知り、先発を志願。川上のふと発した一言で誤解し、反抗的な態度に終始するが、ピッチングは冴え渡りパーフェクトに抑える。しかし、肩の異常を見抜いた川上は降板を命じ、拒む二宮を殴り倒して解雇を宣言するが、二宮はこの試合だけはと続投。8回に6番、並木と対戦。藤本監督の野次で動揺した上に、その野次に興奮した久保が退場処分を受けたことに逆上した二宮は死球を与えてしまう。 試合終了後、並木に謝罪して阪神ナインと和解した二宮はその足で送別会に駆けつけ、川上監督と話し合って誤解を解き、素直な気持ちで久保と共に二軍に行く。そこで相川のコーチを受けながら基礎を叩きなおすが、その渦中にひとつのボールが3つに分かれるという新魔球が生まれる。程なく一軍に復帰した二宮は巨人のセリーグ制覇に貢献。日本シリーズでも南海を相手に快投し、宮本敏雄と共に最高殊勲選手に選ばれる。
[編集] 登場人物
- 二宮光
- 主人公。静岡県浜松市出身。旅館の一人息子。優等生だが精神的にもろい一面あり。事情があって母親と別居してクリーニング店を営む叔父の家に寄宿。瞬間空中で止まるという魔球を引っさげ、富士高校のエースとして甲子園出場を果たすも、謀略に巻き込まれて甲子園出場を絶たれる。その後、川上、長嶋の勧誘により中退。
- 昭和36年に巨人軍入団。その年オールスターゲーム出場を果たす。相川捕手の引退試合となった阪神戦であわや完全試合の快投を演じたが、野次に負けて並木輝男に死球を与えてしまう。その試合で肩の故障を見抜いて降板を命じた川上に背き、ビンタを食らう。その後肩の故障のために一時二軍に落ちるも、その間にボールが4つに分かれるという新魔球を編み出して復帰。その年の日本シリーズでは宮本敏雄と共にMVP。
- 翌年は阪神の大田原、中日の寿楽寺陣内などのライバルを相手に活躍する。久保と大田原の賭けのため、背番号を失って戦列離脱。その間に謎の老人の指導を受けて第三の魔球「消える魔球」を編み出す。しかし阪神相手に完全試合を達成するも、一試合に三球までと決められた言いつけを破った為に肩を負傷。その後、母親が白血病で倒れたと知り、次の大洋戦は久保の必死の制止を振り切り、不調を押して登板。桑田武相手の初球に倒れて入院。診断は再起不能。心を鬼にした長嶋の説得で全日本の先発として日米野球に出場。大リーガー相手に完封勝利して最後の登板を飾り、その場で引退。母と再会を果たす。引退後は富士高校の監督に就任。
- 久保田吾作
- 二宮とバッテリーを組む一発長打型の捕手。おっちょこちょいで短気だが好人物。キャンプに参加してテストを受け、エース藤田元司よりホームランを放つもベース踏み忘れでアウト。不合格と落ち込んでいたが、合格。背番号119番をゲット。それは「すぐにかっとなる二宮の火を消して欲しい」という川上監督の思い。
- 公式戦初打席で大洋・秋山登よりホームランを放つ。翌年のオープン戦で新人・柴田勲投手に自信を付けさせるべく、綿を抜いたミットを使ってブルペンで柴田の球を受ける。柴田は見事に復調するも、久保は手を故障して戦列離脱。その最中に大田原と二宮の新魔球をめぐって口論となり、二宮の背番号を賭けてしまう。二宮と共に戦列に復帰し、阪神相手の完全試合では、村山実から三振を喫するも振り逃げで貴重な3点を叩き出す。二宮の肩の故障を見抜き、無理に登板しようとする二宮を制止するも、二宮の母の病気を知って押し切られる。全日本の捕手として二宮とバッテリーを組み出場。二宮の後を追うように品川代表に辞表を出して退団。
- 雪子
- 二宮の従妹。随所で機転を利かせて二宮を支える。家出をして花売り娘をしていたが、偶然多摩川グラウンド近くの巨人びいきの寿司店で長嶋、久保と食事をしていた二宮と再会。その場は走り去るが、その後に中日との開幕戦で試合前に再会。川上監督の計らいで「初代合宿ガール」に任命され、しばらく合宿所に滞在。
- 大田原一郎
- 内野手。阪神入団が決まっていたのにスカウトに来た二宮を欺いて魔球を投げさせ、怒りを買う。久保と二宮の背番号を賭けて見事に新魔球を打ち、二宮は戦列を離脱することになる。
- 寿楽寺陣内
- 大田原を採り損なった二宮、久保が川上の指令を受けてスカウトした釜が崎在住の巨漢投手。しかし、キャンプに向かう急行「西海」の食堂車で、二人が目を離した隙に謎の男が差し出した中日との契約書にサインをしてしまう。事実を知った中日の監督濃人渉はキャンプ地を訪れ、その契約は無効であると認めたが、寿楽寺は尊敬する前年の新人王・権藤博のチームへの入団を希望。川上も了承する。ゴロしか取れないことなどから投手失格、捕手としてデビューする。その試合で二宮が焦って投げたシュートをスタンドに叩き込んだ。
- 寿楽寺ミサ
- 陣内の妹。強烈なおてんばで、陣内が巨人ではなく中日に入り、しかも二軍に落とされたことを知ってロッカールームに乗り込み、二宮をぼこぼこにする。その後、合宿所を訪れ久保と取っ組み合いのけんかをする。その様子を見た別所コーチがミサを二宮のガールフレンドと思い、川上監督に耳打ち、二宮とミサが真っ赤になって慌てる一幕も。暫く合宿所に滞在し、やがて大阪に帰る。
[編集] 「巨人の星」のプロトタイプ?
漫画評論家である夏目房之介は、本作が後の「巨人の星」(1966年〜1971年)に大きな影響を与えていると指摘し、「はっきりいって『巨人の星』は『ちかいの魔球』のいただきです」と述べている。作中に登場する魔球の内容に加え、主人公がジャイアンツ所属の左投げ投手である点、主人公が魔球の開発にばかり執心な点、クライマックスで完全試合達成のために魔球を投げすぎて倒れる点、ライバルのバッターがタイガース所属で長髪が特徴な点など、両作品の内容は非常に似通っている。