21世紀の国土のグランドデザイン
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21世紀の国土のグランドデザイン(21せいきのこくどの-)とは、国土総合開発法(現・国土形成計画法、昭和25年5月26日法律第205号)に基づく第5次の中期的な国土総合開発計画である。目標年次を2010年から2015年までと定め、平成10年(1998年)3月31日に閣議決定された。ことさらに「第五次全国総合開発計画」「五全総」としなかったのは、これまでの国中心、開発中心の国土計画の考え方とは一線を画す意味を込めており、国土総合開発法が国土形成計画法へと名称を変更するなど国土計画行政転換の流れの嚆矢となった。副題に「地域の自立の促進と美しい国土の創造」を掲げている。
目次 |
[編集] 概要
- 策定時期 1998年(平成10年)3月31日
- 目標年次 2010年から2015年
- 基本目標 多軸型国土構造を目指す長期構想(50年程度先)実現の基礎づくり
- 推進方式 参加と連携
- 時代背景
[編集] 特徴的な概念
- 国土軸
- 国土軸とは、文化や生活様式を創造するための基礎的条件である気候、風土、文化蓄積、地理的特性などにおいて共通性を持つ地域の連なりからなり、国土の縦断方向に形成される軸状の圏域のこと。都市と自然のネットワークが重層的に共存し、人、物、情報の活発な交流が行われるところ。
- 国土軸の形成は、地方圏からは交通基盤の整備とも受け取られ、各地域から活発な国土軸の提案がなされた。太平洋ベルト地帯が「第一国土軸」とすれば、それに対する概念として「第二国土軸」が各地の自治体・団体から提唱された。
- これらを踏まえ「計画」では北東国土軸、日本海国土軸、太平洋新国土軸、西日本国土軸の4つの国土軸を挙げ、その形成を目指すとしている。なお、そのカバーする領域はイメージとして示され、4つを合わせると一部の孤島(小笠原諸島等)を除く日本列島が全て網羅される。
- 多自然居住地域
- 豊かな自然に恵まれた地域であり、21世紀の国土のフロンティアとして位置づけ、都市的サービスとゆとりある居住環境を併せて享受できる自立的圏域を形成するとしている。
- 地域連携軸
- 都道府県境を越えた市町村の連携により形成される、軸状の連なりからなる地域連携のまとまり。
- リノベーション
- 過密に伴う諸問題を抱えている大都市において、豊かな生活空間の再生や経済活力の維持を図るため、大都市空間を修復、更新すること。
- リダンダンシー
- (Redundancy)原義は「冗長性」、転じて「代理機能性」。国土計画上では、自然災害等による障害発生時に、一部の区間の途絶や一部施設の破壊が全体の機能破壊につながらないように、予め交通ネットワーク施設を多重化したり予備の手段が用意されている様な性質を示す。
- うみ業
- 地域の活性化を図るために、漁業者等の地域特有の海域に関する知識を活用した釣り・潮干狩り等の遊漁、ダイビング・ヨット等の海洋性レクリエーションに係わる事業や民宿等の経営、地元産の新鮮な水産物と固有の名物料理の提供、水産物の加工・販売等の海に関わる事業を組み合わせた複合産業のこと。五全総において提唱された新しい概念の一つ。
- 五全総の用語解説より
[編集] 目次
- 第1部 国土計画の基本的考え方
- 第1章 21世紀の国土のグランドデザイン
- 第1節 国土をめぐる諸状況の大転換
- 第2節 国土構造転換の必要性
- 第3節 多軸型国土構造の形成
- 第4節 4つの国土軸の展望
- 第2章 計画の課題と戦略
- 第1節 基本的課題
- 第2節 課題達成のための戦略
- 第3節 特定課題とその対応
- 第3章 計画の実現に向けた取組
- 第1節 「参加と連携」による国土づくり
- 第2節 国土基盤投資の計画的推進
- 第3節 制度・体制の整備
- 第1章 21世紀の国土のグランドデザイン
- 第2部 分野別施策の基本方向
- 第1章 国土の保全と管理に関する施策
- 第1節 国土の安全性の向上
- 第2節 豊かな自然の保全と享受
- 第3節 流域圏に着目した国土の保全と管理
- 第4節 海洋・沿岸域の保全と利用
- 第2章 文化の創造に関する施策
- 第1節 ゆとりある生活空間の形成
- 第2節 地域の個性を生かす新しい文化の創造と発信
- 第3節 国内及び国外からの観光の振興
- 第3章 地域の整備と暮らしに関する施策
- 第1節 快適で活力ある都市の整備
- 第2節 多自然居住地域の創造に向けた農山漁村等の整備
- 第3節 暮らしの安全の確保
- 第4章 産業の展開に関する施策
- 第1節 科学技術の振興と「産業創出の風土」の醸成
- 第2節 知的機会の充実による知識財産業等の地域的展開
- 第3節 国際的に魅力ある立地環境の整備
- 第4節 農林水産業の新たな展開
- 第5節 多自然居住地域における産業の展開
- 第5章 交通・情報通信体系の整備に関する施策
- 第1節 交通体系の整備
- 第2節 情報通信体系の整備
- 第1章 国土の保全と管理に関する施策
- 第3部 地域別整備の基本方向
[編集] 評価
計画期間が満了していないので、途中経過になるが、流域圏など第三次全国総合開発計画の流れを受け継ぐ部分も多いものの、「第三次」が「やさしさ」の計画とすれば、「第四次」の本計画は、交通・情報基盤の整備を引き続き進めつつも、「効率の原則」に基づき、地域の創意工夫をいかした自助努力を促す計画であったといえる。
時代背景としても、共産圏の自壊に象徴されるように、世界の一体化、グローバル化が進み、国鉄・電電の民営化が行われ、大都市圏のウォーターフロント開発が続出し、「世界都市東京」の議論が盛んに行われるなど、一極集中をむしろ是とする動きもあらわであった。
こうした状況で、交流をいかした地方圏の自立的活性化を勧められても、その理念には理解は示しても、「国土軸」に何を盛り込むか期待する(つまり国は地方に「何をしてくれる」のか)のが、地方圏としては当然のなりゆきといえた。
[編集] 全国総合開発計画の経緯
全国総合開発計画(全総)-新全国総合開発計画(新全総)-第三次全国総合開発計画(三全総)-第四次全国総合開発計画(四全総)-21世紀の国土のグランドデザイン