超酸
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超酸(ちょうさん、superacid)は、100% 硫酸よりも酸性が強い酸を表す呼び名である。超強酸(ちょうきょうさん、superstrong acid)とも呼ばれる。例えば、トリフルオロメタンスルホン酸 (CF3SO3H、triflic acid とも) やフルオロスルホン酸 (FSO3H) は、いずれも硫酸の 1000倍以上の酸性度を持ち、超酸と呼ばれる。多くの場合では、超酸は 2種類以上の化合物の組み合わせにより高い酸性を実現している。
(注:本項目における酸性の強弱は、酸解離定数 (Ka) やハメットの酸度関数 (H0) の大小に対応している。硫酸に比べ酸性度が 1000倍以上高い、ということは、硫酸に比べ pKa か H0 の値が 3以上小さい、ということを示す。)
「超酸」という用語は、ジェームス・B・コナントが過塩素酸系の酸性を研究する中で 1927年に用いた造語である。元々は従来の鉱酸よりも強い酸を指す用語であった。硫酸よりも強い酸としての定義は、R. K. Gillespie による。
ジョージ・オラーは、超酸を用いて、それまで不安定な化学種とされてきたさまざまなカルボカチオン種を直接観測する手法を確立させ、それらの性質を明らかにした。その業績などから、オラーは 1994年のノーベル化学賞を受賞した[1]。
オラーが開発したマジック酸 (magic acid) は、ルイス酸のひとつである五フッ化アンチモン (SbF5) と、フルオロ硫酸との混合物である。その名称は、クリスマスパーティーで使ったろうそくの蝋を魔法のように溶かしたことに由来する。
現在までに最も強い超酸として知られる系は、フッ化水素 (HF) と五フッ化アンチモンとの混合物で、フルオロアンチモン(V)酸 (fluoroantimonic acid) と呼ばれる。この系では、まずフッ化水素がプロトン (H+) とフッ化物イオン (F-) に分かれ、そのフッ化物イオンが五フッ化アンチモンと強く結合して八面体型アニオン (SbF6-) を作る。このアニオンは塩基性、求核性が非常に弱いため、遊離したプロトンは非常に反応性の高い "free proton" の状態に近づいている。そのような理由で、このフルオロアンチモン(V)酸の系は際だって高い酸性を示すのである。その酸性は、100% 硫酸と比較して約 1016 倍の強さに達する(H0 ≒ −28、硫酸の H0 ≒ −12)。この系に、さらに三酸化硫黄 (SO3) を加えれば、アンチモン上の配位子の組成を変えることができる。
またカリフォルニア大学のクリストファー・リードは、2004年に「単一分子として最強の酸」であるカルボラン酸を報告した(Angew. Chem. Int. Ed., 43, 5352 (2004) M. Juhasz et al.)。炭素1個とホウ素11個が正二十面体型のクラスターを成した構造を持つ。マジック酸などと異なり、フッ化物イオンを出さないために腐食性がなく、様々な用途が期待されている。
[編集] 参考文献
- ↑ Olah, G. A. J. Org. Chem., 2005, 70, 2413.
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