走査型電子顕微鏡
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![走査型電子顕微鏡で撮影された様々な植物の花粉。原図の倍率は約500倍。観察方向(ビームの入射方向)に対して垂直な面は暗く、平行な面ほど明るく見える。陰影の付き方(右上方向が明るい)は検出器の位置による。](../../../upload/shared/thumb/a/a4/Misc_pollen.jpg/180px-Misc_pollen.jpg)
走査型電子顕微鏡(そうさがたでんしけんびきょう、Scanning Electron Microscope、SEM)は電子顕微鏡の一種である。電子線を絞って電子ビームとして対象対象に照射し、対象物から放出される二次電子、反射電子、透過電子、X線、カソードルミネッセンス(蛍光)、内部起電力等を検出する事で対象を観察する。通常は二次電子像が利用される。
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[編集] 原理
透過型のように試料全体に電子線を当てるのではなく、走査型では細い電子線で試料を走査(scan)し、電子線を当てた座標の情報から像を構築し表示する。観察試料は高真空中(10-3Pa以上)に置かれ、この表面を電界や磁界で絞った電子線(焦点直径1~100nm程度)で走査する。走査は直線的だが、走査軸を順次ずらしていく事で試料表面全体の情報を得る。
[編集] 線源
光学顕微鏡の光源にあたるSEMの電子線源(電子銃)には幾つか方式がある。以前は熱電子銃を備えたものが多かったが、現在普及しているものは主に電界放射型(field emission、FE)のものである。これは陰極(冷陰極)に高電圧を印加し、直下の第一陽極によって電子線を加速、続く第二陽極以降で電子線束を制御するものである。FEは熱電子銃と比較して解像度が高く高倍率での観察が可能であり、フィラメント(プローブ)の寿命が長いという利点がある。一方、低倍率観察においては、大電流が得られる熱電子銃の像質がFEを上回る事もある。
[編集] レンズ
加速された電子線(0.5~30kV)は、集束レンズ及び対物レンズで絞られる。レンズといっても光線が可視光ではないので、当然ガラスレンズは用いられない。電子線に干渉できる電場や磁場を利用したレンズが使われる。電子線束を制御する為のレンズには磁界型と電界型があるが、結像制御には磁界型レンズ(電磁レンズ)が用いられる。一方、収差の大きい電界型レンズ(静電レンズ)は電子線の加減速に利用される。レンズで絞られた電子線は走査コイルによって制御され、試料表面を走査していく。
[編集] 情報の検出と画像処理
電子線が試料に当たると、二次電子の放出など様々な現象が起こる。試料から発せられるこれらの信号は検出器で検出され、増幅や変調を経て表示される。TEMの場合は電子線を蛍光板に当てて蛍光を直接観察するが、SEMでは信号の処理結果が像としてディスプレイに表示され、これを観察することになる。SEMの像表示は内部処理を経ているぶんだけ時間差があり、観察点の移動や倍率変更がタイムラグを伴うという欠点がある。逆に信号処理を調節する事で、加速電圧などの観察条件を変更する事なく、観察像の輝度やコントラストを変えられるというメリットがある。
二次電子は等方的に発するので電界をかけて収集し、電荷量を輝度とする。画像の見え方は、入射ビームに対して垂直な面ほど輝度が低くなり、また、とがった部分ほど輝度が高くなる(エッジ効果)。
[編集] 特徴
SEMは光学顕微鏡と比較して焦点深度が二桁以上深く、広範囲に焦点の合った立体的な像を得る事ができる。観察物の外形を把握しやすい一方、対象の内部に関する情報はほとんど得られないので、これはTEMなど他の手段に頼る事になる。ただし、観察物をフリーズフラクチャ(凍結破断)法などで処理すれば、ある程度の内部観察も可能である。
[編集] 利用
回路や半導体部品などの品質チェックの他、適切な前処理を踏むことで生体試料の観察も可能である。細胞のような導電性の低いものを見る場合、試料は予め導電性の物質(白金パラジウム、金など)でコートしておく必要がある。これは二次電子を効率良く放出させる為、及び電子線の余剰エネルギーを逃がし、試料表面の破損を最小限度に留める為である。ただし特性X線を利用した元素分析など、分析用途で用いるSEMではコートを行わない場合もある。
[編集] 参考文献
- 分析機器の手引き 第14版 社団法人日本分析機器工業会 発行
外部リンク