潤滑
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潤滑(じゅんかつ)とは、互いにすべり運動している物体間に、オイルや固体潤滑剤などを供給して、摩擦力や摩耗を低減させる方法をいう。なお、液体潤滑の目的としては、温度の低減や摩擦面からの異物の除去、防錆などを合わせ持たす場合が多い。
一般的な潤滑油による潤滑状態には、物体の表面に吸着した潤滑成分分子により表面が保護される境界潤滑、液体により相対運動する物体が完全に隔てられる流体潤滑、その中間段階である混合潤滑がある。技術論的には、これらの状態を説明するものとしてストライベック曲線という縦軸に摩擦係数、横軸にゾンマーフェルト数という「粘度×速度÷荷重」の次元を持つパラメータを用いた図が知られている。
それぞれの摩擦係数は、境界潤滑において>0.1程度、混合潤滑において0.1~0.01、流体潤滑において<0.01程度となることが知られている。ストライベック曲線の横軸の大きいほうでは、流体潤滑状態での摩擦係数が次第に大きくなっていくが、これは流体のせん断抵抗が大きくなるためである。
境界潤滑から混合潤滑においては物質の表面に吸着する分子の選択が重要であり、流体潤滑においては粘度の調整が潤滑状態を左右する。分かりやすい例として自動車エンジン用のオイルをあげるなら、極圧添加剤と呼ばれる亜鉛やモリブデンなどの金属系化合物を主体とした添加物がシリンダーやピストンリングの表面に吸着して厳しい摩擦状態から母材を保護するのが前者。粘度指数向上剤など、温度による粘度の変化を押さえ、寒い冬の朝から真夏の昼間まで油膜の抵抗が大きすぎたり油膜が切れたりしないようにするのが後者。
なお、潤滑状態の種類として新しく知られるようになったものに、EHL(弾性流体潤滑)がある。これは玉軸受けの潤滑状態が旧来の潤滑理論では説明がつかない事から見出された理論である。分かりやすく言うなら、下記のジャーナル軸受けの説明に出てくる油膜圧力が大きくなると、硬い軸受け鋼の表面も弾性変形して窪みをつくって油膜を保持しやすくなり、油膜面積が広がって面圧を下げることにより良好な潤滑状態を保つというものである。この効果を生み出す運動としては、相対運動をする面が傾いていることによる「くさび膜効果」、面同士が急激に近づくことによる「絞り膜効果」が知られている。もちろん、これらの組み合わせもありえる。柔らかい軟骨を介して運動する生体関節における潤滑や、雨の日に長靴がマンホールの上では滑りやすい、などがその具体例と言える。
なおジャーナル軸受けの潤滑では、軸の回転によりオイルが軸受隙間に引き込まれることによって、圧力が発生し(油膜圧力)、軸と軸受との接触を防止し(流体潤滑状態)、軸・軸受の磨耗を大幅に減少させることができる。
流体で潤滑している時、摩擦力は、流体をせん断する仕事の大きさになるので、低下する。オイルの粘度が高ければ摩擦力は増えるが、厚い油膜ができるので、高回転・高加重まで、金属接触を防ぐ効果がある。
固体潤滑材として、摩擦低減効果の大きいPTFE、二硫化モリブデン、グラファイトなどが使われる。軸受合金中の低融点の鉛なども、固体潤滑材として働くといわれている。