洞窟潜水
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洞窟潜水(どうくつせんすいCave Diving)とは、専門的な潜水装備により洞窟(鍾乳洞や溶岩洞窟など)、泉(セノーテや地下水脈など)、地底湖で潜水することである。ケイビングやテクニカルダイビング(スクーバダイビング)の一種である。
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[編集] 魅力
水中洞窟は、様々な理由によりダイバーをはじめ、生物学者、古生物学者、洞窟学者、を魅了する。
- 洞窟の水没部突破。
- 洞窟の観察、浮遊感。
- 洞窟性植物、洞窟性生物の探索、観察。
- テクニカルダイビングの一環として。
[編集] 危険性
洞窟潜水は、最も危険なダイビングであるとされる。
- オーバーヘッド環境の潜水
- ダイバーは緊急時に緊急浮上が出来なく、出口まで泳がないと浮上出来ない。
- 出口ルート
- 出口までのルートは、充分な残圧量を必要とする。
- 出口までのルートは、ディープダイビングの危険性と問題を抱えるかもしれない。
- 拘束
- 狭洞部分があるかもしれない。
- 視界不良
- 常に光は届かない暗闇。極度な透明度低下を招くかもしれない。
- 方向感覚の困惑
- 迷路状の洞窟は迷いやすい。
洞窟潜水は、もっとも危険なスポーツの1つとして認められる。 命を失ったダイバーの大多数は、専門トレーニングを受けておらず、不十分な器材を使用している。 多くのケイブダイバーは、「洞窟潜水は多くの経験とトレーニングと多額な器材費により安全潜水を得られる」としている。 また、洞窟の崩落事故は非常に希なケースである。
[編集] 安全対策
多くのケイブダイバーは、安全な洞窟潜水をする為に6つの原則を認識している。
[編集] 訓練
トレーニング範囲内でのダイビングは、安全な洞窟潜水に不可欠である。 トレーニングは、洞窟潜水に必要な技術を細分化して行われる。部分ごとのトレーニングは解放環境(海や湖など)で行われた後、暗所、洞窟と徐々に難易度の高い環境で行われる。 各トレーニングを身につけた後に、複合したトレーニングに移っていく。 近年の洞窟潜水の事故分析は、十分な解放環境下でのトレーニングをなされてない場合に起こると証明されたが、洞窟環境下においてもトラブル対処の経験を必要とされる。 長年の洞窟潜水で様々な小さいトラブル対処を行うことは、より安全な洞窟潜水には必要とされる。
[編集] ガイドライン
洞口よりチームのリーダーはガイドラインを持って潜る。
[編集] 水深管理
ケイブダイバーは、適切な水深管理をする必要がある。
[編集] 呼吸ガス管理
空気消費や減圧の管理をする。
[編集] 光源管理
全てのケイブダイバーは、3つのライトを装備している。 1つは主立ったライトで、他2つは予備ライト。
[編集] バディシステム
[編集] 国際的な違い
[編集] 日本の洞窟潜水事情
日本では古くから洞窟信仰があり、主立った洞窟には神社が併設しており御神体として崇められている。 洞窟に入るには、神主、所有者、管理企業、自治体、所轄官庁など多くの関係団体に許可を取る。 一般のケイブダイバーが潜水可能なのは海中鍾乳洞のみになり、その中でも一部の海中鍾乳洞では自治体の管理の元でしか潜水出来ない。
国内では、ケイブダイビングを知らない人が忍野八海(1987年7月16日)、龍泉洞(1962年)、聖穴(1987年)、南大東島、与那国島、高知県、滋賀県などの洞窟で事故を起こしてきた。
90年代に入り本格的な洞窟潜水を海外で習得した洞窟探検家のケイブダイバー(洞窟潜水探検家)により八郎沢の風穴、安家洞、氷渡洞、幽玄洞、弁天様の水穴、大悲の滝、諏訪の水穴、石舟沢鍾乳洞、聖穴、倉沢の水穴、忍野八海、ひめ坂鍾乳穴、諏訪洞、あがり、いやのくち、稲積水中鍾乳洞、岩戸鍾乳洞、金志川泉、友利のアマガーなどと日本各地の洞窟を調査している。
またテクニカルダイバー達が、広部ガマ(沖縄本島)、ヒデンチガマ(久米島)など海中鍾乳洞で潜ってる。未だに独自の方法を用いて洞内のサンプ(完全に水没した洞窟)に潜るドライケイバー(洞窟探検家)も秋芳洞など調べている。
[編集] 特殊器材
テクニカルダイビングにおいて、装備する器材はトラブル時の置き換えや堅牢さなどの安全性とともに効率性が考慮される。
- マニフォルド・ダブルタンクやサイドマウントなど二系統の呼吸源
- バックプレート、ハーネスとブラダによる浮力調整装置(BC)
- キャニスタライトを用いた長時間照明器具、および非常時のバックアップ照明
- リール、スプール、ラインアロー、クッキー
- 幅が広く短いフィン(スクーバプロジェットフィンなど)
これらの器材に、環境や目的に合わせて器材コンフィギュレーションを変更して使用する。
[編集] トレーニング
[編集] カバーン・ダイバー(Cavern Diver)
光の届く範囲で、ラインの伝い方や器材慣れなど基本的なスキルを身に付ける。
- ガス管理
- 洞窟の水深により必要なガス量の計算や1/3ルールの基本概念を学ぶ。
- ガイドラインの使用
- パーマネントラインの読み方や使用方法を学ぶ。
- 陸上のトレーニング
- ライン、リール、スプール、ラインアロー、クッキー、洗濯バサミの意味と取り扱い方を学ぶ。
- コミュニケーション
- 洞窟独自のハンドシグナルやライトサインを学ぶ。
- 視界不良のシミュレーション
- 視界不良の際の対処方法を学ぶ。
- フロッグキック
- 洞窟潜水の基本的なフロッグキックを学ぶ。
[編集] イントロケーブ・ダイバー(Intro Cave Diver)
イントロケーブ・ダイバーは、単調で幅の広い簡単なケイブ範囲で、リールや基礎スキルの復習をする。 侵入範囲は、タンク1本で1/3、もしくはタンク2本で1/6を最大とし、本洞のみを潜り支洞や測洞への移動は行えない。
- 視界不良時のガイドライン使用
- ガイドラインとリールの接続
- ロストダイバーの手順
- 洞内バディブリージング
- バルブのシャットダウン
- シャッフルキックなど
[編集] アプレンティス・ケイブダイバー(Apprentice Cave Diver)
フルケイブダイバーを習ってる方で、日数の関係で途中まで習った見習いケイブダイバーの事である。
[編集] フルケーブ・ダイバー(Full Cave Diver)
フルケーブ・ダイバーは、複雑なケイブに潜る基本スキルを身に付ける。
- グランドドリル
- ラインとラインアローの使用
- 暗闇でのトレーニング
- ロストダイバー手順
- ロストライン手順
- ギャップライン手順
- 様々な推進方法
[編集] アドバンス・ケイブダイバー(Advanced Cave Diver)
[編集] 混合ガス(Mixes Gas Cave Diver)
各洞窟の水深に適したナイトロックスやトライミックスを使用しての潜水。また純酸素などによる減圧潜水。 洞窟内では自然光が届かなく、水温も一定、強制的な水深移動などの為、水深の感覚がつかみ辛く、ナイトロックスなどの酸素暴露限界水深やトライミックスの最小深度限界水深を誤る危険性が高い。 よって混合ガスのトレーニングと別に、混合ガスケイブダイバーの認定講習を設ける団体もある。
[編集] 測量ケイブダイバー(Survey Cave Diver)
ケイブダイビングにおける特殊な水中測量を目的とした技術と知識を身に付けたケイブダイバー。
測量用装備は、
- コンパス
- スレート(水中ノート)
- 巻き尺(リールなど)
- 棒
- 水中カメラ
- ターゲットライト(レーザー発光灯など)
- 電波測量器
- 測図作成ソフト
[編集] リブリーザー(Rebreather Cave Diver)
洞窟潜水に適合した様々なリブリーザを使用して行う洞窟潜水。 一般的にSCRの方が安全とされているが、CCRを使用するケイブダイバーも多い。 またリブリーザは、予備の空気源との考え方もある。
[編集] 水中スクーター・ケイブダイバー(Diver Propulsion Vehicle Cave Diver)
洞内における水中スクーターの特殊な知識と技術を身に付ける。
水中スクーターを使用する利点は、浸入距離の延長や運動量の軽減などが上げられる。
水中スクーターを複数使用した洞窟潜水をアドバンスド・水中スクーターと称するケイブダイバーもいる。
[編集] ステージボトル・ケイブダイバー(Stage Cave Diving)
より深く長い洞窟潜水を目的として、3本以上のタンクを使用したステージボトル潜水。また少量のダブルタンクのみでは一般的なガス量に満たない為に、ステージボトルを装備するケイブダイバーもいる。
通常の使用順序は、
- 行きは、ステージボトルで2/3まで行き、ステージボトルを外して置き去り、更にダブルタンクを使い奥へ進む。
- 帰りは、ダブルタンクが2/3になり引き返し、置き去ったステージボトルを回収して洞口に向かう。
- ステージボトルを増やした場合は、前記要領で順にステージボトルを置き去り、帰りにステージボトルを順に回収していく。
ステージボトルの脱着をする理由は、なるべく抵抗を減らすのと運動範囲を増やす目的がある。
減圧用タンク(デコボトル)を装備したケイブダイビングは、ステージボトル・ケイブダイビングとは呼ばない。 あくまでも洞窟の浸入距離を延ばす目的に使用されるサイドマウント装備されたタンクをステージボトルと呼ぶ。
[編集] サイドマウント・ケイブダイバー(Sidemount Cave Diving)
狭洞や空洞を通過した後のサンプを潜る目的に作られたタンクを両脇に装備サイドマウントで潜る装備方法、知識と技術を身に付ける。 狭洞においては、水中でタンクを脱着して通り抜ける。
サイドマウント装備は、通常販売するBCを改造することにより作成する。もしくは、ウエイトベルトを縫い合わせBCと独立させたタンク専用のジャケットを作る場合もある。
ガス・マネージメントは、サイドマウント独自の方法で行う。 基本的なガス・マネージメントとして、
- 開始圧の高いタンクを左側に、開始圧の低いタンクを右側に装備する。
- 最初に左側タンクの2/3(左右タンクの合計の2/3)使用する。
- 右側タンクにスイッチして2/3(左右タンクの合計の2/3)で引き返す。
- 右側タンク1/3(左右タンクの合計の1/3)で左側タンクにスイッチ。
- 左側タンク使用中にエキジットする。
トラブル時は左側タンクを吸い終わり、右側タンクにスイッチする。
- ※スイッチとは、レギュレータ交換の事で、外したレギュレータは所定の位置に装着する。
[編集] 前提条件
各ランクにより受講前に必要な最低条件が違ってきます。
- カバーンダイバー
- A. ダイバー認定
- B. 16歳以上
- イントロダクトリーケイブダイバー
- A. カバーンダイバー以上(カバーンSPダイバーは除く)
- B. 25本以上のファンダイブ
- C. 16歳以上
- アプレンティスケイブダイバー
- A. イントロケイブダイバー
- B. 18歳以上
- フルケイブダイバー
- A. アプレンティスケイブダイバー
- B. 18歳以上
- 測量ケイブダイバー
- A. フルケイブダイバー
- B. 25本以上のファンフルケイブダイビング
- 水中スクーター・ケイブダイバー
- A. フルケイブダイバー
- B. 50本以上のファンフルケイブダイビング
- ステージボトル・ケイブダイバー
- A. フルケイブダイバー
- B. 50本以上のファンフルケイブダイビング
- サイドマウント・ケイブダイバー
- A. フルケイブダイバー
- B. 50本以上のファンフルケイブダイビング
- カバーンインストラクター
- A. フルケイブダイバー
- B. オープンウォーターインストラクター以上
- C. 125本以上のフルケイブダイビング、15本以上のファンフルケイブダイビング
- D. 2人以上のフルケイブインストラクターによるカバーンコースのアシスタント3回以上
- E. 2人以上のフルケイブインストラクターによる推薦
- F. 18歳以上
- イントロケイブインストラクター
- A. フルケイブダイバー
- B. カバーンインストラクター
- C. オープンウォーターインストラクター以上
- D. 200本以上のフルケイブダイビング、100本以上のファンフルケイブダイビング
- E. 4回以上のカバーンコース開催
- F. 2人以上のフルケイブインストラクターによるイントロケイブコースのアシスタント3回以上
- G. 2人以上のフルケイブインストラクターによる推薦
- H. 21歳以上
- ケイブインストラクター
- A. フルケイブダイバー
- B. イントロケイブインストラクター
- C. オープンウォーターインストラクター以上
- D. 250本以上のフルケイブダイビング、150本以上のファンフルケイブダイビング
- E. 4回以上のイントロケイブダイバーコース開催
- F. 2人以上のフルケイブインストラクターによるフルケイブダイバーコースのアシスタント3回以上
- G. 2人以上のフルケイブインストラクターによる推薦
- H. 21歳以上
- アドバンスドケイブインストラクター
- A. フルケイブインストラクター
- B. オープンウォーターインストラクター以上
- C. 300本以上のフルケイブダイビング
- D. 8回以上のケイブダイバーコース開催
- E. 15本以上の各スペシャリティケイブダイビング
- F. 21歳以上
[編集] 歴史
[編集] 歴史年表
1946年 | CDG設立 |
1950年代 | 洞窟探検家やトレジャーハンターによる潜水 |
1960年代 | レクリェーショナル団体創立ラッシュ |
1968年 | NACD設立 |
1970年代 | ケイブダイビング団体創立ラッシュ |
1972年 | CDAA設立 NSSの洞窟潜水部門NSS-CDS新設 NAUIのTec部門新設 |
1977年 | NACD日本設立 |
1980年代 | 混合ガス潜水の技術がレジャーに進出。 ケイブダイバーによりレジャー向けの混合ガス潜水確立。 |
1985年 | IAND(現IANTD)設立 |
1987年 | PSA設立 |
1990年代 | テクニカルダイビング団体の設立ラッシュ |
1990年 | Cavetek Club設立 |
1991年 | ANDI設立 |
1993年 | 雑誌でケイブなどに混合ガス潜水を導入した分野をテクニカルダイビングとして紹介される。 |
1994年 | TDI設立 |
1996年 | DiveRite-Japan設立 |
1997年 | TDI、IANTD、ANDIの各日本支部設立 |
1998年 | GUE設立 |
2004年 | Halcyon-Japan設立 |
2006年 | NSS-CDS日本設立 |
[編集] 有名な洞窟潜水探検家
- シェック・エクスレー:フロリダを中心に各国の洞窟潜水調査を行い、洞窟潜水の基本概念を確立させた一人。
[編集] 日本人探検家
- 北澤 晃男:日本国内で初の本格的な洞窟潜水を取り入れた人物。NSS-CDS日本事務局長。NACD日本事務局長。CaveteK Club編集長。CDAA・CDGなど世界各国の専門組織の潜水技術を取り入れている。日本人唯一の洞窟専門団体上級指導員。
- 櫻井 進嗣:西日本洞窟潜水研究会主謀。海外出版物を読み独自の潜水技術を研究している冒険家。
- 神保 幹夫:JCC3会員。NSS-CDSの潜水技術を取り入れ洞窟調査をするJCC3のダイバー。
- 安家洞,氷渡探検洞
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- グループ
- ケイブダイビング専門指導団体
- 関連学会