母原病
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母原病(ぼげんびょう)とは、精神科医の久徳重盛による造語である。
1979年、久徳の著書『母原病―母親が原因でふえる子どもの異常』(サンマーク出版 ISBN 4763182196)がベストセラーになった。この本の主張は、子どもの身体的あるいは精神的な病気の多くは、母親の子どもへの接し方に原因があるというもので、「母」に「原」因があるので「母原病」と呼ぶ。
高度経済成長期、オイルショックを経て、当時の子どもを取り巻く状況は複雑化し、現代に通じる様々な問題が起き始めていた。その代表例として不登校(当時は「登校拒否」と呼ばれるのが一般的)の問題があった。久徳は「登校拒否は母原病」と主張し、多くの母親が「自分が悪いのだ」と自責の念に駆られた。
現在ではその説はほとんど事実上の説得力を持たなくなっている。
たしかに、虐待などがあった場合、それは子どもの精神的な歪みにつながる可能性があるが、久徳が指摘する「母原病」はそのような極端なケースではなく、一般的なレベルでの「甘やかし」であるとか、「愛情不足」であるといったもののことを言う。しかし、仮にそうであったとしても、なぜそれが「母」でなければならないのかという疑問が残る。それならば父子家庭の子どもは必ず母原病にかかるのだろうか。また、凶悪犯罪を起こした少年の母親はそんなにも他の子どもの母親と違っているだろうか。さらに、虐待まで対象に含めるとしても、それは母親だけの問題とは限らないはずである。
結局は、「子育ては母親の仕事」とされていた時代に、たまたま問題を起こした子どもの母親だけを見て、久徳自身が男性の立場からそれを判じたのではないか、という批判がある。